記事

ナイキの厚底は「ドーピングシューズ」か

2/2

■ナイキの厚底は「ドーピングシューズでは?」という声

ただ、そうした熱視線の中には、“異論”もある。かつてIAAF(国際陸上競技連盟)のルールに「バネを使ってはいけない」という条文があったこともあり、一部では「ドーピングシューズでは?」という声も上がっているのだ。

「バネではなくて、単にカーボンを使っているだけです。カーボン自体は陸上のスパイクなどでも使われており(※)、特に新しいということはありません。ナイキは過去にもカーボン素材を使用したシューズを出したことがありますが、その時はあまりうまくいかなかったんです。でも今回、新素材のフォームでカーボンプレートをサンドイッチすることで、新シューズが実現できました」(加部さん)

※陸上100m走で日本人選手初の10秒を切った桐生祥秀選手らが履くスパイク(アシックス製)のプレートにはカーボンが使用されており、ナイキ ヴェイパーフライ4%はこれと似た原理。

日本陸上競技連盟競技規則によると、競技用靴については、「使用者に不公平となる助力や利益を与えるようなものであってはならない」という条文がある。現在、各メーカーが、さまざまなアプローチで“最速シューズ”を目指しており、バネの原理を利用しているシューズが登場しており、その中にはスプリングが埋め込まれたものもある。

そのイノベーションは目を見張るものがある。前述した競技規則や陸上競技の精神に反しているとの科学的な証拠がIAAFに提出された場合は、すぐに検査対象となるが、そこまでの状況には至っていないのが現状だ。ただ、今後も他を圧倒するようなシューズが出現すると、議論の対象になる可能性はあるだろう。

[ブログで画像を見る]

▼なぜ、大量生産ができないのか?

ところで、ズームヴェイパーフライ4%の耐用距離は160kmほど。一般的なランニングシューズは500~600kmほどといわれており、非常に短い。その理由について加部さんは、「主にフォームの能力ですね。空気の入っている層がだんだんつぶれていき、ヘタってくるんです」と説明する。そのため大迫傑ら契約選手ですら、普段の練習ではほとんど履くことがないという。

メーカーとしてもっと入手しやすくするための対策は立てていないのだろうか。

「ズームXフォームの素材は通常のルートとは異なり、航空宇宙産業の分野から取り寄せているので、大量生産に向いていないんです。それと、多くの工場で扱ってしまうと、情報防衛の問題もある。限られた工場で、1つひとつ丁寧に作っているので、どうしても数が限られてきます」(加部さん)

なかなか手に入らない“レアシューズ”ということに目をつけて、転売目的での購入者も多いようだ。

「ネットオークションで高値がついたり、発売日に行列ができたりするのは、非常に複雑な心境ですね。こういう現象が、オシャレなスニーカーではなく、パフォーマンスシューズで起きたのはおそらく初めてで、うれしい反面、ちゃんと走って、ちゃんと欲しい人の手に渡したいという思いがあります」

■ナイキの厚底に込められたランナーへのメッセージ

なお、ズームヴェイパーフライ4%には、普及版といえるズームフライというモデルがある。耐用距離は一般的なシューズと同じぐらいで、価格は1万6200円(税込み)と手頃。入手も比較的容易だ。

「一番の違いはソール部分です。ズームフライの方が一般的に手に入りやすい素材で、カーボンプレートもカーボン100%ではなく、ナイロンが混在しています。ソールはコストが安価なものになっていますが、コンセプトは同じなので、ライディング感は近いと思いますね。そして、アッパーに関してはズームヴェイパーフライ4%よりもリッチな構造になっています」

ズームヴェイパーフライ4%で勝負したいというランナーは、まずはズームフライでトレーニングをして、生産ラインが整うであろう秋冬に、ズームヴェイパーフライ4%を購入するのがベターかもしれない。

航空宇宙産業で用いられる素材を活用した厚底シューズを履いて、フルマラソンの2時間切りに挑むランナーたち。そんな彼らと同じシューズを履いて、自らの限界にチャレンジするのも、市民ランナーにとっては誇らしいだろう。限界を超えろ、常識を打ち破れ。ナイキの厚底シューズには、そんなメッセージが込められているような気がする。

[ブログで画像を見る]

(スポーツライター 酒井 政人)

あわせて読みたい

「ナイキ」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「もうやめました」パチンコ店に突撃した自粛警察が語る現在の心境

    石戸 諭

    12月06日 12:15

  2. 2

    張本勲氏のサンデーモーニング卒業「喝!」を入れ続けたハリーにあっぱれ!

    中川 淳一郎

    12月06日 10:40

  3. 3

    「コールでも回し飲みでもない」保健所が見落としていた歌舞伎町の"本当の感染経路"

    PRESIDENT Online

    12月06日 15:53

  4. 4

    ふるさと納税を毎年続けるのは「罪深い」行為?

    内藤忍

    12月06日 13:01

  5. 5

    「オミクロン株」を語るのは時期尚早 医者の矛盾した発言に違和感

    自由人

    12月06日 09:32

  6. 6

    世界から人権侵害の一環として捉えられた彭帥問題 北京五輪への影響を中国は苦慮

    舛添要一

    12月06日 09:43

  7. 7

    『テレビ千鳥』料理企画に仕掛けた“美味しさで包んだ悪意”

    いいんちょ

    12月06日 10:02

  8. 8

    「街の書店が消えてゆく」…書店をめぐる状況は今、とても深刻だ

    篠田博之

    12月06日 09:54

  9. 9

    岸田内閣の支持率が60%超え。大した悪材料がなさそうなので、当分このままかな

    早川忠孝

    12月06日 16:27

  10. 10

    今年の目玉はマツケンサンバ!? NHK紅白歌合戦に漂う「終焉」の空気

    渡邉裕二

    12月07日 09:02

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。