記事

イラン攻撃強硬派VS慎重派

[画像をブログで見る]

米国では対イラン攻撃強硬派と慎重派が論戦を交わしています。皆さんはどちらの意見を支持しますか?

元・米国務省のスタッフで、現在ジョージタウン大学准教授のマシュー・クローニグが米外交専門誌『フォーリン・ポリシー』に「Time to Attack Iran:Why a Strike Is the Least Bad Option」というエッセイを寄稿しました。彼は強硬派ですね。概ね下記のような主張を展開しています。

Time to Attack Iran:Why a Strike Is the Least Bad Option 
By Matthew Kroenig

  • イランの核武装は、最悪である。
  • 対イラン攻撃にかかるコストを恐れて戦争を拒否すれば、核武装したイランが核戦争によって米国の中東におけるイニシアティブを脅かす
  • 中東地域では、米国の決意を疑い、イランへ忠誠を誓おうとしている国もある
  • また、イランのライバルであるサウジなどは核兵器の保有を目指し、地域に軍拡競争が発生する。


  • もちろん、核武装したイランがあえて自殺的な戦争を起こすことはない。しかし、イランとイスラエルの不安定な核のバランスは、やがて制御できずに拡大し、核戦争を招きかねない。
  • 抑止戦略は高くつく。中東地域へ海・陸上戦力をはりつけ、インテリジェンス(情報活動)のためのアセットを配備し、核戦力さえ動員しなければならないかもしれない。多大な経済的負担が強いられる。


  • 攻撃反対者は、イランの重要施設の正確な位置が分からない、と指摘する。しかし、米国のインテリジェンスは有効に機能しており、ナタンツやゴムなどの既知のもの以外で米国に知られずに稼働している核施設はない。
  • 攻撃反対者は、核施設はイランの国中に分散し、地下に建設され、防空システムが配備され、施設周辺には一般市民の居住区があり、空爆によって多くの人命が失われることを指摘する。しかし、イスファハン、アラク、そしてテヘランといった予防攻撃の対象となるものは限定的で、そこにある施設は地上にあり空爆にも脆弱である
  • ナタンツの地下施設はコンクリートで堅固に掩蔽され、防空システムを配備しているが、米軍のバンカーバスターには耐えられない。
  • ゴムの施設は山岳地奥深くの地中に建設されており、攻撃は困難であるものの、まだ使用可能ではないため、予防攻撃の対象に含まなくてよい。
  • 民間人への被害も、精密誘導兵器によってかなり制限できる上、犠牲者の多くは軍人、または核施設の技術者、科学者である


  • 米国の作戦対象がイランの体制打倒ではなく、核施設破壊のみに限定すれば、イランの報復意思も緩和されるだろう
  • イランの核の脅威を取り除くことを約束する代わりに、イスラエルが攻撃に関与しないようにすることも重要である。
  • 攻撃反対派は、空爆が一時的な効果にとどまり、やがてイランは核開発を再開すると主張するが、核施設が破壊された国(最近ではイラクとシリア)は、核開発計画を再開する意思、もしくは能力を失った


  • 核武装したイランは、いずれ米国に通常戦争か核戦争かを突きつける存在となる。今、イランを攻撃することによって、米国が将来直面する危機を取り除くことができる

イランの核開発が核技術の拡散や中東地域の核開発競争を誘発するという懸念には私も同意です。実際、クローニグのエッセイは、フェイスブックで1,000件の「いいね」がついていますね。しかし、それに比例するかのように相当数の批判コメントも寄せられています。クローニグの見解は攻撃の結論ありきの議論ですから、米国内で異論が出るのは当然です。中でも、リアリストとして名高いハーバード大学教授のステファン・ウォルトは現時点でのイラン攻撃に関しては慎重派で、次のようにクローニグを論駁しています。

The worst case for war with Iran
By Stephen M. Walt

  • 予防戦争を正当化する古典的方法がある。
  • 第一に、危機が差し迫ったもので、増大しつつあると描写し、今行動を起こさなければ将来恐ろしいことになるのだと人々に信じさせる。(イラク戦争前夜にも見た光景だ)
  • 第二に、戦争のコストと危険性は大したものではないと説得する


  • クローニグのエッセイは、完全にこのやり方だ。彼は、「イランは断固として核武装する決意があると仮定し、まもなく最後の一線を越えようとしている」と主張する。イランには何十年も核計画がありながらいまだに核兵器を保有していないことや、2007年と2011年のIAEAの査察において核兵器を追及しているという決定的な証拠がないことなどは無視している。


