記事

朝日「リニア談合解説記事」での一方的「ゼネコン批判」による“印象操作”

2/2

「談合決別宣言後」の「新型談合」?

そして、市田氏は、リニア談合に対して明らかに誤った「解説」を行うだけでなく、「新型談合」という言葉を持ち出し、それを、最近の大手ゼネコン各社をめぐる状況に結び付け、一般化しようとする。

市田氏は、

大手4社が、談合決別宣言を行ったのは制裁を強化する改正独禁法の施行前の2005年12月のことだ。だが、実際には談合との決別は困難だった。

と述べて、大手ゼネコンが「談合決別宣言」後も、談合と訣別できなかったと述べた上、その背景について、次のように「解説」する。

準大手各社の幹部は、1千億円超の大型工事を請け負うだけの技術力、資金力を持つゼネコンとなると、大手4社が中心とならざるを得ない、と指摘する。

官民ともに発注者側には「大手に工事を任せれば安心」との意識が強い。大規模な震災復興工事を請け負う大手ゼネコン幹部は「役所に頼まれてやっている」と述べた。この環境下で、ゼネコン業界ぐるみの以前の談合組織とは違い、発注者との親密な関係をもとに大手4社だけで受注調整する新たな談合が生まれることになった。

そして、「建設業界の談合をめぐる動き」と題する表で、決別宣言直後から談合が繰り返されているかのように談合事件を列挙し、ゼネコン談合が解消されなかったかのような「印象」を与えている。

しかし、大手ゼネコン間で行われた2005年末の「談合決別宣言」は、それまで、談合事件の摘発の都度繰り返されてきた表面的な「談合排除宣言」とは全く異なり、業者間の調整を担ってきた「業務屋」と言われる社員を営業の現場から排除して、談合を行わないことを前提とする営業活動、積算・見積、入札を徹底しようというもので、2006年に入ってから、そのような措置によって営業・受注の現場で価格競争が徹底されていった。実際に、その後、大手ゼネコン間の談合が問題になった事例はなく、今回のリニア談合事件が、談合決別宣言後では初めての事例だ。

上記の「建設業界の談合をめぐる動き」表中の「枚方市の清掃工場の建設工事をめぐる談合事件」は、摘発は2007年だが、入札は2005年で、「談合決別宣言」前だ。「名古屋市地下鉄談合」も、入札は、「談合決別宣言」の直後の2006年2月、談合排除の取組みに着手した直後であり、既に受注調整によって各工区の受注予定者が決まり、工事の準備が開始されていた段階だったため、それをすべてご破算にして、名古屋市の入札に「競争」で臨むことは大幅な工事の遅延を招き、困難だったという事情がある。「決別宣言後の談合」と見ることは適切ではない。

もちろん、最近でも、地方の中小建設業者間の談合や、表にも書かれている道路舗装工事のような若干特殊な分野の工事について専門業者間の談合が公取委に摘発された事例はある。しかし、少なくともゼネコン業界においては、談合決別宣言によって、それまで日本の公共工事のほとんど全てに蔓延していた受注調整が、ほぼ根絶されたというのが、業界関係者や発注官庁側の認識だ。

競争環境の激変とゼネコン各社の受注姿勢の変化

市田氏は、「発注者との親密な関係をもとに大手4社だけで受注調整する新たな談合が生まれることになった。」と述べ、11年の東日本大震災の復旧・復興工事、安倍政権下での公共事業費の増加、20年の東京五輪に向けての首都圏の再開発やインフラ整備の活発化などで、各社が過去最高利益を更新するなど、大手ゼネコンの業績が好調な現在の状況も、大手ゼネコン各社の「新型談合」によるものであるかのように決めつけている。

しかし、民主党政権下での公共投資の抑制やリーマンショック等による建設不況の下で、ゼネコン業界全体が、熾烈な工事の奪い合いをしている状況から、東日本大震災の復旧・復興工事に加えて、自民党が政権に復帰したことによる公共投資の増額、さらには、東京五輪の誘致決定、都市部の再開発の活発化による大型建設工事ラッシュという状態で、建設需要が拡大し、ゼネコン業界全体が需要に対応しきれないような状況へと、建設工事をめぐる競争環境が大きく変化したことに伴い、ゼネコン各社の受注姿勢が変化するのは当然だ。

