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あやしい放射能対策 片瀬久美子

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原発事故で放出された放射性物質による被害を避けるための対処法として、”放射能を分解除去できる”とか”放射能の毒出しができる”などと宣伝されている疑わしい方法が、雑誌などのメディアや放射線の害を警告する活動をしている一部の団体などから紹介されて広まりつつある。しかし、体内の放射性物質除去という効果に疑問が大きいだけでなく、かえって健康を害する恐れがあったり、効果が期待できないのに高額な商品であるなど、問題視すべきものが多い。その代表的ないくつかを紹介する。
■マクロビオティック
まずは、マクロビオティックである。これは独自の陰陽思想にもとづくトンデモ栄養学のひとつである。(マクロビオティックの詳しい解説は、ブログ「とらねこ日誌」を参照。http://d.hatena.ne.jp/doramao/ ) 

もともとはマクロビオティックにもとづく食事療法を実践していた医師が、長崎の原爆の被爆者達に「爆弾をうけた人には塩がいい。玄米飯にうんと塩をつけてにぎるんだ。塩からい味噌汁をつくって毎日食べさせろ。そして、甘いものを避けろ。砂糖は絶対にいかんぞ」と指導していたそうで、それが伝えられて味噌や玄米、塩などが放射線の害を防ぐとされている。

味噌については、その成分として含まれているジピコリン酸に効果があるとするマウスの実験があると宣伝されている。しかし、寿命が約3年しかないマウスと寿命が80年以上の人では生体維持機構が異なっている可能性があるし、実際に人とは代謝機構などが少し違っていたりするので、マウスでの実験結果がそのまま人では通用しない場合も多い。

とくに、低線量被曝で心配されるのは被曝後10年以上経過してから現れたりする癌などの病気であり、寿命が3年くらいしかないマウスではそこまで調べられない。しかも、味噌に含まれているジピコリン酸が普通に味噌汁などで食べる分量中に、人に対して充分に効果のある量が含まれているかどうかも分からない。あまり味噌を食べすぎると塩分が心配でもある。

この味噌が放射線対策に有効とされる噂が週刊誌にも盛んに取り上げられて紹介されていたことに対して、FOOCOM.NETが批判をしている。

◇「1日2杯の味噌汁が効く」は本当ですか? 放射能汚染のトンデモ科学に騙されないために
http://www.foocom.net/special/4379/ 

■EM菌、EM菌もどき
EM菌とは、乳酸菌、酵母、光合成細菌を主体とする有用な微生物の共生体だそうである。

原発事故以降、放射線を除去する効果があると盛んに宣伝されている。

◇Skeptic’s Wiki EM菌(有用微生物群)
http://skepticswiki-jp.org/wiki.cgi?page=EM%B6%DD%A1%CA%CD%AD%CD%D1%C8%F9%C0%B8%CA%AA%B7%B2%A1%CB

EM菌の開発者は「その主要菌である光合成細菌は、粘土と混和し、1200℃の高温でセラミックス化しても、そのセラミックスから取り出すことが可能である。想像を絶するこの耐熱性は、光合成細菌がガンマ線やX線や紫外線をエネルギー源とし得る機能性を有するからである。そのため、外部被曝はもとより、内部被曝の放射能を無害な状態に変換していると考えられた」と説明しているが、1200℃の高温に耐える微生物など、かなり疑わしい。

また、「EMの中の光合成細菌が、放射性元素を先取りするため、作物には、吸収されないという解釈も成り立ち、また、光合成細菌が放射性元素のエネルギーを転換的に活用した結果、放射能が消えたとの推測も、あながち荒唐無稽の話ではない」とも説明されているが、やはり荒唐無稽だろう。

光合成細菌が利用する光と放射性セシウムなどが出すγ線が同じ電磁波なのでそう考えたのかも知れないが、光合成細菌が利用できる光の波長とγ線の波長はかなり大きく異なるので光合成細菌はγ線のエネルギーを利用できないし、物理的にも放射性物質の放射能は微生物によって消失したりはしない。EM菌が放射性物質を取り込むから作物に移行しなくなるということがあったとしても、普通に考えればEM菌だって死んで分解されるだろう。そしてふたたび環境に戻されてしまう。さらにEM菌を農地に使用する場合は土に混ぜて耕して使うため、表層に留まっている放射性セシウムを取り除くのではなく、放射性セシウムを土中に深く鋤込んでしまうことになる。(希釈効果を期待することとは別である)

EM菌を飲料にしたEM・X GOLDという商品(500mlで定価4,500円)が「EM菌が放射能を抱き込む」ことで「体内から放射能を排出する」などと一部の人たちから説明されている。この効果を期待して購入して飲む人たちが増えているようであるが、こちらも人への効果を検証した正式な論文がないのでかなり疑わしい。ちなみに、正しくは放射能ではなくて放射性物質だろう。

EM・X GOLDの製造方法を調べると、最後に抽出・殺菌を行っているのでEM菌が生きたまま体に入るのではなさそうである(http://emx-gold.jp/products/index.html)。だとすると、「EM菌が放射能を抱き込む」という説明は菌が死んで不活性になっているので適用できなさそうである。 (ところで、1200℃でも死なない脅威の生命力というのが本当ならば、EM菌をどうやって殺菌しているのであろうか?)

