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朝日「リニア談合解説記事」での一方的「ゼネコン批判」による“印象操作”

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4月23日付けの朝日新聞朝刊の「MONDAY 解説」というコーナーに、全頁に近い大きさで、市田隆編集委員の「リニア工事 ゼネコンを捜査 発注者との蜜月 新たな談合」と題する記事が掲載された(以下、「市田「解説記事」」)。

「解説」のコーナーに掲載されているのであるから、大型の「解説記事」という位置づけなのであろう。そうであれば、取り上げた問題について、明らかになっている事実関係を客観的に記述し、それがどのような法律に違反するのかを説明し、事実関係、法律適用について、当事者からの反論や主張の有無や内容も踏まえて争点を明らかにした上で、筆者の意見を述べる内容になるのが通常であろう。

昨年12月26日に出した当ブログ記事【リニア談合、独禁法での起訴には重大な問題 ~全論点徹底解説~】でも詳細に述べたように、この事件については、独禁法を適用すること、独禁法違反の犯罪ととらえることに関して、多くの問題や疑問点がある。

この事件については、「解説」すべき問題点が数多くあり、十分な紙幅を割いて「解説コーナー」で取り上げるに相応しい案件だと言える。

しかし、市田記事は、「解説記事」と言いながら、一方的な、検察捜査の当然視・評価と、大手ゼネコンの「談合」に対する「批判」に埋め尽くされており、事件の問題点や争点を含めて客観的に「解説」する記事とは到底言えない内容となっている。当然触れるべき法律上の問題や争点、当事者企業の言い分を無視し、関連する事実を、一方的かつ一面的な見方で論じている。このような記事を、客観的な「解説記事」であるかのように紙面に掲載することは、「印象操作」との批判を免れないであろう。

「印象操作」というのは、森友・加計学園問題に関して、安倍首相が国会答弁で多用した言葉だ。野党の国会での追及は、問題の本質に目を向けることなく、「安倍首相の指示・意向」の疑いに単純化され、安倍首相を批判する側と支持する側との議論が全くかみ合わず、「二極化」する状況を作る原因にもなった(【加計学園問題のあらゆる論点を徹底検証する ~安倍政権側の“自滅”と野党側の“無策”が招いた「二極化」】)。そこにも、朝日新聞の報道に対する「印象操作」の批判がある。

リニア談合事件ついての編集委員の「解説記事」における露骨な「印象操作」が、朝日新聞の編集方針によるものだとすると、森友・加計学園問題に関する朝日新聞の報道姿勢に対する「印象操作」の批判とも無関係とはいえないように思える。

「解説記事」として不可欠な内容

リニア談合事件の「解説」として何より重要なことは、この事件で会社幹部に逮捕者を出し、その個人と会社が起訴された大成建設・鹿島のゼネコン2社が、当初から犯罪の成立を強く争っており、起訴された後の現在もその姿勢を継続していることだ。しかも、大成建設は、特捜部の捜査手法に対して「抗議文」まで提出して、徹底して抵抗している(【“逆らう者は逮捕する”「権力ヤクザ」の特捜部】)。

建設業法によって国の監督下にあり、しかも、国から多くの工事を受注する立場の両者が、国家機関である検察の捜査・処分に、ここまで抵抗するのは異常な事態である。そこに、今回のリニア談合事件の特異性があり、「解説記事」であれば、何をさておいても取り上げなければならない点であろう。

そのようにゼネコン2社側が強く抵抗する理由は、本件が、「談合事件」として極めて特異なものだからだ。

従来の談合事件が、刑法の談合罪の処罰対象となる「公共工事」をめぐる談合だったのに対して、このリニア工事をめぐる問題は、JR東海という民間企業が発注者なので、刑法の談合罪の対象ではなく、しかも、上場企業の発注工事に関するものであるところに、従来の「談合事件」との大きな違いがある。

そこで、検察は、「独占禁止法」という法律を持ち出して、同法違反(不当な取引制限)の刑事事件ととらえたのであるが、同法違反は、刑法の談合罪とは異なり、「談合行為」自体を違反とし、処罰の対象とするものではない。「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」が違反・犯罪とされるのであり、「談合」はそのための手段に過ぎない。刑法の談合罪と独禁法違反とでは、違反・犯罪の構造が異なるのである。