公共工事が削減され、建設業界が不況にあえいでいる状況では、工事を選り好みしている余裕はなく、受注可能な工事に各社が殺到する。一方、建設需要が増大し、業界全体の施工能力を上回る状況になれば、各社が自社の得意な工事を選別して受注しようとするのは、自然な成り行きだ。超大型工事=大手ゼネコン、一般工事=準大手ゼネコンという「棲み分け」になるのは、発注者側、受注者側の合理的な判断の結果と言える。ところが、市田氏は、それを「新たな談合によるもの」と決めつけるのだ。

「技術的能力という面から、大型工事の受注可能な業者は大手4社である」という認識が発注官庁側と業者側とで共有されることが、なぜ「新たな談合」ということになるのか。「談合」といして批判されるのは、個別の工事受注に関して事業者間に意思連絡や合意があった場合だ。しかし、市田記事は、ゼネコン業界で、業者間の話合いが行われていることの根拠を何ら示すことなく、「新たな談合」という言葉を使っている。

リニア談合は「新たな談合」の「氷山の一角」なのか

市田氏は、「技術提案を加味する選定方法」が導入されたことで、ゼネコン間の談合の立証が困難になっていたが、検察は課徴金減免制度を利用して困難を克服し、「新型談合」の起訴にこぎつけた、として検察捜査を評価する。

そして、リニア事件が「新たな談合」の「氷山の一角」である疑いがあるとし、それを大手ゼネコン各社の一般的な問題に拡張する根拠として持ち出しているのが、「東京外郭環状道路(外環道)」の工事をめぐる「談合疑惑」だ。

同工事は、わが国ではじめて大深度地下領域を全面的に活用し、本線トンネルは全長約16キロ、片側3車線の大断面・長大トンネルであるであることなど、従来の技術では対応できない極めて高度な技術を要する工事であったため、国交省が、学識経験者、関係機関による検討委員会を設置し、スーパーゼネコン等も協力して工法の検討が行われたものだ。「競争」より「官民の共同」によって初めて実現することが可能な工事の典型だ。高度な技術開発が官民挙げての「共同体制」で行われた経過から、4社が受注を分け合うことになった結果を「当然の結果」とみるか、共産党の機関紙赤旗による批判キャンペーンが指摘するように「談合」と見るかは、見方の違いである。

重要なことは、発注者側は「談合などの疑いを払拭できない」として大手4社との契約手続きを中止したが、「4社間の談合」の事実が明らかになったわけではないということだ。

市田氏が評価するように、「技術提案を加味する選定方法」が導入されたことで、談合の立証が困難になっていたのを、特捜部が課徴金減免制度を利用して克服したというのであれば、市田氏がもう一つの「氷山の一角」として指摘する「東京外郭環状道路」の工事をめぐる談合について、大林・清水側は同様に課徴金減免申請をすることになるのではなかろうか。

検察捜査と大林、清水の減免申請によって、リニア工事以外の「ゼネコン談合」が解明されることがなかったのは、市田氏が指摘する「新たな談合」の疑いを否定する事情と言うべきではなかろうか。

「解説記事」による「印象操作」を行うことの問題

市田氏が、ゼネコン談合を批判し、特捜部の捜査を評価・支持することも、それを表現することも自由だ。しかし、それをするのであれば、新聞紙面においては、「オピニオン」として扱うべきだ。

同氏の「解説記事」は、事件の客観的な解説として不可欠な点を殊更に除外し、「新たな談合」などという言葉を用いて、根拠も示さずに、大手ゼネコン各社が談合決別宣言後も談合を繰り返してきたように一方的に批判しているものであり、そこには、客観的な「解説」という外形を装って、「印象操作」を行おうとする姿勢が顕著だ。

このような記事を、「編集委員の解説記事」として、「解説」コーナーに掲載する朝日新聞の編集方針にも疑問を持たざるを得ない。

あわせて読みたい

「リニア新幹線」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    安藤美姫が指導者にならない事情

    文春オンライン

  2. 2

    緊急事態宣言 段階的解除で調整

    ロイター

  3. 3

    台湾の自我 中国と関係薄れたか

    ヒロ

  4. 4

    自民議員 病院名の公表に危機感

    船田元

  5. 5

    家事両立ムリ? テレワークの弊害

    常見陽平

  6. 6

    慰安婦判決 文政権はなぜ弱腰に

    文春オンライン

  7. 7

    原監督と溝? 桑田氏G復帰に驚き

    WEDGE Infinity

  8. 8

    Kokiの大胆写真にキムタクは複雑

    文春オンライン

  9. 9

    絶望する今の日本を歓迎する人々

    NEWSポストセブン

  10. 10

    坂上忍に批判殺到「二枚舌だ」

    女性自身

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。