EM・Xゴールドの効果は色々な面でかなりあやしいが、値段はかなり高価である。

(http://dndi.jp/19-higa/higa_40.php で、EM・Xの効果があったとしているが、被験者の総数が[平均年齢しか示されておらず、その構成が不明な]21人であり、比較する3つのグループに[均等に分けたと仮定して]各7人しかおらず、この人数では少ないので結果が偏りやすいという問題がある。実際の人数分けも不明であるし、各グループ間で結果に関係しそうな被験者の年齢や食事内容などの要因にどれだけの差があったのかも不明であり、また測定結果の確からしさの範囲などが示されておらず、測定方法も適切であったかどうか確認できない。「世界で唯一、本件のみの研究」とのことであるが、たった一回しか行われておらず被験者数も少ないので、[実験条件の曖昧さに目を瞑ったとしても]効果を主張するにはこの研究だけでは弱いだろう。再現性が確認されていないので、信頼性も低い。それに、放射性物質の汚染がほとんどなかった日本に滞在させている間だけEM・Xを与えて効果を調べているが、汚染されている現地で生活しながらEM・Xを与えた場合の効果を調べないと、そもそも実用的とはいえないのではないだろうか。EM・X GOLDはさらに10倍以上の効果があるとしているが、どのように調べたかも分からない。医学系論文のデータベースであるPubMedなどで検索したが、これらに関連する論文は出てこなかったので、これ以上は確かめられなかった。結局、査読された論文がひとつもない状況ではEM・XとEM・X GOLDの放射性物質の排出効果を信用することはかなり難しい) 

EM菌もどきも活躍中である。EM菌の開発者と過去に共同研究をしたことがある人物が広めている。この人物曰く「かねてから微生物、生物触媒が放射性物質を含めて重金属を分解することは国内外のさまざまなところで実験や実用において確かめられています」と宣伝しているが、重金属はダイオキシンなどの化合物と違い「分解」されてなくなることはない。読売新聞福島版(5/21)で「(原文ママ)微生物が触媒となり、土壌中にある科学合成細菌が活発化することで、放射性物質を分解、消失できる技術を実証する」という実験が肯定的に紹介されている。しかし、その実験の内容はやはりあやしく、きちんとした対照実験が行われていない。ついでに、この人物の経歴もかなりあやしい。

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■米のとぎ汁乳酸菌
自分でできる対策として最近流行りだしているのが「米のとぎ汁乳酸菌」である。

米のとぎ汁に砂糖と塩少々などを加えてペットボトルなどに入れて常温でおいておく方法が紹介されている。とくに培養前の器具類の殺菌もしていないし、特定の種菌も入れていないので、どんな菌が増えるのかあやしい感じだが、甘酸っぱくできたら成功だそうである。それを飲用したり、応用として米のとぎ汁に豆乳を加えて発酵させてヨーグルトとして食べたり、点眼したり、霧吹きして肺内に吸い込んだりすることで、培養された乳酸菌・光合成細菌・酵母によって放射性物質の毒出しをするそうである。あるブログでは離乳食にも使うと書いてあって驚いた。

微生物が放射性物質に効くというのは、EM菌からの流れのようである。

ツイッターで、「米のとぎ汁乳酸菌」による毒出しを実行している人のツイートに「昨夜、乳酸菌を顔にスプレーして、目にもちょっとふりかけて、今朝起きたら両目が真っ赤か!目やにもすごくてびっくり@@ 効いてる証拠って思っていいんですよね?」というのがあった。悪質な代替療法では、害が出ているのにそれは「好転反応」といって毒が出ている証拠だと誤魔化すことが多いが、まるでそれと同じ様子である。効いてる証拠なんていっていないで、眼科に急いで行くべきだろう。

作り方のレシピを見ると、色々なカビを含む雑菌が繁殖しそうである。それをまだ抵抗力の弱い子どもに放射線対策として与えでもしたらと想像すると、とても心配である。肺に吸入した場合、肺炎にならないかという心配もある。これが放射線に効くというのもかなり疑問だし、止めておいた方がいいのではないか。低線量被曝の害を避けようとして食中毒などになってしまえば本末転倒である。食中毒は命に関わる場合があり、その危険性は低線量被曝よりもずっと高い。