  • クローニグはさらに、「イランが核武装すれば地政学的に広範囲な影響がある」と根拠もなく断言する。例えば、「いくつかの国はテヘランに忠誠を寄せ始めている」と彼は言うが、ひとつの事例も上げていない上、イランの核開発との関係も説明していない。
  • それから、「核武装したイランは核戦争によって米国の中東におけるイニシアティブを脅かす」とも断言している。もしそうであるなら、なぜ旧ソ連は同じことを冷戦中行えなかったのか、なぜ今日の核保有国は米国のイニシアティブを脅かすことができないのか?理由は単純だ。自殺願望でもない限り、米国と核戦争することなど馬鹿げているからだ。そして、イランはクローニグが認める通り、自殺しようとはしていない
  • 核兵器は、自国領土(または非常に近い同盟国領土)への攻撃を抑止する手段としては効果があるが、恐喝的・高圧的外交手段としては機能しない


  • クローニグはイランの核武装が周辺国の核武装を誘引するとも警告する。しかし、イランは自らの核武装によって引き起こされるかもしれないこの事態を認識しており、それがために核武装を思いとどまっている


  • また、攻撃ではなく抑止を選べば、「米国は中東地域へ海・陸上戦力をはりつけ、核戦力さえ動員しなければならない」とクローニグは言う。しかし、封じ込め/抑止戦略によって米国の防衛負担が増えることはない。ペルシャ湾はすでに「米国の湖」であり、抑止のための核戦力も今のままで十分である。


  • クローニグは学術的なアプローチによる分析をせず、「戦争を拒否することが平和よりも危険な状態をもたらす」という印象論を展開する。
  • 彼は戦争を正当化する際には、イランの能力は危険で凶悪で今すぐどうにかしないと手遅れになると訴える。ところが、戦争が始まると、イランの軍事力は大したものではなく、指導者は分別があり、米国はイランが取りうるいかなる手段にも対抗できるというように変わる。これは、公正な「分析」などではなく、結論ありきの議論だ


  • さらに、たとえ国連安保理の決議がなく、イランが核兵器開発をしているという証拠もなく、我々や同盟国に対する攻撃がなかったとしても、イランを攻撃しなければならないとクローニグは主張する。つまり、彼は米国に国際法を踏みにじることを公然と要求しているのだ。
  • また、「攻撃の主な犠牲者は核施設で働く軍人、技術者、科学者であるのだから、ある程度の人的被害は受容される」とも述べている。もしイランの人々がこの意見(政策立案に影響力のある意見だと思われるかもしれない)を目にすれば、イランはどのような反応を示すだろうか?
  • イランは、自国への空爆を計画・主張する人物を予防的に襲撃する秘密工作部隊を組織し、空爆によって失われる人的損害を最小化しようとするかもしれない。また、秘密工作員による襲撃の主な犠牲者は、イラン攻撃を計画・主張する軍人及び市民であると限定するとしたら、クローニグはどう考えるのか?
  • こうしたイランの視点もまた「予防攻撃」であり、クローニグはそれを受け入れることができるのか?

◇ ◇ ◇

本稿で取り上げたクローニグとウォルトの論争は、前提としてあくまで米国の予防攻撃(preventive strike)についてのものです。イランが突然ペルシャ湾を航行する米軍艦船へ攻撃をしたりホルムズ海峡を実力で封鎖しようとしたりといった無茶をすれば、状況は異なります。


イランがあまりに強硬な瀬戸際政策を続けることは問題ですし、ウォルトのイランに対する分析もやや甘い部分が見受けられないでもないですが、現時点で米国(またはイスラエル)が予防的な意図によりイランを攻撃することには私は反対です。オバマ政権もクローニグが提唱するような予防攻撃の意図はなく、抑止政策によってイランに対処しています。現在、米軍はステニス、カールヴィンソン、そしてリンカーンと3個の空母打撃群を中東へ派遣し、テヘランににらみを利かせているのがその例ですね。

米国の砲艦外交に屈したという形をとりたくないイラン指導部の心情は理解できるのですが、ホルムズ海峡の封鎖も米軍への軍事的挑戦も国際的な孤立を招くだけです。他方、イランの核開発はイスラエルの安全保障上、大きな懸念であり、その警戒感を緩和するためにも、米国はイランへの強面を崩すわけにはいきません。

イスラエルはモサドを使ってイランを刺激しているようですが、イランがこれに耐えかねて暴発すれば、それを口実に、結局開戦・・・というシナリオをイスラエルは描いているのでしょうか。イスラエルにしてみれば、イラクを空爆した1981年のようにはいきません。イランは遠いですし、破壊目標もオシラクとは異なり作戦遂行を困難にさせる要素でいっぱいです。そういう点からも米軍にイランの核施設を爆撃するよう事態を誘導させようとしているのかもしれません。イランはイランで、対イスラエルとしてヒズボラに働きかけているでしょうね。

戦争の原因には「利益」、「恐怖」、「名誉」の3つがありますが、イランと米国とイスラエルの3カ国にとってこれらの変数がどのように作用することになるのでしょうか?

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。