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変わったもの、変わらないもの 大屋雄裕

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■内閣提出法案成立率とその環境

8月末に閉会した通常国会における内閣提出法案の成立率は80%だということである(8月31日新聞各紙報道)。昨年12月に閉会した臨時国会の37.8%、あるいは2010年通常国会の54.7%に比べれば改善したと評価するべきかもしれない。震災後という環境で復興関連法案には挙国一致になりやすい環境で、なおこの数字に留まったと言うべきかもしれない。自民党長期政権の時期における内閣提出法案の成立率はおおむね90%水準だったのと比べればなお低いと言うこともできようし、そもそも三権分立なのに政府のつくった法案がすいすい成立する方がおかしいという問題提起もあり得るだろう。
いずれにせよ重要なのは、この結果にいたった環境はほぼ変わっていないということである。野田新内閣が成立し、国会審議に対応する大臣の顔ぶれも大きく変わったことにより、その能力水準も向上したはずだと期待する人も多いだろう。早速の失言で重要閣僚が交代する羽目に陥ったことを見れば大差あるまいという見方もあるだろう。だが立法を通じた「統治の実現」という観点から見ればそれはほとんど関係のない差異なのだ、というのが重要な点である。

■強すぎる参議院

以前にも書いた通り(「参議院の制度と《制度》」Synodos Journal 2010年7月12日)、日本の立法システムの特徴は強すぎる参議院にある。ごく限られた領域にしか衆議院の優越が認められていないため、政権与党が参議院の多数を失った状態(ねじれ国会)においては法案審議に大きな問題が生じることになる。

また、この状態が解決できるかどうかは基本的に野党側の態度・対応にかかっているのであり、与党側の能力や努力によってできることには限界がある。前述の通り同じ菅政権下でも成立率に大きな差があること(挙国一致的な課題の有無)、あるいは逆に与野党が入れ替わっても同じような結果が得られていること(2009年麻生内閣下の通常国会では79.5%)からも、この点を読み取ることができよう。

言い換えれば、菅総理がいなくなったからといって日本政治の置かれた状況に大きな変化が起きるわけではない。民主党を中心とする政権与党が参議院の多数を持っておらず・再可決に必要な衆議院2/3も持っていないという環境条件があるかぎり、このままのぐたぐたした状態が当面はつづくだろうと、そういうことになる。その意味で、新内閣・閣僚の粗探しをしても問題は解決しないという一部マスメディアの主張には正しいところもあるが、やめたところで問題がなくなるわけではないということを見逃しているように思われる。

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■問題は解決するか

さらに難しいのは、最長では2年後となる総選挙を経ても問題が根治するわけではないという点にある。仮にその結果として衆議院・参議院の多数派が統一されたとしても、すぐ次の選挙で再度「ねじれ国会」に陥らないという保証はない。いや、むしろ政権に就けば厳しい評価にさらされるが外にいれば言いたい放題だという状況では、衆議院選挙に勝って政権を獲得することがむしろ次の参院選の敗北を招きかねない(その意味で、民主党も与党の苦しみがわかっただろうという小泉純一郎元総理の発言(9月5日・日本取締役協会主催シンポジウム)は示唆的である)。

選挙制度もこの問題を悪化させている。参議院は大選挙区制146人・比例代表制96人の並立制であり、基本的には小政党に有利で一党支配が困難な性格を持つ。小選挙区制(300人)が多数を占める衆議院は二大政党制と第一党の単独政権にいたりやすい傾向を持つが、180人の比例代表制との並立制となっているために小政党にも勢力を築く余地があり、二大政党のリーダーシップを曖昧にさせやすい。またすでに述べた通り、現行制度で政府が統治を実現するために必要となる法律を通過させる能力を確保するためには、この両方で安定した多数を占めている必要がある。

一言で言えば、90年代に進められた選挙制度改革は、日本政治全体を自民党一党長期支配から二大政党制へと誘導する性格を持ちつつ、二大政党制が本格化すれば機能不全に陥る仕組みになっていたわけだ。公的な制度としての「強い参議院」が慣行としての国対政治によってコントロールされていたこと、しかしその国対政治の根底には自民党の長期支配と政権獲得を放棄した「抵抗勢力」社会党という、二大政党制とは相いれないような役割分担があったことが見逃されていたことが現状を招いたと、そういうことになろう。

■問題は解決しなくてはならないか

だが、それは問題なのだろうか。議論の基礎として考えなくてはならないのは、政府による統治は必要かという問題だ。

仮に政府が自らの権力をつねに拡張しようとする傾向を持ち、油断すればわれら人民の人権や自由を侵害するような存在だとすれば、それが機能しないことはむしろわれわれにとって望ましい事態だろう。国家はその本性として悪であり、それに対して人民が課した拘束として憲法を理解する観点からは、政府の統治が実現しにくい状態においてこそ人民の権利が守られるということになるはずだ。政府が統治なんかしなくても、あるいは統治しない方が、人びとが自由かつ自発的に行動することによって社会全体は効率的になるし、良くなる……

だが、もういいだろう。東日本大震災のあと、政府の統治能力が不足しているという事態が何を意味するのか、人びとは理解したはずだ。災害対策や公衆衛生といった領域で、個人のありのままの自由を認めることはできないか、あるいは当の人びと自身により大きな被害をもたらす結果になることは、明確になってきている。最低限でも個々人が適切な意思決定を行なえるようにサポートする情報提供、多くの場合には計画の制定や補助金政策によるソフトなコントロール、そして一定の場合に強制的な避難や行動制限のように直接的な規制が必要なことは、常識と言ってよい。

そしてそれらを実現するためには、政府にその権限を与えるための一定の法令が必要となる。政府による権力乱用の可能性を声高に言いたてる人びとが大好きな社会福祉を実現するためにだって、予算と根拠法令が必要なのだ。統治の道具としての法令を十分に供給できるような・安定した政府を成立させるためには、何が必要なのだろうか。その問題を、いまは問わなくてはならない。

■本日の一冊

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政治の現状を評価するためには、政権交代において何が目指されていたのかということをもう一度振り返る必要があるだろう。菅元総理の「失言」とされる、たとえば日本国憲法には三権分立とは書いていないといった憲法解釈も、行政・立法双方に関与する大臣の位置づけをめぐるこの議論を補助線とすれば(賛否はともかくとして)理解しやすくなる。

大屋雄裕(おおや・たけひろ)/記事一覧
1974 年生まれ。名古屋大学大学院法学研究科准教授。専門は法哲学。情報化とグローバル化によって 国家・法・政治などのシステムがどう変化するか、またそれが我々の人格や個人といった制度に及ぼす影響を最近のテーマとしている。著書に『法解釈の言語哲 学』(勁草書房)、『自由とは何か:監視社会と「個人」の消滅』(ちくま新書)。

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