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台湾立法委員選挙の概説 - 菅原琢

台湾では2012年1月14日に、総統選挙と国会に相当する立法院の委員選挙が行われる。日本では中国国民党の馬英九総統に、女性のリーダーである蔡英文・民主進歩党主席が挑む総統選への注目が圧倒的に高いが、制度や歴史を見ると立法委員の選挙も非常に重要である。日本では立委選についての報道が少なく、あったとしても特殊な候補を取り上げる断片的なもので、大多数の人は結果だけを受け取ることになるだろう。そこで今回は、台湾の政治制度と立委選について概説しておきたい。

なお、筆者は台湾政治の専門家ではなく、今回の記事でも政治制度、とくに選挙制度の解説と分析を中心に記述する。政局等、詳細な選挙戦の経過については、小笠原欣幸東京外国語大学准教授のウェブサイト(http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/ogasawara/index.html)や財団法人交流協会発行の雑誌『交流』(http://www.koryu.or.jp/ez3_contents.nsf/27)に隔月掲載の石原忠浩政治大学国際関係センター助理研究員の記事などを参照されたい。また、本文で用いたデータは中央選擧委員會(http://www.cec.gov.tw/zh_TW/index.html)から入手した。

■台湾の政治制度

台湾の政治制度は、大統領に当たる総統が中心となっており、その周辺に5つの院(行政院、立法院、司法院、考試院、監察院)が置かれている。このうち総統・行政院と立法院の関係が、台湾の政治を特徴づけている。
 
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総統は、首相に当たる行政院の長を任命し行政を執り行わせる。この際、立法院の議決は不要である。このような制度は、議院内閣制とも大統領制とも異なる制度として半大統領制に分類される。大統領制に対する誤解同様、台湾の総統も強力な権限を有していると思われがちである。しかし、予算案や法律案は立法院での賛成を得なければ予算、法律とはならない。また、立法院は行政院長の不信任決議を行うことができ、可決された場合に行政院長は辞職するか、あるいは総統に解散を求めることになる。この点は、いつでも解散できる日本の首相とは異なる。敷居は高いが、立法院は総統罷免の国民投票の実施を決議することもできる。つまり立法院の支持がなければ、総統は多くのことを実行できない。

多くの議院内閣制の国では、行政府の長である首相は同時に強い議会基盤を持つ政権与党の代表者でもあるため、行政府と立法府が決定的対立となることは少ない。日本のように二院制を採用し、一方の院の基盤が脆弱な政権与党の場合には政治決定の遅滞が起こる。そして、台湾の場合、同じようなことが総統の所属政党と立法院の多数派が異なった場合に起きる。実際、民進党の陳水扁総統の時代には、立法院の過半数を民進党側が握れず、国民党とその友党の攻撃に晒され続けた。したがって今回の選挙も、総統がどちらになるかだけでなく、立法院の構成がどうなるかが重要なポイントとなる。

■立法院の選挙制度と政党制
 
立法院の選挙制度は、日本の衆院と同様に小選挙区比例代表並立制で行われている。総定数は113で、そのうち34を比例区で選出する。比例区は全国単位であり、5%の阻止条項が設けられている。すなわち、5%以上の得票率とならなければ議席の配分を得ることができない。残り79議席のうち73議席が小選挙区で選出される。6議席は山地、平地の2つの原住民選挙区に割り振られており、日本の中選挙区と同様に候補個人の得票順に議席を配分する。
 
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現在の選挙制度が導入されたのは前回2008年の第7回選挙からで、このときは8年間の陳水扁時代の政治的混迷に対する不信任投票という意味合いも含め国民党が圧勝し、小選挙区・原住民選挙区の79議席のうち国民党は77%の61議席を獲得している。また比例区で5%の敷居を突破して議席を得たのは二大政党のみであり、国民新党が20議席、民進党14議席となっている。

比例区の結果から明らかなように、台湾では国民党、民進党の二大政党への支持率が他党を圧倒しており、大部分の小選挙区では両党の公認候補もしくは友党の候補が争っている。有力な小政党には、親民党と新党があるが、どちらも立法院では国民党と同一歩調を取り、国民党のイメージカラーから「泛藍連盟」と分類される。一方、民進党を中心とする政党グループは「泛緑連盟」と呼ばれる。こちらには李登輝元総統を支持し国民党を離党した台湾団結連盟が含まれることが多いが、民進党との仲は安定せず、前回選挙では議席を得ることができず泡沫政党化している。

