【「フォーブス世界長者番付」の歴代トップ】
かつて世界の億万長者の座を占有した日本勢はなぜ消えたのか──。作家の城島明彦氏が分析する。
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今年も“ビリオネア”(10億ドル以上の資産家)の季節がやって来た。米経済誌「フォーブス」が世界長者番付を発表するのは毎年3月で、各国のメディアが報道する年中行事と化した観がある。
昨年は世界に2043人のビリオネアがいるとし、国別ではアメリカが565人でダントツの1位、2位中国319人、3位ドイツ114人と発表した。日本は、4位“IT先進国”インド101人の3分の1にも届かない11位33人で、30位以内に日本人の名前はない。
最高位が孫正義(ソフトバンク)の34位で212億ドル。以下、柳井正(ファーストリテイリング)60位159億ドル、滝崎武光(キーエンス)102位123億ドル、三木谷浩史(楽天)250位58億ドルと続くが、トップのビル・ゲイツ860億ドル(約9兆7180億円)は遥か雲の上、全盛期の日本とは比べるべくもない。
フォーブスが世界長者番付を初めて発表したのは創刊70周年を迎えた1987年だが、その年のトップに君臨したのが日本人だったことを若い人は知らないのではないか。
当時、西武鉄道グループのオーナーだった堤義明である。堤の資産総額は200億ドル。当時の為替レートは1ドル=150円台なので3兆円見当だ。昨年の孫正義の212億ドルは2兆2640億円で、1987年当時の堤義明より少ない。堤は以後、森泰吉郎(森ビル創業者)にトップを奪われる1991~1992年を除いて1994年まで計6回も世界一の座に君臨し続けた。
その堤にしろ森にしろ、「土地神話」に導かれた“バブル経済大国ニッポンの申し子”だ。1986年に始まったバブル景気は、フォーブスが1回目の番付発表をした1987年がピークで、1989年には三菱地所がロックフェラーセンターを買収するなど1991年まで続いた。
そんな時代の象徴だった堤を抜いて1995年のトップに躍り出たのが、「ウィンドウズ95」を引っさげて登場した“IT大国アメリカの申し子”ビル・ゲイツだ。それが“アメリカ大富豪復活”の狼煙、日本の“失われた10年ないし20年”の始まりなのだ。
フォーブスが発表に使う数字は2月時点の資産総額だが、今年は2月5日にNY株式市場(ダウ工業株30種平均指数)で史上最大の下げ幅1175ドルを記録、同誌は「ダウ急落で、“投資の神様”バフェットら米富豪6人の資産合計が1日で200億ドル超減少」と報じた。当日は1ドル=108~109円なので2.2兆円減になる。
フォーブスは、「リアルタイム・ランキング」も発表しており、2月16日現在、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスがビル・ゲイツを押さえて暫定トップに立っているが、日本人の伏兵は現れるのか。株価に左右されるアメリカのIT長者の資産と、土地バブル崩壊後、低迷する日本勢の資産のランキングは、今後の日米双方の経済の勢いを占うものとなるだろう。
●じょうじま・あきひこ/1946年三重県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。東宝を経てソニー勤務時代に書いた短編小説『けさらんぱさらん』で「オール讀物新人賞」(第62回)受賞。著書に『吉田松陰「留魂録」』(致知出版社)、『ソニーを踏み台にした男たち』(集英社文庫)、『「世界の大富豪」成功の法則』(プレジデント社)など多数。
※SAPIO2018年3・4月号