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デマのできかたと不安につけ込む業者たち 片瀬久美子

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原発事故で放出された放射性物質の健康などへの影響について、わたしも子をもつ親のひとりとして関心をもっている。現在の状況に不安を感じ、自分と家族を守るために情報を集めようとして、ツイッターをはじめた人も多いようである。

ツイッターを含むネット上で流されている情報の多くは、確からしさなどの選別はされていないので、自分でその信頼性についての判断をしなければならならない。誰がその情報を発信しているかだけではなく、その情報の一つひとつについてもよく注意していく必要がある。なかには、不安を煽る情報を流しておいて、一方でその対策には○○○がいいと、怪しい商品を勧めている人(業者)などもいるので要注意だ。
デマ情報についての注意すべきポイントを知っていれば、用心深く情報をみることができるのではないかと思う。いたずらに不安を煽る情報に踊らされないために、まずは不安煽りのデマの特徴やその広められ方について知っておいた方がいいだろう。

【デマのできかた】

■政府や原子力関係者への不信感がベースに

政府などが本当はとても危険な状況やデータを隠しているのではないか、という疑いがベースになっていることが多い。実際に政府や電力会社による重要な情報の開示の遅れなどがいくつもあり、疑心暗鬼を助けてしまうようなかたちにもなっている。陰謀がささやかれる原因としては、過去に原発側が情報隠蔽などを行なってきた経緯もあり、身から出た錆びという面もあると思う。

これまでの事があるから疑いをもってしまうのは仕方がないし、何でも鵜呑みにしてしまうのも考えものなので、政府や電力会社側から出された情報をよく吟味して考えるのは良いだろう。もし、何かの誤魔化しなどがあれば、きちんと批判してふたたび繰り返されないよう求めていくのは大事である。一方で、不信のあまり何でもかんでも陰謀としてしまって信じないというのは偏っている。政府側から出される情報と同様に、陰謀の噂についてもその真偽について慎重にみていく必要がある。

政府への不信感とは別に、科学技術への不信感も背景として垣間みえる。原発の事故が起きたことで、やっぱり科学は信用できないという気持ちを新たにした人たちも少なくない様子である。これまでに原発に関わる学者たちから原発は安全であると強調されてきたこともある。怪しい情報に対して懐疑的な見解を示す一般の科学者たちまでも一括りにして、また「安全デマ」を流していると批判がなされていたりするが、これもそうした背景からくる拒絶感なのだろう。

しかし、科学者の大半は原発の推進とは関係ない人たちである。こういう指摘に対しては、政府から頼まれてもいないのに擁護する「エア御用学者」という言葉までつくられた。原発とは利害関係のない立場からの冷静な意見まで耳を貸さず、一方的にさまざまなレッテル貼りをして奴らを信用するなと情報遮断してしまうのは考えものである。

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■その情報・知識の根拠や元の情報を示さない

情報提供者が友だちの知り合い、内部告発者、○○関係者であったり、情報となった元の記事や文献(含データ)を特定できない伝聞形式で伝えたりするのがデマ情報によくあるパターンである。不確かな伝聞がまことしやかに伝えられる。そのうち伝言ゲームのように尾ひれがついて内容が広がったりもする。こういうものは、その情報の真偽を確かめられないし、たいていはつくり話である。酷いものになると、本当かと聞かれてから自分が流した情報のソースを探しはじめる人もいる。なかにはわざとデマの広がりを楽しむためにつくり話をする愉快犯もいるようだ。

例)「セブンイレブンのお弁当は放射能汚染地域の食品つかっていますので、少し気を付けて下さいね」という情報をツイッターで流した人に、「確認できる情報ソースありますか?」と別な人が質問したところ、「ありますよ」と答えておいて、その裏で「セブンイレブンが放射能地域の食品使っていると言う情報ソースお持ちの方いらっしゃいますか?」と情報提供を呼び掛けていたケースがあった。

これは、すぐに他の人が情報源について確認を行なったことで、不確かなまま情報が拡散されるのに歯止めがかかった。このように、不確かなものについては情報源について確認を求めるようにしていくのが良いだろう。

例)「関係者の内部告発です。福島原発で高濃度の放射能の水溜りに足つかった3人のうち1人は亡くなったそうです。やはりね。医学的に見ても不思議はない。またもや隠ぺい。東電徹底解体すべし」とツイッターで発信され、あっという間に広まった。
これは福島第1原発3号機で、足を局所被曝した作業員3人のうち2名が皮膚に2〜3Svの被曝をした件についての後日談として出された。報道では、この2名は足の皮膚等に著明な変化は現われずに退院したと伝えられていた。
このツイッターの情報は、まず「関係者の内部告発」という所でちょっと怪しいのだが、作業員死亡の情報は、多数の人たちにリツイートされて拡散し、途中から尾ひれがついて死亡者が2名に増え、フランスで報道されていたことにもなっていた。

まず、このデマが発生した要因は、2〜3Svも被曝して何事もなかったのか?という疑念を抱いていた人たちが多かったことだろう。同じSvの値でも「局所被曝」と「全身被曝」では影響がまったく違うという情報が当初の報道で抜けていたという問題点がある。

