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援助の制約―「与える」振る舞いを考える 大野更紗

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東日本大震災の発生から一ヵ月以上が経過したが、現在も余震による被災、原発問題は収束せず、被害の全貌の輪郭すら捉えられない。被災者の避難生活は長期化し、彼らが抱える問題も徐々に変容してきている。従来の震災であれば、「緊急支援」から中長期的な「復興支援」への転換点の見定めは、比較的容易であったろう。しかし、津波による未曾有の被害と、何よりも福島第一原子力発電所問題の存在が、被災者をこれまでにない状況に追い込んでいる。

◇「配る」支援の限界点◇
自然災害が発生したとき、原則として支援は「モノ」として届けられる場合が多い。「モノ」の支援は、支援する側が説明責任を果たしやすい。援助者がプロジェクトを作成し、援助者がやりやすい形で実行し、最終的に会計報告を作成する。「配る」というのは、援助者にとってもっとも楽な援助の形でもある。だからこそ、災害発生直後の緊急支援は、自らが持つ機動力を全開にして「配る」ことに集中し、まず初期段階の被害を最小限に食いとどめる。それが災害時の、通常の緊急人道援助の振る舞いである。

避難所を設置し、被災者を緊急的に保護し、最低限の衣食住、医療や福祉サービスを確保する。モノや人材を配置し、注ぎ込む。この緊急支援の段階において、被災者は一方的に支援を受け取る、「受動」的な存在である。

無論、それぞれの機関は、それぞれが最大限に緊急支援としてできることに尽力しているだろう。緊急支援として「配る」行為も最低限の避難生活を維持するためにつづけていかなくてはならない。だが、被災者は時間の経過とともに、次第に単なる「受動」的な存在ではなくなってゆく。たんに「配る」限りにおいて、彼らの生活空間を限定し、能動的な行動を制約しつづけることもまた、援助が持つ側面なのである。

中長期的な復興支援とは、単なる「受動」する存在から、自らの意志で自己決定し、適切なサポートを受けながら能動的な自立生活を営む存在に変化してゆくプロセスを、被災者に提示することだ。しかし、いま、この緊急支援と復興支援の境界が見えない。

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◇雇用対策、CFW実施までにかかる時間◇
支援のシフトチェンジの手段としては、現在、キャッシュ・フォー・ワーク(CFW)の議論がさかんに行われている。CFWは、復興や雇用の対策として実行してみる価値は充分にあるように思える。だがその実施には、最低限のインフラ、自治体機能の回復が必要だ。いま現在、東北地方の被災者はCFWまでの「つなぎ」に窮している。

避難生活が長期化すると、当然ながら、被災者はこれからの自分自身の生計手段をどう確保するかという現実に直面することになる。東北地方の被災地の自治体機能と最低限のインフラ復旧、仮設住宅設置等の目処もまだ具体的にはたっていない。緊急支援から復興支援への切り替えのラインが、定まらない。

被災地の自治体や行政も疲弊し、機能が欠乏しているなかで、援助者は現場のニーズと自分たちができることの乖離に直面することになる。どうやって現場で被災者が望むかたちで、生存の維持と復興プロセスを両立させていくのかが、至急の課題となっている。

◇もっとも表明しにくいニーズ◇
福島第一原子力発電所からほど近くに位置していた知的障害者のためのある社会福祉法人施設が職員ごと退避を迫られ、行き場をなくしていた。3月後半になって、福島県田村市にある、原発から35キロほどに位置する定員40名の施設に辿り着き、250人以上がすし詰め状態で孤立していることがわかった(4月に入り千葉県の施設が受け入れを表明し、その後段階的に移転が行われた)。

個人的に、微力でも支援を募るなどして出来ることはないかと、施設に直接電話をかけた。「いま必要なものはありませんか」「何を送ってほしいですか」と、職員の方に話を伺った。話を聞いてみると、この施設利用をしている障害者の半数以上がきざみ食などの特別食しか食べることができないという。食料の問題だけでも、ただ「食料」という漠然としたイメージで支援を呼びかけると、食べられないものや必要ないものも大量に届く可能性がある。

わたしがこの施設に電話をかけたのは、3月末だった。この時期、田村市内では既にスーパー等は通常営業を再開しており、食材の調達は現地でできる状況だった。買い出しに行くための車に使うガソリン等もお金があれば現地なんとか手に入る。現場の職員が、一番適切なモノをその場で選び、自分たちで食事を準備できる。

彼らが本当に必要としているのは、移転先の目処がたつまで、物資を買い施設をなんとかもたせる「資金」なのだと、電話越しの声の遠慮がちな雰囲気から察した。「お金が必要なんですね」と率直に訪ねると、「非常に言いにくいことですが、本当はそれが一番、助かります」と躊躇しながら答えてくれた。

避難所でも、同様の問題が生じている。原発が位置する浜通り地域からの避難民は、自分の土地や家に戻れるのかすらわからない、先行きのまったく見えない避難生活を今後も長期的に余儀なくされる。福島県内の3月以降の失業率は、調査員自身が被災したことなどが原因で統計調査を総務省が取りやめているが、少なくとも避難生活者の大部分が失業あるいは休業状態にあることは確実である。風評被害によって県内の経済基盤が被ったダメージは甚大で、避難指示地域の外でもあらゆる産業セクターで倒産や解雇が相次いでいる。

県内外の避難所や一時宿泊施設で最低限の食事や寝泊まりするスペースが確保されるとしても、人として生活するには、ある程度の現金が必要だ。働きたいと思って仕事を探すにも、まず県内に点在するハローワークに行くまでの交通手段にお金がかかる。避難所で配られる物資以外にも、長期間の避難生活のなかで、それぞれの人がそれぞれ最低限必要なモノが出てくる。当然、疲弊もする。モノは目の前のスーパーにも並んでいる。だが、現金がなければ得られない。

◇現場のニーズの変化に、どう柔軟に応えるか◇
当座の生活のために、配る物資以外にも、雇用や現金が必要とされているのならば、柔軟に対処ができないものか。CFWについても、自治体や行政が管理し制度として現場で機能するまでには、時間がかかる。中長期的な公的制度としての議論と並行して、避難所等でNPOや有志が中心になって規模の大小に関わらずコーディネートを実施できるモデル形成をしていくことも必要だろう。

または、例えば寄付金をバンク化して、特例的にマイクロ・クレジットのような、一時金を無利子かつ返済期限は無期限猶予とし貸し付ける仕組みなどをつくれないものか。あくまでも一時金として、限度額設定も低額とする。それで「現金がない」ために動けない被災者の人たちの行動範囲が広がり、そして彼らの選択肢が少しでも広がれば、新たな可能性も生まれるかもしれない。

お金の話は、口にしにくい。緊急支援として「モノ」を受け取っている状況下では、尚更表明はしにくい。当事者は、抱えている問題が深刻であればあるほど、それを発しにくい。どんなに追い詰められていても、窮していても、被災者が自ら本音とニーズを発することは、大きな躊躇と心理的負担をともなう。

「与えられている」というプレッシャーを被災者に負わせることは、彼らを寡黙にさせる。この未曾有の震災の中で、従来の単線的な「援助する」・「援助される」という関係性をこえた、思考と行動を模索したい。

大野更紗(おおの・さらさ)/記事一覧
1984年福島県生まれ。作家。上智大学外国語学部フランス語学科卒。上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科地域研究専攻博士前期課程休学中。ポプラビーチ http://www.poplarbeech.com/ (ポプラ社)にてwebエッセイ『困ってるひと』連載中。twitter:@wsary

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