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食のリスクは多面的に評価しないと見誤る?!~スタバ:LA裁判所の理不尽な判決に当惑~

 "リスクの伝道師"山崎です。毎月食の安全・安心に係るリスクコミュニケーションを議論しておりますが、今月は食の発がんリスクを評価する際のポイントについて考察したいと思います。まずは先月末にカリフォルニア州ロサンゼルスの裁判所がスターバックスなどのコーヒー販売事業者に対して、コーヒーに発がん性が疑われるアクリルアミドが含まれることを表示すべしという判決を下したことを受けて、加工食品等に含まれる天然物由来成分「アクリルアミド」のリスクについて解説した記事が掲載され、山崎も取材を受けたのでご一読いただきたい:

◎アクリルアミド コーヒーでがんになるの? 飲むときの摂取は微量
 産経ニュース 2018.4.19.(平沢裕子)

 https://www.sankei.com/life/news/180419/lif1804190003-n1.html

 本記事において解説されているように「アクリルアミド」は高温調理された食品などに含まれる微量成分であり、コーヒーだけでなく家庭で野菜炒めを調理しても普通に発生してしまう天然物由来の化学物質である。発がん性が指摘されたのもここ20年の話であり、最初はフライドポテトやポテトチップスなどじゃがいも類を油であげる際に、天然成分のアルギニンと還元糖(果糖やブドウ糖)がある種のメイラード反応により生成されるものだとわかってきた。その後、今回話題になっているコーヒー・ほうじ茶などの飲料やパン・菓子類、野菜を油でいためる中華料理などでも微量に生成していることが食品安全委員会の調査でわかっている。

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 食品安全委員会のリスク評価書によると、動物実験で遺伝毒性が指摘されたアクリルアミドも、いまだヒト疫学研究では摂取量と発がん性に関して因果関係が証明されていないため、日本国内でも加工食品/調理済み食品等において規制対象とはなっていない(含量規制・表示義務もない)。産経新聞の記事のとおり、発がんリスク因子として疑われる成分であり栄養学的には摂取する必要もない(?)として、できるだけ摂取量を減らすよう努力しなさいと食品安全委員会も提言している。

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 そもそも我々が毎日食する一般食品には必ず発がん物質も含まれるが、同時に抗発がん物質も含まれるため、要は食品中の発がんリスクもバランスのよい成分摂取が重要ということだ。遺伝毒性を評価する変異原性試験としていまも常用されているエームズ試験を開発したことで有名なBruce N. Ames博士(当時カリフォルニア大学バークレー校教授)は1983年のサイエンスに、食品成分を彼の変異原性試験でスクリーニングした結果、食品中には多数の発がん物質もあるが、逆に抗発がん物質も多数存在するとの論文を発表している(右図はそのScience論文の標題部分)。

 Ames博士はほかにも、われわれが普段暴露されている発がん物質のうち99.99%が一般食品など天然物由来のものであり、化学合成した農薬や食品添加物の発がんリスクは極めてちいさなものであると述べている。すなわち、天然物のミクスチャーである一般食品に発がん物質が含まれることは至極当然であることを前提とし、感覚的にはお肉は発がん物質がやや多く、逆に野菜は抗発がん物質がやや多いので、発がんリスク低減のためにはお肉は控えめに・野菜を多めに摂取しましょうという栄養バランスがよいというのが、わかりやすい助言になるだろう。

 その意味でコーヒーの場合、 発がん因子と疑われるアクリルアミドやカフェ酸もたしかに含まれるが、同時に抗発がん物質も多数含まれるため、そのバランスの結果としてコーヒー自体に発がん性はないというのがヒト疫学研究に基づく現時点での結論だ。むしろ、肝がんや子宮がんについては発がんリスク低減につながるエビデンスもあるということで、2016年にIARC(WHOの下部機関)もコーヒー自体に関する発がんリスクのエビデンスは少ないとして、発がん物質のエビデンス区分(possible carcinogen: 2B)から除外したとのことだ(AP通信記事)。

 コーヒーにアクリルアミドが含まれることはたしかであり、もしスタバがコーヒーのアクリルアミドを低減努力しないのであれば、「発がん成分を含む」との警告表示が必要になってしまうとのことだが、現状のスタバコーヒーはあまりとりすぎると発がんリスク上昇につながるので、コーヒーに偏った食生活はよくないと消費者に助言しているようでミスリーディングだ。

 コーヒー自体の発がんリスクは気にしなくてよいと、WHOが評価しているのにアクリルアミドというたったひとつの発がん物質のせいで警告表示とは…スタバに対しての判決・命令は明らかに理不尽なものと言えるだろう。アクリルアミドの一面性だけに着目すると、食品全体の発がんリスク評価を見失うことになるという、典型的な「リスクのトレードオフ」事例なので、アクリルアミドが多いから野菜炒めも食べるのをやめようなどとは決して判断せず、食品の発がんリスクをもっと多面的に評価すべきだ。

 おそらく大衆向けの食品中にはアクリルアミドができるだけ少ない方がベター(天然物由来なので決してゼロにはならないけれども・・)というのが今回の訴訟の論点であり、スタバがアクリルアミド低減に努力しますと宣言すれば本来おさまった話なのかもしれない。しかし、アクリルアミド低減によりせっかくのコーヒーフレイバーが落ちてしまうようであれば、それを消費者市民は本当に支持するのだろうか?筆者はスターバックス・ラテが好きなので、そのようなリスク低減は勘弁してもらいたいところだ。

 少なくとも現時点でコーヒー自体の発がん性を心配するだけの科学的証拠はなく、むしろ受動喫煙・過度の飲酒・ストレスなど、もっと大きな発がんリスクを回避することを考えると、スタバは発がんリスクが比較的低い場所とリスク評価するのが妥当であろう。

 以上、今回のブログでは食のリスクを多面的に評価することの重要性について詳しく考察しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションの学術啓発イベントを継続的に実施しておりますので、SFSSホームページにてご参照ください:

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム第1回(2018/4/15)開催速報
 テーマ:『市民の食の安心につながるリスコミとは』

  http://www.nposfss.com/cat9/riscom2018_01.html

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2018(4回シリーズ)開催案内
  http://www.nposfss.com/riscom2018/index.html

(文責:山崎 毅)

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