局所の被曝量は人体の組織ごとの被曝線量である「等価線量」、全身の被曝量は体全体のダメージの程度である「実効線量」で表わされる。この作業員の皮膚への「等価線量」は2〜3Svであったが、「実効線量」の方は約180mSvであった。「実効線量」で2〜3Svであると急性症状が現われるので、これを取り違えてしまった人たちが、とくに症状が出なかったという報道は「隠蔽」しているのではないか、と疑ってしまうのは無理もないことである。

この作業員の局所被曝の件で勘違いする人たちが多いということで、「局所被曝」と「全身被曝」の違いの解説も後からされていたのだが、こうした情報は隅々まで行き渡っておらず、2〜3Svの被曝なら何か健康被害があるだろうという先入観から、情報源などの確認もせずに「やっぱり」としてそのまま信用されてデマが広まってしまったようである。

発信元に、念のため情報源の確認をしてみる心がけは必要だろう。そして、情報源の確認ができないものはリツイートせずに保留して様子をみた方がいい。とくにツイッターでフォローされている人数の多い人たちには気をつけて欲しい。

結局この話は、東京電力から、協力会社の作業員であるその3人は健在しており、現在は通常通り勤務をつづけているとして否定された。勝手に死んだことにされてしまった人はびっくりだろう。

■できるだけショッキングな話にする

先の噂の例にもあるように「誰かが死んだ」というのも、デマのできかたのひとつである。他には「何かが多発している」などの話で、たとえば福島の他に東京や大阪でさえ、放射線の影響により鼻血や下痢などの症状が多発しているなどの噂が流れている。

この噂は、ある有名なデマの発信者から発せられたが、瞬く間に低線量被曝の恐怖となって、不安がる人たちのあいだに「現実に起きていること」として伝えられた。この被曝による急性症状の話はある医師によっても後押しされ「(被曝者の)最初の症状のひとつに下痢がはじまります」「これはいまの普通のお薬では止まりません」などと解説され、さらに信憑性が加味されて、病院へ行っても治らないという怖い情報がつけ加えられた。

東京新聞(6/16)に「福島県原発50キロ 福島・郡山は今」「大量の鼻血、下痢、倦怠感」「子に体調異変じわり」というタイトルで「放射線と関係不明」としながらも、放射線被曝との関連が心配されているとして取り上げられた。

福島は他の地域よりも放射線の被曝量は高いが、それでも急性症状がでる程の被曝量の人はほとんどいないと推定される。(参考:福島の人の内部被ばくを推計…多い人でおよそ3mSv http://www3.nhk.or.jp/news/genpatsu-fukushima/20110624/0830_naibuhibaku.html )

もしかすると、実際に鼻血や下痢などの体調不良が増えているのかも知れないが、それは放射線の急性症状というよりも、原発事故後の生活の変化などによるストレスが原因である可能性の方が考えやすい。

(参考)低線量被曝で鼻血や下痢の症状が出る可能性が低いことを、放射線科医と血液内科医が解説している。

◇Togetter:放射線科医による放射性ヨードI-131の解説と木下黄太氏のブログへの反論
http://togetter.com/li/149186 (コメント欄でも、質疑応答が続けられている)

◇Togetter:「原発事故の影響で鼻出血や下痢が増えた」という話への長野県在住の血液内科医による解説」
http://togetter.com/li/150517

■疫学の誤解と不安の誇張

今回の原発の事故への不安を訴える理由としてよく出されているのが、「前例がない」という誇張である。「何が起きても不思議ではない」「どんな酷い病気になるか分からない」と、先のみえない怖さを主張している。チェルノブイリ事故後の健康影響については、甲状腺疾患の他には因果関係が明らかにされているものはまだない。それに対して、「こういうものは因果関係がつかめなくて、原因不明にされてしまい闇に葬られるので、誰も責任をとってくれないのだ」という主張がある。

これまで統計によって甲状腺疾患以外の他の疾患が見出されない理由は、あったとしてもとても少なくて、他のよくある原因により発生するものと区別がつかないからである。低線量の被曝によって、前代未聞の突飛な症状をもつ奇病が発生する可能性は少なく(もしそうならば発覚する)、何らかの疾患が発生してもその頻度はわずかであるということだ。低線量被曝での健康影響が明確に分かっていないのだから、今度はどんな酷いことが起きても不思議ではないという主張はミスリードである。

また、統計である疾患が明確に見出されないからといって、その疾患の存在がないと否定されるわけではない、ということもよく誤解されがちな点でもある。(WHOの報告書でもこの点を解説。白血病と非甲状腺の固形癌の項 http://bit.ly/gn1izl )

重要な考え方に「予防原則」というものがある。これは、潜在的に重大となり得るリスクは、危険性の証明をまたずに必要な政策をとるというものである。そして、もし何らかの疾患が低レベルの放射線被曝で発生したと疑われる場合には、統計上の証拠がないからといって血も涙もなくバッサリと切り捨てられているわけではない。(……つづく)

このつづきはぜひαシノドスで!⇒ http://synodos.jp/mail-magazine

片瀬久美子(かたせ・くみこ)
1964年生まれ。京都大学大学院理学研究科終了。博士(理学)。専門は細胞分子生物学。大学院進学前に11年間、企業の研究員として、酵素の精製、酵素の応用技術の開発、遺伝子検出技術の開発、NMR・IR・MSを中心とした有機化合物の構造解析などの仕事を経験。
ブログ warblerの日記 http://d.hatena.ne.jp/warbler/

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