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「新卒採用廃止」は、若者を救えるのか? 本田由紀×常見陽平

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◇暴走する就活報道?◇
――今回は、人材コンサルタントの常見陽平さんと、教育社会学者の本田由紀さんの対談です。採用と就活に携わってきたミクロな現場のリアルな視点と、日本の教育と職業の接続について構造的に研究されてきたマクロな理論の視点から、就活改革をめぐる議論ができればと思います。まずは、この間の就活論壇についてのご感想をうかがいたいと思います。常見:お会いできて大変光栄です。本田先生の書かれていることとは、落としどころの違いはあるんですけど、根っこにある学生に対する思いや、就活のここが問題だという意識が同じなんじゃないかなと思っています。

本田:そんなに常見さんと私と意見は変わらないんじゃないですかね。私の方がややゴリゴリで、理想論的なことを書いている傾向がありますが。

常見:私は最近、就活に対する報道に共感と一方で怒りがあって、あたってる部分とずれてる部分があるという気がしています。2010年10月時点の内定率57・6%は過去最低でしたが、現実は明暗を分けてるんです。たとえば、関西の有力私大での10月時点での内定率は70%代後半でした。沖縄県は、構造的な問題があるのですが、10月末現在で21・1%なんですよね。大学群、地域によって非常にメリハリがあります。困ってないところは困ってないし、大変なところは大変なんです。「内定長者」と呼ばれている人たちは、内定を5、6個取っていますし。

結局、就活報道は、新聞社や雑誌社の食いぶちになってるんですよ。部数と視聴率が稼げるものになっていて、マスコミの勝利の方程式になっています。やや論理が暴走気味で、このまま行くとますます若者が救われないのではないでしょうか。

◇新卒採用廃止は「トンデモ論」?◇
常見:さらに、報道されているもっともらしい解決案で、本当に学生を救えるのでしょうか。商社の夏採用が美談として語られていますが、他業界の人事担当者から非難轟々で、「商社だけに勝者の論理」と言われています。商社は大人気なのです。とくに東大生には、1年生から商社や外資系に行きたいと言って対策を始める人たちがいるんです。いまの状況を考えたら、ますます就活の早期化・長期化を促して、内定の決まらない人が増えるんじゃないでしょうか。時期を後ろにしても学生が勉強するかどうかは別問題ですし。

本田先生たちが日本学術会議で提言された「卒業後3年以内の新卒扱い」は、権利の拡大という意味で賛成なんですけど、雇用の拡大に本当につながるかというと、内定が決まる人の顔触れって変わらないと思うんですよね。職業訓練など、キャリアラダーのようにワンクッションの経験を積ませたり、大学を卒業して宙ぶらりんになった学生たちが路頭に迷わないような仕組みをつくらない限り、改悪になる可能性があると思います。

あと、新卒一括採用廃止や解雇規制緩和で新卒が救われるっていう論理がありますけど、私はトンデモ論だと思っています。ますます日本で働けない人が増えたり、上の人が抜けたところを非正規雇用で埋めたり、業務がアウトソーシングされたりするかもしれませんよね。OAのシステムも発達していますし、雇用の確保にはつながらず、ますます安易な「ブラック企業」化が進むんじゃないかなと思います。

本田:いま「トンデモ論」と指摘されたんですけど、たしかに、それさえやれば「オールOK」という議論は大間違いだと思いますが、夏以降採用や「3年以内新卒扱い」、新卒一括採用の廃止、解雇規制の緩和は、やり方や度合い、組み合わせによってはトンデモではないと思っていて、言い方の問題でガラッと意味が変わるんですね。新卒廃止論については、「新卒一括採用」を狭義で考えるか広義で考えるか、どこを問題点と見なすか、どこがどう変わったら廃止と呼ぶかをちゃんと整理して話さないと、すれ違うばかりになってしまうと思います。

常見さんの本でも、新卒採用はアメリカや他の先進諸国でも、日本ほど広くないけど存在すると書かれていますね。新卒で採用される人が一部に存在するということと、日本のように大半が在学中に、しかもすごく早い時期に就職活動をして、既卒になると実質的にチャンスが閉ざされてしまい、既卒未経験者の枠がないという構造については整理して語るべきだと思うんです。

