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世界から取残され迷走する日本企業が今掲げるべき道標とは

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■進化型組織「Teal」が起死回生のヒント?

今の日本の組織の典型的な問題は、複雑で官僚的な組織がガン細胞のようにはびこり、前例主義等の保守主義が新しいチャレンジを阻むようになってしまっていることだろう。そして、組織内で権力者は、近親者や仲間、あるいは子飼いの部下ばかりを優遇し、既得権益や権力を守ることに汲々としている。企業の成長が止まり、先行きが不安になり、利益のパイが先細りであることは本音のところわかっているから、小さなパイを争って組織内は小競り合いが激しくなる一方だ。

組織が問題なのは、日本だけではない。株主の意見が強すぎて、あまりに短期業績ばかりで評価される米国型の組織も、会社の将来を見越した長期投資ができず、一部の経営者に権力が集中して、報酬も極端な上下差ができて、一般労働者の賃金は下がり続け、今や企業内だけではなく、国自体が分断されようとしている。ある意味、世界は国家であれ、企業であれ、組織が病み、試行錯誤を重ねても良い方向に行かずに混迷し、泥沼にはまっていると言っても過言ではない。

企業であれば、提供するモノであれ、サービスであれ、より良いものを提供することが本来の目的だったはずだ。まさにかつてのソニーのように、世界でまだ誰も見たことがないものを世の中に出していく、そのことを他の何よりも優先し、目標に据えて邁進していれば、従業員の意欲やパーフォーマンスは向上し、顧客満足度は上がり、その結果、経営者の評価も高まり、株価も結果として上がるというプラスのスパイラルが期待できるはずだ。

だが、抽象的な決算数値だけを評価軸にしていると、従業員の熱は冷め、顧客は企業から遠ざかり、結果的に経営者の評価も株価も下がってしまう。そして、経営者は管理と保身に走る。ソニーの歴史を辿っていると、上下両方の典型的な事例を見つけることができる。

もう世界には、かつてのソニーの良い部分を彷彿とさせるような企業や組織はないのだろうか。社会に提供するモノやサービス自体を経営者のエゴより優先させて、権限が現場に委譲され、それでいて業績も良い会社、それは望むことはできないのだろうか。

いや、どうやらそんなこともなさそうだ。まだ知る人ぞ知る存在だが、「Teal」という組織のことはご存知だろうか。最近日本でも、これを解説する本の訳書が出版されて、一部の人たちに圧倒的に支持され、研究されている。

*5 これは、一言で言えば「一人一人が意思決定して信頼だけで成り立つ進化型組織」ということになる(もっとも一言で言うのはかなり無理がある)。本書の宣伝コピーには、「上下関係も、売上目標も、予算もない!? 従来のアプローチの限界を突破し、圧倒的な成果をあげる組織が世界中で現れている。」とあって、私など、あまりに理想を追いすぎていて、かえって現実味がない印象を与えてしまうことを危惧してしまうのだが、そこまで極端ではなくても、「企業トップや経営者がいても、コストのかかる官僚組織を作って権力を振るうのではなく、その企業の理念を実現するための企業文化の醸成や緊急時の経営判断や調整に注力し、普段は可能な限り現場に権力を委譲して、自主管理に任せるというタイプの企業」とやや定義を柔軟にすれば、すでにいくつかの事例は知られている。

ネットの情報を漁って見ると、靴のネット通販会社ザッポスや アウトドア衣料などを扱うパタゴニア等がTeal組織の理念に近い例として紹介されている。ザッポスは、アマゾンが屈服した会社として昨今では喧伝されているが、CEOのトニー・シェイ氏は、長期的なビジョンを「市場の顧客サービスとエクスペリエンス(体験)を提供すること」として企業文化やコア・バリューをつくることを何より重視し、それが、顧客、社員、取引先、そして最終的には株主に幸せを届けることにつながると信じていると述べている。

パタゴニアも環境への配慮を中核的な価値に据え、自身サーファーでもある、CEOのイヴォン・シュイナード氏は、「社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論」という著書でも話題になった人だが、Teal組織の特徴である、「崇高な目的、意思決定の分散、個人の全体性、自己管理、進化を続ける目的」等、確かに以前より彼が経営理念として据えていた要素と重なっている。波が良ければサーフィンに行ってもいいが、そのかわり自己で時間を管理し、仕事は責任を持って行うことを求めているわけだ。

このTeal組織のコンセプトを読んで見ると、かつてのソニー自体、この組織の類型にかなり近い経営を行なっていたことがわかってくる。そんなことが可能なのか?というのは、私自身の最初の疑問でもあったわけだが、成功事例はすでにかなり出て来ているし、世界は(特に今の日本は)全力でこの方向を目指すべきと思えてくる。

ただ、そのためには、少なくとも当面は、企業が提供するモノやサービスを良くすることを第一として、企業を自分の権力欲や自己顕示欲を満たすための道具にしないリーダーが不可欠だし、従業員もその思想を理解し、受け入れる人が多くないと維持出来なさそうだ。

ザッポスも、パタゴニアも、CEOが率先して企業文化を醸成することに尽力して来たのもそのためだ。では、このような組織を持つ企業を増やして、主流としていくためには、具体的にはどうすればいいのか。まだ探求すべきことは多そうだ。だが、いずれにしても今世界がはまり込んでしまっている問題への回答、あるいはヒントがここにあるように私には思える。

■Teal組織が主流となる必然性

昨今の日本の若手の企業経営者は、従来の経営者と比較するとかなり違って見える。昭和の経営者のように、能力もあってエネルギーも旺盛だが権力欲や自己顕示欲がその源泉となっているのが見え見えのタイプは少なくて、社会を良くしたいということ自体が目的で、本人は名誉欲もあまりなくてサバサバしているタイプがとても多い。

また、今、話題になっているブロックチェーン技術は、中央管理がなくても、そのシステムが維持/運営できるようなインフラとなろうとしている。視点を変えれば、日本でも、Teal組織に移行すべく準備が進んでいるようにさえ思えてくる。

biotope代表取締役兼チーフストラティジックデザイナーの佐宗邦威氏がその辺りを非常に的確に語っている。将来的にどのような企業組織が主流になるのか、そのイメージの一端を垣間見ることができるコメントだ。

Teal型組織で提唱されている自己組織化する組織とは、インターネットによって可能になった自律分散型の世界観に応じて可能になった、組織という人間の集団での動き方のイノベーションの試みと言えるでしょう。

インターネットによって、リナックスやMozillaなどのオープンソースが哲学になったコミュニティ型の組織が生まれ、そこでは中央で強いガバナンスを持たずに、明確な目的やミッションの元に、場のルールや環境、組織文化をデザインすることで、その場・プラットフォームを繁栄させるという、新たな組織のあり方が可能になってきました。

このような組織においては、顔の見えるビジョナリーなリーダーは必要ありません。中空構造の組織というところが、今までの組織と一線を画す部分です。 medium.com

日本人はソニーという学びの多い歴史を持っているのだから、まず、これをしっかりと勉強して、平成という「失敗した時代」を繰り返さないよう、次の時代を本当に良くするために、準備を始めるべき時が来ている。未来は明るくできるし、そのためにできることは沢山ある。

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*3:

修養団 - Wikipedia

*4:

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修養団 みそぎ研修 修養団は伊勢に神都国民道場というものを持っていて[30]、 日本の企業が自社の新入社員に対して愛社心を養生するために伊勢の五十鈴川での「」を提供している。修養団が、大手企業に提供し...
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