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なぜテレビ業界にウルトラバカが多いのか

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■記事の使用料を払いたくない、ということ!?

ところが制作マンは「参考にさせていただく」という主張を続け、使用料を回避するような方向に話を持っていこうとした。

対して同僚は「それはつまり、われわれの記事を使って再現ドラマをつくる、ということですよね? あなたたちのオリジナルのネタというわけではないですよね?」「だとすれば、こちらには出典元としての権利があります。まずは使用許諾に関する申請書を提出していただき、こちらで検討させていただきます。そのうえでOKとなれば、使用料をお支払いいただき、ドラマをつくっていただく、ということになります」と伝えた。先方は、どうしてもカネを払うのがイヤだったのか、「考えます」といったん電話を切った。

それから数十分後、また制作マンから電話があった。

「先ほどの件、上に確認したところ、すでに再現ドラマをつくってしまっているということなので、使用料をお支払いします」

どうしてそんな大事なことを把握しないまま、こちらに問い合わせをしてきたのか。最初の「参考にさせていただく」を巡る電話のやり取りは、完全に無駄な時間だった。状況的には、ルールどおり申請をおこなって、何としても媒体と著者の許諾を取り、クレジットを明記して再現ドラマを放送する……という選択肢しかなかったわけだ。この制作マン、一体何を考えて右往左往していたのだろうか。

■制作会社の予算不足、人手不足に起因する仕事の劣化

おそらくは局のディレクターあたりから「おいおい、この話マジかよ? こんなよくできた話ってないんじゃねぇの? しっかり裏取りしておいてくれよ!」などと強い口調で言われて、下請けの悲しさかな、「承知しました!」と即答。次の瞬間にはわれわれの編集部に電話をかけていたのではないだろうか。

それにしても「この記事の内容は事実ですか?」という聞き方はありえない。あまりにも失礼すぎる。結果的には、すでに再現ドラマはつくられていることが発覚し、もはや後戻りはできない状態だったこともあって、「使用料を支払います。クレジットも出します」ということで合意ができたのだが、もしも制作陣の誰かが記事の信憑性に疑念を抱かず、問い合わせしてこなかったら、ネタをパクられただけで終わっていたかもしれない。

こうした非常識な問い合わせ、一方的な問い合わせは、これまでに何度も経験してきた。背後には、番組制作会社の慢性的な予算不足と人手不足があり、それが仕事の質の劣化につながっているのだろう。

■ネットに出ている情報だけでリサーチを完結させたい

テレビの制作に携わる人々はあまりにも忙しすぎて、疲弊しているのだろうな、と思わせる“バカすぎる問い合わせ”は、他にも存在する。

私が編集に関わるサイト「NEWSポストセブン」は、「週刊ポスト」「女性セブン」「SAPIO」の3誌の記事と、ネットオリジナルの記事によって構成されている。そして、雑誌記事をネットに転載した場合には「※週刊ポスト2018年4月12日号」といった形で記事の下に出典元を明記している。

そうして気づいたのは、最近の制作マンはネタを探るにあたり、できるだけ手間をかけず、ネットに出ている記事だけでリサーチを完結させようとする意識が強い、ということだ。

雑誌記事のウェブ転載では、そのまま同じ文章が載ることもあれば、ウェブ用に多少の再編集が加えられることもある。タイトルや見出し、導入文が変更されることも多い。だから、きちんとリサーチしたいのであれば、出典元である雑誌記事も合わせてチェックするべきだし、関連する情報を得るために他媒体の記事も確認しておく必要がある。

実際、丁寧にリサーチするスタッフはちゃんと手間をかけている。そんな人からの問い合わせは、だいたい話が早いので、問題なく進む。しかし一方で、タイトルのキャッチーさに惹かれただけで記事はナナメ読み、という人も少なくない。また、上の人間から「いいから早く問い合わせろ!」などとせっつかれて、経緯などをろくに把握しないまま、とりあえず電話してみました……みたいな人もいる。

■依頼は「相手の都合」を考えることから始まる

以前、 NEWSポストセブンに転載した週刊ポストの記事について、制作マンから問い合わせがあった。このような場合、「記事の出典は週刊ポストなので、そちらの編集部に問い合わせてほしい」と返答することになる。大抵の場合は「なるほど、わかりました」という反応になるのだが、そのときは違った。なんとその大バカ者、逆ギレしてきたのである。やり取りを列記しよう。

「私はNEWSポストセブンを読んだから、そちらに問い合わせをしているんです!」

「いや、それはわかりますが、記事の著作権は週刊ポストにあります。ページの下のほうにクレジットが入っていますよね?」

「でも、私はあくまで、ネットでこの情報を知ったんです!」

「ですから、その記事の出典元は週刊ポストなので、いまから電話番号をお伝えしますから、そちらに電話していただけませんでしょうか」

「私は週刊ポストなんて持っていません!」

対応した同僚は、あきれたように一連のやり取りを話してくれた。私はこのエピソードを聞き、同僚と同じようにあきれたものの、少し同情する気持ちを抱いた。きっと、職場近くのコンビニに行き、雑誌を買ってくるような時間もなく、購入代を経費で落とせるような予算も与えられていないのだろう。

とはいえ、テレビ制作に携わる皆さんには、やはりこう訴えておきたい。

「問い合わせをいただくのは歓迎しますが、自分たちが特権階級に属すると思わず、もっと常識的に問い合わせをしてください!」

お願いごとをするときは、一方的に自分の都合を押し付けることなく、相手の事情や一般的なルールも考慮しながら“擦り合わせ”をおこなう姿勢が不可欠なのである。極めて当たり前の話だが、それができないと「バカ」のらく印を押されて終わるのは、どんなビジネスでも同じだろう。

【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
テレビ業界は「特権階級」ではない。自分たちの都合が何でも通るわけではないことを自覚してほしい。
お願いごとをするときは、相手の都合、相手のルールを尊重し、双方の意向を擦り合わせる姿勢が不可欠である。

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中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
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(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎 写真=iStock.com)

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