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◇「3年以内新卒」にしか注目しないマスコミ◇

常見:そうなんです。「新卒」の定義なんですよ。未経験者とするのか、卒業以内でガチガチかということですよね。卒業以内というところを、私はスタンスとして自由化してもいいと思うんですよ。

本田:常見さんのおっしゃる「自由化」はどういう意味なんですか。その「自由化」だけでも、新卒一括採用の廃止とイコールという解釈になってしまうかもしれないから、本当に考え方の問題なんです。

常見:これは極論ですが、入学1年目の人に内定を出すのも、卒業後未経験・未就労の30歳の人に内定を出すのも一緒という考えです。実際、大学1年生から事実上の内定を出している会社があるんですよね。もちろん企業側にも業績の変化や、それによる倒産リスクはありますので内定取り消しの可能性もありますが。就職するまでに学生の考えが変わるかもしれません。

未経験者にかけるということは、やった方がいいと思います。ただ危惧しているのが、卒業してからはヤングハローワークやハローワーク、ジョブカフェなど、フォローする機関はあるんですが、学生にとっては大学のフォローする力が必要です。それと、貧困大学生が大変増えているので、彼らは結局、就活も何も続けていられないという状態にならないかが気になります。

本田:卒業後に就職活動をしている人をどこかの網にかかるようにするには、いまのところ一番現実的なのが、大学が単位を取り終えた人に対しても、非常に低廉な費用で在学を延長することを認めて、それで特定のサービスのみ「就活サービス」としてキャリアセンターや図書館の利用とかに限定して、抱え込むという案だと思います。大学にとっては非常にきつくて酷でしょうが、酷になれば大学教育の変革・改善に対して刺激になるだろうと思います。

地方になると、大学によって持ってる資源にかなり差があるので、学生に受けられるサービスの違いがあったら不公平ですから、大学は地域などで連合して共通のサービスを提供する方が、求人情報などのノウハウも共有されて、現実的な方法だと思います。大学だけでなく、大学連合とハローワークやサポートステーション、NPOなどが寄り集まって支援を提供するということもありうるかなと思っています。

もちろん、貧困学生へのセーフティネットも提言しています。ただ、そこを指摘するのなら、日本はこれだけ私立大学が多くて、しかも奨学金が整っておらず、大学教育が高額になっているという病巣の問題に入ってくるんですけどね。

そうした仕組み抜きの「3年以内新卒扱い」ではいけないということは、日本学術会議の「大学と職業との接続検討分科会」メンバー全員が同意しています。ところが、政府ですら「3年以内新卒」に飛びついていますからね。すごく単純化されています。いろいろな他の手当や大学教育の変化、企業側の採用方式の時期だけでなく、方式の複線化・多様化と絡めた一つの構成要素としての3年以内です。しかも3年にこだわる必要はまったくなく、私はせめて5年ではどうかと言ったんですが、5年はいまのところ無理じゃないか、「最低3年」としておくのはどうかという議論が分科会内であったというだけのことです。私の考えでは、何年以内というのは意味がなく、卒後何年であってもその人が身につけた知識や技能に応じて機会は開かれるべきだと思います。とにかく、何か一つのことが解決策になるかのような言い方をする報道や論者の問題もすごくあると思います。

◇就活ナビサイトの「7つの大罪」?◇

――新卒一括採用の柱として、採用時期、人事部一括採用、採用基準、さらに大学教育などの問題点がありますよね。それぞれ、検討していければと思います。

常見:新卒の定義を広げる企業も出てきていますが、たいてい人事の人たちは、「ほかの会社はどうやっている」ということばかり気にしていて、横並びなんですね。リクナビ、マイナビの広告のつくり方も全部同じで、「起業家タイプの成長意欲のある学生」とか「チャレンジを」とか、非常に安易なんです。

結局、採用時期のことしか考えていなくて、早くからインターンでツバをつけておいたり、4月に入ったら他社の動向をみた内定出しの駆け引きが行われています。他社より早く内定を出して囲い込む競争になってしまうんです。昔の就職情報会社は、そこの会社の魅力を抽出して、他との違いをつくったわけですよ。それができないから、ますます就職を肥大化させる一方で、安易な方法で並んでるという気がしています。日本と海外の就活で明確に違う点の一つは、エントリーシート(ES)かレジュメかというところなんです。海外ではレジュメで、この学校だから、このスキルがないからという理由で切られてしまいます。ESは、91年卒でソニーが初めて採用したと言われていますが、むしろ学歴不問で人物評価をする弱者救済のための制度だったんです。