しかも、【前記ブログ記事】でも述べたように、リニア中央新幹線工事は、ほとんど全区間にわたってトンネルであり、南アルプスの地下、最深部では1400メートルにも及ぶ深さで、火山や地震の影響を耐えられる構造が必要とされるなど、極めて高度な技術が要求される工事である。高度なトンネル技術を持つ大成建設・鹿島の2社が、90年代から、自然条件や地中の状況についての調査や、それらを克服できる工法の開発を分担して行ってきたもので、そもそも「競争」の余地はない。発注方式も、受注者選定の方式も、そのような工事の特性に応じたものとなっている。大手ゼネコンの技術を結集し、役割分担を行って技術開発を行わなければ実現が困難なものであり、今回のリニア工事をめぐる問題は、独禁法違反の犯罪で処罰しようとすることに多大な疑問がある。日経Bizgate「郷原弁護士のコンプライアンス指南塾」【「リニア談合」の本質と独禁法コンプライアンス】では、独禁法コンプライアンスの基本的視点から考えても、そもそも独禁法で問題にすべき案件ではないことを指摘してきた。

私の問題点の指摘は、90年代初頭の公取委出向時の「埼玉土曜会談合事件」を初めとして、多くの談合事件の摘発に関わり(【告発の正義】ちくま新書:2015年)、2000年代初頭の、自民党長崎県連事件では、ゼネコンの談合構造を背景とする、自民党の地方組織の集金構造を解明するなど(【検察の正義】ちくま新書:2009年)、検事時代に「ゼネコン談合」と闘ってきた経験と専門知識に基づくものであり、業界関係者、工事発者側など、わが国の社会資本整備に関わる者の常識的な見方を法律論、コンプライアンス論として構成したものだ。

ところが、市田「解説記事」は、事件を摘発した検察に対する疑問や批判を一切無視して、ゼネコン談合を一方的に批判しているのである。

独禁法適用に関する公共工事と民間工事の「決定的な違い」

市田「解説記事」の最大の問題は、冒頭で、(東京地検特捜部は)「独占禁止法違反(不当な取引制限)で起訴した。談合があったとされたのは、」などと述べて「不当な取引制限」という独禁法違反を、単純な「談合事件」に置き換え、公共工事と民間工事との間の、談合についての法律的評価の違いを完全に無視していることだ。

「公共工事」においては、会計法、地方自治法等の法令で、発注方式が定められており、発注者側の契約当事者も、発注方式を勝手に決めることはできない。入札が義務付けられていれば、入札によって受注者を決めなければならないし、その入札に当たって、特定の業者が受注するよう意向を示したり、有利な取扱いをしたりすることは、「官製談合防止法違反」となる。

しかし、「民間工事」の場合、どのような方式でどのような企業に発注しようと、基本的には発注企業の自由だ。発注者が、技術的な要素や品質を考慮して、特定の企業を契約先に選定して発注したとしても、基本的には何ら問題はない。その発注者が、入札による業者間の競争で受注者を選定しようとしているのに、その意向に反して、受注業者で話合いをして競争を回避した場合に、取引の規模や市場全体への影響如何では、独禁法違反が成立する「余地がある」、というだけである。

市田氏は、

工事に関与したJR東海元幹部は、品川、名古屋両駅工事が高度な技術力を要するため、大手4社にしかできないと考え、「事前に技術協力してもらいパートナーのようだった」と語る。さらには「工事実績から日名川駅を大林組、清水建設、名古屋駅を大成建設が受注する流れが当然と受け止めていた」と証言し、発注者が、大手同士のすみ分けを許容していた疑いすら浮かぶ。

としているが、リニア工事の発注者であるJR東海が、その施工に高度な技術開発が必要であったことから、発注前の段階から大手ゼネコンに協力を求め、大手ゼネコン同士の「すみ分け」を許容していたのであれば、発注者が許容する「すみ分け」の通りに受注することは独禁法に何ら違反するものではない。

発注者が、「大手ゼネコン同士のすみ分けを許容し」、それに応じて、ゼネコン側が調整を行っていた場合、「公共工事」であれば「官製談合」として、官民ともに処罰の対象となる。しかし、民間工事であれば、発注者の意向どおりに受注者が決定されたということに過ぎず、独禁法違反は成立せず、何ら違法ではないということになる。

もちろん、JR東海に対しては、高度な技術を要するリニア工事の特性から、大手ゼネコン同士のすみ分けを許容せざるを得ないのであれば、それを透明化して大手ゼネコンとの個別の交渉による随意契約をとるべきだったのに、「入札」という「実態に合わない発注方法」を採用していたことについて批判する余地はある。しかし、市田氏のように、発注者側の「すみ分けの許容」自体を、「談合に至る土壌作り」とし、JR東海側に「談合」についての責任があるかのように批判するのは的外れだ。

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