■ホメオパシー
ホメオパシーはこの療法に縋ったことで何人かの死者を出して問題となった。このホメオパシーを推進する団体も、抜け目なく放射性物質の害から身を守るというレメディを宣伝している。「(原文ママ) 特に放射線物質の排出を促すレメディについては、体内に溜まった有害物質がレメディーをとることで体外へと排出されたことが検査結果によって数値で出たケースによって実証されました」と宣伝しているが、この実証されたという実験の詳細などは公表されていない。団体主催者によると「レメディーとってたら、被曝も大丈夫!!」なのだそうであるが、まったく大丈夫ではない。そして、『放射線に対するホメオパシーの防御と治療』という本が出版されており、急性の放射線中毒に対するレメディまでもが記載されているが、内容はどれも信用できない。ホメオパシーのレメディに薬効がないことは、すでにきちんと証明されている。

◇warblerの日記「ホメオパシー・レメディには薬効が無いってホント?」
http://d.hatena.ne.jp/warbler/20110221/1298291420

■ペクチン
林檎ペクチンが放射性物質を排出させるとして宣伝されているが、それに関する効果を確認したという研究報告を調べてみると、いずれにも重要な不備があり、実際にはその効果は期待薄である。

◇IRSN(フランス放射線防護原子力安全研究所)−Evaluation of the use of pectin in children living in regions contaminated by caesium 
http://www.irsn.fr/EN/news/Documents/pectin_report.pdf

気になるのは、この報告書の中でペクチンによって必要なビタミンやミネラルが吸着されてしまい栄養欠乏になる副作用の懸念が指摘されていることである。放射線対策としてとくに子どもや妊婦にペクチンを摂らせすぎるのは心配である。

■スピルリナ
スピルリナは藍藻の一種である。スピルリナの”放射能を排出する”効果は、学会発表が中心で正式な論文が出されておらず、効果の検証はきちんとされていない。その他の効果についても、人で証明されたものはほとんどない。また、スピルリナ類は細菌や重金属類(水銀、カドミウム、鉛、ヒ素)などを含むことがあり、ミクロシスチン(藍藻毒の一種で肝毒性を持つ)が含まれるものもあるので用心した方がいい。国立健康・栄養研究所の『「健康食品」の安全性・有効性情報』で調べると、スピルリナ含有製品摂取との因果関係が疑われる健康被害副作用が色々と報告されている。とくに子どもや妊娠中・授乳中の女性は、スピルリナ製品の摂取は避けておいた方が無難だろう。

◇国立健康・栄養研究所の『「健康食品」の安全性・有効性情報』−スピルリナ
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail86lite.html 

(参考)今年7月12日に「人体から放射能を排出するのに効果的」などと効能をうたって「スピルリナ」を販売した人物が、埼玉県警サイバー犯罪対策課と狭山署によって薬事法違反容疑で逮捕されている。

◇時事ドットコム:「放射能排出」と宣伝し販売=健康食品340万円分、男逮捕−埼玉県警
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201107/2011071200673 

健康食品に対する記事がFOOCOM.NETから出されているので、そちらもぜひ読んで頂きたい。

◇「健康食品で解毒」を信じてはいけない
http://www.foocom.net/column/editor/4494/ 

この記事を書いた松永和紀さんは、『科学的な検証を確認せずに、「あれがいい」「これがいい」と報道し、それを信じてしまうのは、特定の業者の利益につながるだけだ。報道機関の倫理が問われている。その事実に、消費者も早く気がついてほしい』と訴えている。

他にも、怪しげな放射線対策が色々と出回っている。健康食品に関しては、動物実験などでその効果が証明されたとして宣伝されているものも少なくないが、人で実際に有効性がきちんと確かめられていないと信頼性は低い。もし、本当に高い効果が証明されているのならば、医薬品や治療法としての公的な認定を受けているはずである。健康食品のままであるということは、医学的に効果があると確かめられていないということでもある。健康食品の場合は副作用についてもきちんと調べられていないものが多く、思いもよらない害が出る恐れもある。

人々の不安につけ込んで、さらに不安を煽りつつお金儲けをする「不安商売」をする人たちが、この原発事故を背景とした状況を格好の商機とみなして暗躍している。大切なお金と時間と労力を無駄にするだけだし、何よりも健康を害する恐れがあるので、気をつけた方がいい。また、あやしい業者が反原発や放射線の害を警告する団体などを通じ、善意の衣に隠れて怪しい商品などを広めるケースが最近多くなっている様子なので要注意である。まったく油断も隙もない。

※本稿は、個々のあやしい情報の発信者や業者に対する批判が目的ではないので、ここではその個人名を出さないことにした。

片瀬久美子(かたせ・くみこ)
1964年生まれ。京都大学大学院理学研究科終了。博士(理学)。専門は細胞分子生物学。大学院進学前に11年間、企業の研究員として、酵素の精製、酵素の応用技術の開発、遺伝子検出技術の開発、NMR・IR・MSを中心とした有機化合物の構造解析などの仕事を経験。
ブログ warblerの日記 http://d.hatena.ne.jp/warbler/

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