いまは就職ナビが肥大化しているため、ベンチャー企業にだって、20人しか通らないのに1万人が応募する時代です。ESはいま、そこを振り落とすのに悪用されていて、大変難しくなってるんですね。カラオケの持ち歌や、3000万円あったら何に使いますかとか、いろいろなことを聞いてきます。やらなくていいことをやっているわけで、選考プロセスやそこでの質問の意味についてなぜこれだけ多く必要なのか、答えられない人事担当者もいます。最近はさらに、企業によってはウェブテストの診断で、ESを読む前に人を振り落としています。

本田:私はその肥大化を煩雑化と呼んでいます。就職サイトの罪は大きいですよね。

常見:はい。だからリクナビは「7つの約束」と言ったところで「7つの大罪」をいままで犯してきたわけです。私がその大批判キャンペーンを行ったんですよ。

本田:まあ、ああいうところは企業の利害にある種おもねって収益を得ているんですからね。……(つづく) 

つづく主なテーマは……「ゆとり」化する人事部の採用スキル/職種別採用の前に営業大学をつくれ!?/企業は「学歴差別宣言」をできるのか?/人事担当者は大学教育に興味がない?/「就活エリート」じゃない、普通の人が身を守る方法/ジョブ型正社員か、ノンキャリア正社員か/ブラック企業にメスを、中小企業に横串を/面接で質問をぶつければ会社は変わる?    /司会・構成:坂倉昇平(『POSSE』編集長)

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◇『POSSE vol.10』内容紹介◇
大学生の就職活動の実態が報じられ、就活改革が取りざたされる中、「就職後」にまで目を向けた議論は多くはない。「就活」が「ブラック企業」を補完する構造とは? そして、現在の就活システムに終わりは来るのだろうか?
●「「新卒採用廃止」は、若者を救えるのか?」〜抜本的な改革の構想と現場のリアリズムの対論は、どこへ向かうのか―― 本田由紀(東京大学教授)×常見陽平(人材コンサルタント)
●「ブラック企業と労働法」〜どの企業もブラック企業になる可能性/労働法と労働運動の強化、そして契約意識の涵養を 西谷敏(大阪市立大学名誉教授)
●「若年労働者はなぜ働きすぎてしまうのか」〜就活、過労死、非正規化――/脱企業社会化の「最後の切り札」とは 森岡孝二(関西大学教授)
●「就職活動システムの現代的機能 ――「失敗」して「成功」する「再配置」――」〜留年、進学、奨学金……諸制度が支える「諦念サイクル」 今野晴貴(NPO法人POSSE代表)
●「就活に追い詰められる学生たち――就活生の7人に1人がうつ状態――」〜2011年度POSSEアンケート調査/「若者」の仕事とうつ」中間報告 川村遼平(NPO法人POSSE事務局長)
●「終わりなきシューカツ」〜入社しても「本採用」が獲得できない!「研修」「予選」「試用期間切り」…… 本誌編集部

本田由紀(ほんだ・ゆき)
1964年生まれ。東京大学大学院教育学研究科教授。専門は教育社会学。著書に『教育の職業的意義』(ちくま新書)、『軋む社会』(双風社)、『多元化する「能力」と日本社会』(NTT出版)など多数。

常見陽平(つねみ・ようへい)

1974年生まれ。人材コンサルタント、作家。株式会社クオリティ・オブ・ライフ チーフプランナー。著書に『脱アコガレ!これが真実のマスコミ就活だ!!』(早稲田経営出版)、『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)など。

POSSE(ポッセ)
NPO法人POSSEは職場の問題に取り組むと同時に、若者自身がこれからの社会のあり方の決定に参加していくための団体です。若者自身の手で労働相談を受け、調査活動を行い、これからの日本社会に必要な政策提言を行っています。さらに、実態調査、貧困問題の解決や持続可能なライフスタイル、文化など多様な現代社会の問題に若者自身の手で取り組んでいきます。
website ⇒ http://www.npoposse.jp/
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