記事

【佐藤優の眼光紙背】イラン危機の深刻さを正しく認識している安住淳財務相と反米カードを弄ぶ玄葉光一郎外相

佐藤優の眼光紙背:第128回

 対イラン政策を巡って、閣内に深刻な不一致が生じている。12日、来日中のガイトナー米財務長官と安住淳財務相が会談し、核開発を強行しようとするイランに対する制裁強化について協議した。この協議で、<日本の原油輸入量の約10%を占めるイラン産原油について、安住財務相は「(10%の)シェアを早い段階で計画的に減らす」と述べ、イラン制裁に協力する姿勢を明らかにした。>(1月12日、MSN産経ニュース)。

 これは、対イラン政策に対する日本政府の方針の大きな変更を示すものである。イランの核開発を阻止するために米国、EU(欧州連合)、イスラエルが行っている路線を日本も支持するという方向性を明確にした。日米同盟を維持、強化する観点からも、安住財務相は適切な方針転換を行った。

 これに激しく反発しているのが玄葉光一郎外相だ。ロシアが安住・玄葉対決に強い関心を示している。13日の国営ラジオ「ロシアの声」(旧モスクワ放送)が、「米国の圧力にしかれている日本」という標題でタチアナ・フロニ名の論評を報じた。以下、全文を引用しておく。

米国は各国がイラン産石油の輸入を削減することを主張しているが、日本政府はいまだ最終決定を取るにはいたっていない。日本政府は石油輸入の10%を占めるイラン産石油について、矛盾する声明を表している。イランの核問題を巡る緊張が高まっていることを背景として、日本は初め、イラン産石油の輸入を拒否することはない、としていた。
 日本政府は自らの立場について、国内での石油の不足が、東日本大震災の被災地域の復興作業に否定的な影響を及ぼすと説明していた。しかし、米国は日本側にイランの石油禁輸の必要性を納得させようとしており、米国の圧力の下、日本の安住財務相は、イラン産石油の輸入を削減する、と発表した。

 最終的に玄葉外相は、イラン産石油についての決定に関しては、当面の間結論を先延ばしにすと発表した。それはイラン産石油の禁輸が日本企業にとって利益とはならない、ということを物語っている。さらに政治情勢にとっても逆風となる。内閣改造を行った野田政権にとって、経済界に不人気となっている措置をとることはできないからだ。

 玄葉外相の発言はおそらく、イランが仲介役6者(ロシア、中国、米国、フランス、英国、ドイツ)との協議再開の用意があると声明を発表したことと関連していると見られる。EUはそれに対し、イラン産石油禁輸の実施を半年間延期することも可能だと述べている。

 経済高等学院のアンドレイ・フェシュン専門家は、おそらくこのような状況のなかで、日本ではロシアからのガスおよび石油輸入の必要性をめぐる議論が高まるだろう、と指摘している。

「日本は政治的には米国の後追いをするしかなく、1945年以来それは代わっていません。今の野田政権も、米国との同盟強化の必要性を強調しています。しかし現在の状況に関しては、日本は、エネルギー供給を多様化させる可能性を有しています。しかもロシア産ガスおよび石油は日本にとって非常に有益なものとなります。それはまず距離の近さということがあります。しかし日本のエリート層のなかには、北方領土問題が存在していることから、ロシアからの輸入を抑える必要があると考えている向きもあります。一方で状況は変化しています。日本がオーストラリア、マレーシア、そしてロシアなどからの石油輸入を強化することもあり得ます。」

 専門家らは、米国が一旦国際社会に対して、イランへの禁輸措置の必要性を理解させようと決心した現在、それはほとんど既成事実に近いと考えている。来週には米国は日本と韓国に代表団を派遣する見通しだ。日本は強力な米国の圧力の下にあり、それによって自らのエネルギー供給先を多様化させるほかはないだろう。http://japanese.ruvr.ru/2012/01/13/63786067.html
 「ロシアの声」は、国営放送なので、ロシア政府の見解に反する見解を報じることはない。この論評はロシア側が日本政府の方針転換が、米国の圧力に屈したという見方を示しているが、実態は米国の圧力というよりもイランの核開発をめぐる国際情勢の緊張を安住財務相が等身大で認識したからである。米国だけでなくEU諸国もイランの石油禁輸に舵を切った背景事情を玄葉外相はまったく認識していない。

 玄葉外相は、イラン問題に関して米国に対して毅然と異議を申し立てる反米カードを弄んでいる。外務官僚、特に主流派のアメリカ・スクールは、その危険を十分認識しているが、人事権を握っている玄葉外相の機嫌を損ねることを恐れている。外務官僚、玄葉外相が国益を体現した外交を展開していないので、安住財務相、さらに米国やEUの現状を正確に理解している財務官僚が、国益を保全するために軌道修正を図っているというのが真相だ。

 安住・玄葉抗争では、安住財務相が勝利する。ロシアもそのことをよく理解している。「ロシアの声」は、<専門家らは、米国が一旦国際社会に対して、イランへの禁輸措置の必要性を理解させようと決心した現在、それはほとんど既成事実に近いと考えている。>と述べているが、これがインテリジェンスの世界における共通見解だ。「ロシアの声」は、<来週には米国は日本と韓国に代表団を派遣する見通しだ。日本は強力な米国の圧力の下にあり、それによって自らのエネルギー供給先を多様化させるほかはないだろう。>と予測するが、筆者もこの予測は正しいと考える。ロシアはこの論評を通じて、日本のエネルギー供給先となる用意があるというシグナルを送っている。(2012年3月14日脱稿)

プロフィール

佐藤優(さとう まさる)
1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。 2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に「予兆とインテリジェンス」(扶桑社)がある。

トピックス

ランキング

  1. 1

    コロナは若者に蔓延? 医師が仮説

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    秋篠宮夫妻 公用車傷だらけの訳

    NEWSポストセブン

  3. 3

    斎藤佑樹からの連絡「戦力外?」

    NEWSポストセブン

  4. 4

    医師が語る現状「医療崩壊ない」

    名月論

  5. 5

    貯金がない…京都市を襲った悲劇

    PRESIDENT Online

  6. 6

    なぜベーシックインカムに反対か

    ヒロ

  7. 7

    飲食店のBGM 感染を助長する恐れ

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  8. 8

    昭和の悪習 忘年会が絶滅する日

    かさこ

  9. 9

    宗男氏 桜疑惑めぐる報道に苦言

    鈴木宗男

  10. 10

    コロナ起源は輸入冷食 中国主張

    ロイター

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。