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もう一つの大型ディール、孫正義の転機

孫正義氏にとってアメリカ通信大手スプリントの買収はあまりうまみがなかったと思っているかもしれません。孫氏の頭脳で描いていた当初の青写真は同業のTモバイルを買収し、アメリカ通信業界のトップグループに食い込むシナリオでした。

それは日本が通信大手3社という激しい競争の中でソフトバンクが着実に果実を手にしたその経験則と重なっていたこともあるでしょう。しかしながら日本国内では通信事業は飽和状態。そこで次の拡大戦略地域をアメリカにしたところに孫氏の野望が見て取れます。

一般的企業ならアジアやインドあたりに行くのが普通でしょう。事実NTTはインドに傾注しました。それは経営のビジョンの違いでもあります。新興国であれば市場拡大の余地があり、ビジネスチャンスがあり、投資の定石であります。これは取締役会や株主、銀行に最も説明しやすいパタンとも言えます。

一方、孫氏がわざわざ成熟市場のアメリカに向かったのは通信を介してIOTなりAIなりゲームなり次の展開を図るための試金石であったのでしょう。つまり、スマホの機能の圧倒的成長を目指し、誰も追いつかないビジネスモデルを確立させる野望があったと私は想像しています。

が、ライバルのTモバイルの業績がその頃から急激に改善します。Tモバイルの株主はドイツテレコムでドイツの威信もあり、孫氏が率いるスプリントに対峙します。当然ながら孫氏が仕掛けるTモバイル買収交渉も苦戦します。その上、当時、オバマ大統領がその合併に難色を示したとされます。理由は「(携帯会社間は)3社ではなく4社のより健全なる競合状態が望ましい」ということでした。

ところがトランプ大統領に代わってからこのスタンスや若干変化します。つまりアメリカ連邦通信委員会を口説き、合併承認を取れる機運ができたのでしょう。これは孫氏の「仕掛け」が影響しています。孫氏が主導する10兆円ファンドのうち5兆円をアメリカに投資し、5万人の雇用を創出すると囁くために大統領就任前のトランプ氏に16年末に会談したのは衝撃的でもありました。私はここでチャンスを与えられたのではないか、とみています。

そこで17年にTモバイル買収の第二回目交渉に臨みますが、これも失敗します。もうだめか、と思われた今回、孫氏はまさかと思った経営権にこだわらない合併を提示したとされます。いわゆる譲歩案です。ブルームバーグの憶測記事では合併新会社においてドイツテレコムの持ち分は42%にもかかわらず議決権は69%を持つ、となっております。つまり、ソフトバンクは経営に一定の口出しはするが、持ち続けることによる果実を得ることに舵を切ったように見えます。

個人的には孫氏はアメリカ携帯事業については一旦、経営を任せ、その間に孫氏がもっと注ぎ込まねばならない案件に傾注するというスタンスではないかと思います。孫氏はあらゆるところに種まきをしていますので様々な案件の芽が出てきている可能性はあります。となれば、即座の戦略的経営を臨むのはスプリントではなく、ほかの新規案件ということでしょう。勿論、トランプ大統領との「お約束」もあります。

これを日経などメディアがどう評するか、これが私にとって楽しみなところであります。希望を言わせていただければ「押し引きの絶妙さ」とポジティブに書いていただきたいと思います。皮肉にとれば「瀬戸際ディール、孫氏の譲歩」とも書けますが、これはビジネスを知らない人の評論家論調です。

事業においていつも100点が取れるわけがありません。70点が及第点だとしたら赤点が2-3割はあるものです。80点もあれば90点もある、それが事業であって落第点を及第点に改善する努力をする選択もあればその単位を捨て、落としてしまう、というのも選択もあります。超優良企業とはほとんど全部95点以上で主席卒業ですが、孫氏はそんなことは考えていないと思います。ギリギリの卒業単位で足りたその成績表はAAAやB、Cもあるけれど強みは絶対に譲らないことでしょう。

このゴールデンウィークはディール真っ盛り。中には富士フィルムのゼロックス買収が暗礁に乗り上げる衝撃ニュースも入ってきています。ビジネスゲームファンとしてはしばし目が離せない状態になりそうです。

では今日はこのぐらいで。

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