■選挙区の定数不均衡

現在の選挙制度に変更される際、立法委員の定数が224議席から113議席とほぼ半減となっており、原住民選挙区を除く選挙区の選出議員数は168議席から73議席と4割に減らされている。その一方、人口の少ない島嶼部の県にも必ず1議席が割り当てられたため、選挙区間の著しい定数不均衡が生じている。

図2は、前回選挙における選挙区別の議員一人当たり有権者数を左から高い順に示している。これを見ると、ほとんどの選挙区が20万人台に収まっているのに対して、極端に有権者数の少ない選挙区が散見される。有権者数7655人の連江県、6万3千人の金門県はいずれも中国大陸に近い位置にある台湾領の島である。7万1千人の澎湖県はフィリピンとの間にある島である。原住民選挙区も5万人強の議員一人当たり有権者数となっている。

台東県以下の6選挙区10議席の内訳は国民党6議席、無党団結連盟2議席、親民党1議席、無所属1議席であり、国民党以外の議員も国民党寄りとされる。このため、泛藍連盟は定数不均衡によって大きく得をしているように見える。

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ただし、議員一人当たり有権者数に応じて議席数を可変させ、定数不均衡の影響を除いた補正議席数を計算しても、泛藍連盟の議席はほとんど減らない。73の小選挙区のうち13議席しか獲得できなかった民進党の補正後の議席数は13.9議席であり、藍と緑の差は2議席程度縮まる程度である。(計算方法の詳細は、拙著「自民党政治自壊の構造と過程」御厨貴編『変貌する日本政治―90年代以後「変革の時代」を読みとく』(勁草書房、2009年)を参照されたい)。都市と農村で支持傾向が変わる日本とは異なり、国民党の勢力は都市部でも強いのである。

■今回立委選のポイント

前回選挙で民進党は大敗したが、その後の立委補選や首長選挙では復調しており、前回以上の議席を獲得することは確実である。民進党の基盤は南西部で、図2に示したように前回選挙でも数少ない小選挙区の議席を古都である台南市と台南県、台湾第2の都市である高雄市と高雄県、隣県の屏東県、嘉義県などで獲得している。これらの地域では、今回かなりの議席を確保するとみられる。

一方、国民党の基盤は北部、東部、島嶼部、そして原住民選挙区である。したがって焦点は、台中市など中西部と、台北市、新北市の両党の支持が拮抗している中間的な選挙区となっている。

民進党が南西部で強い勢力を有しているのは、大陸から逃れた国民党が北部に拠点を置き、外省人も主に北部に移住したことが背景にあるとされる。国民党政権は北部中心に産業政策やインフラ整備を行ったという反発は南部で根強い。民進党結党に大きな影響を与えた美麗島事件は高雄市で起きている。

また、今回の選挙の見どころの一つは、親民党主席の宋楚瑜が総統選に立候補したことである。宋楚瑜は国民党を離脱して2000年総統選を戦い、親民党を結成した経緯があるが、前記のように近年両党は協調関係を築いていた。2004年の総統選で副総統候補として国民党と共闘し、前回立委選でも国民党と選挙協力を行い、親民党の候補の多くが国民党候補として立候補し、あるいは国民党の比例名簿に登載されて当選を果たしている。今回はこの協力関係を見直し、比例区にも名簿を提出している。

宋候補は、総統選では2候補に大きく引き離されている。しかし、総統候補であるためメディアではその発言が連日取り上げられており、立委選での親民党の存在感と集票には寄与していると思われる。比例区の親民党得票率が5%を超えた場合には全体の結果次第でキャスティングヴォートを握ることになる。5%を切った場合にはその分が死票となるが、前回であれば国民党に入っていた票、および国民党と同一歩調を取るであろう議席が消えることになるので、国民党には不利となろう。

台湾の政治と選挙は、日本の政治を考える上でも参考になる点が多い。たとえば陳水扁政権の混乱は、日本で言えば政権交代とねじれ国会のようなものである。このとき行われた立法委員の定数削減は民進党の党内対立を激化させたが、今の日本の国会議員の定数を減らそうという動きは、同様の効果を持つかもしれない。当然、全く異なるところも多々あるが、そうしたところも含めて参考材料を持つことは、混迷とされる日本政治にとっては必要なことではないだろうか。

■本日の一冊

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陳水扁総統時代の台湾の政治状況についてまとめた研究書。総統と立法院の関係、民進党内の派閥対立、政治とカネの問題など、民主主義が定着した台湾政治で明確となってきた問題点について整理し、考察している。

菅原琢(すがわら・たく)/記事一覧
1976年生まれ。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授。専門は政治学(政治過程論、日本政治)。著書に『世論の曲解――自民党はなぜ大敗したのか』(光文社新書) など。

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