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米映画「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」を見るべき6つの理由

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先月末から、米映画「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」が日本で公開中だ。

「あの(有名な)ペンタゴン・ペーパーズ」を暴露した新聞社の物語で、監督は修飾語が必要ないぐらい著名なスティーブン・スピルバーグ、主演の2人はアカデミー賞受賞者のメリル・ストリープとトム・ハンクス!作中では、「ツイッター政治」を繰り出すトランプ米大統領への批判もあるという。

これほど真剣で時節にぴったりと合った、豪華な映画があるだろうか。

しかし、実はこの映画、英国アカデミー賞では候補作に入らず、本命の米アカデミー賞では作品賞と主演女優賞にノミネートされたものの、受賞には至らずに終わっている。

もしかしたら、米政治やジャーナリズムに興味がある人だけにアピールする作品であり、広い支持を得られる映画ではないのかもしれない。

そもそも、権力と対立する新聞社が舞台になっているものの、作中で描かれている新聞社はワシントン・ポスト紙。ペンタゴン・ペーパーズを最初にスクープ報道したのはニューヨーク・タイムズ紙であり、ポストは「2番手」だった。それに、「新聞社」の話なんて、このネット時代に古臭い?

いやいや、そんなことはない。お金を払って本作を見る価値は十分にある、と筆者は思う。

新聞が権力と戦うには「武装」する必要がある

その理由をいくつか、挙げてみたい

(1)題名ですべてが分かる

この映画の原題名は「The Post(ザ・ポスト)」。ワシントン・ポストのことである。

昨今は原題をそのままカタカナにして邦題にする場合も多いが、ここではあえてそうしなかった。

筆者はロンドンで最初にこの映画を見たのだが、「ザ・ポスト」の邦題が「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」になったことを知った時、あまりの違いに驚いた。「全然、違うではないか」、と。

しかし、映画を見た後ではこの邦題は正しい選択だったと思う。

何故なら、この作品はまさに最高機密文書であるペンタゴン・ペーパーズについてのものだったからだ。「新聞社の話」としてまとめられてはいるものの、これがなかったら、映画は存在しない。

(2)「ペンタゴン・ペーパーズ」の意味が分かる

この文章の最初の方で、「あの(有名な)ペンタゴン・ペーパーズ」を暴露した新聞社の物語・・・と書いた。

しかし、「ペンタゴン・ペーパーズ」と聞いて、すぐに何かを説明できる人がどれぐらいいるだろう?

もちろん、検索すれば様々な情報が出てくるのだが、本作で描かれているドラマを通して、この文書がいったいどんな意味を持ち、どのように受け止められ、どんな結末になったのかを代理体験できる。そうすると、細かいことは記憶に残らなくても、大筋のところが自分の一部になる。

日本では今、「森友文書」などの公文書が書き換えられていたことに対し、国民の怒りがある。そのような怒りがこのペンタゴン・ペーパーズに対してわき起こったことも、分かってくる。他人ごととは思えなくなってくるのである。

「ペンタゴン」とは米国防省を指す。国防省の建物が、上から見ると「五角形(英語でpentagon)」だからだ。「ペーパーズ」は文書のことだ。つまり、ペンタゴン・ペーパーズと言えば「国防省の文書」を指す。

しかし、単なる文書ではなく、ここでは1970年代、ベトナム戦争の状況を分析した極秘の報告書のことである。

筆者は以前に、新書「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社、2011年)でペンタゴン・ペーパーズと新聞社の戦いについて書いたことがある。これはペンタゴン・ペーパーズについての紙や電子の資料を使ってまとめたものである。

しかし、この映画を見て初めて、「こういうことだったのか」としっかりと体感することができた。たくさんの資料を読むよりも、この映画1本を見れば、この文書を巡る大体のストーリーが理解できる。

(3)名演を楽しむことができる

ワシントン・ポスト社の当時の社主は、キャサリン・グレハム。彼女を演じるのがメリル・ストリープだ。

グレハムは以前に同社の社主だったユージーン・メイヤーの娘である。キャサリンは1940年に夫のフィリップ・グレハムと結婚する。6年後、父メイヤーはポストの発行人の地位をフィリップに譲った。父が自分ではなく夫を発行人として選択したことをキャサリンが特に不服に思った様子はない。

フィリップの経営の下でポスト社は大きく飛躍を遂げる。他の新聞やテレビ局、ラジオ局、週刊誌「ニューズウィーク」も傘下に入れた。

しかし、1963年、フィリップは謎の自殺を遂げてしまう。その後を引き継いだのがキャサリンだった。この頃、米国の全国紙の中で唯一の女性の発行人である。

当時、企業の経営陣の中で女性の姿は珍しく、映画はポスト社の株を上場する直前に自信なげに経営を行うキャサリンの姿が描かれる。

そのいかにも「経験不足」を表に出したような顔つき、物腰をストリープが演じる。後に、ポスト紙は時の政権と戦いながら、極秘書類を紙面で公表していくが、この時のキャサリンには静かな自信が見えてくる。この「おずおず」から「自信」への変化をストリープが見事に表現する。

トム・ハンクスの方は絵に描いたような「昔の新聞社の編集長」(葉巻をぷかり、机に両足を乗せて話す、新米記者に「行け!」と号令をかける)を演じ、これがまた漫画チックで面白い。

(4)レトロな新聞社の編集室を見ることができる

舞台は1971年。インターネットもスマートフォンもない。机に置いた電話にしがみついて情報を取るか、取材対象がいる場所に行くか。秘密の電話はオフィスを抜け出し、公衆電話からかけるしかない。公衆電話にはコインを使うが、コインを入れながら、受話器に向かって話しながら、かつメモも取るのは至難の業だ。

記事の入力はもっぱらタイプライター。編集室でも会議室でも、みんながタバコを吸っている。

編集会議の出席者はほとんどが男性だ。昔はどこもこうだった。

(5)権力との戦い方を学ぶことができる

政府にとって都合が悪い情報を報道しようとするとき、メディアはどうするべきか?

それを教えてくれるのがこの映画だ。

一言で言えば、「武装する」ことだ。つまり、どこからどんなことを言われても跳ね返せるような法律顧問のチームを作る。映画の中でも故意に意地悪な質問をする顧問役が出てくる。

以上、この映画を見るべき理由として5つ、挙げてみた。

最後の1つは後で記したい。

ペンタゴン・ペーパーズの暴露までとその後

見るべき理由の最後の一つを挙げる前に、改めて、ペンタゴン・ペーパーズ(以下、「ペンタゴン文書」)が何だったのか、そしてその後どうなったのかを振り返ってみよう。

ペンタゴン文書とは、「第2次世界大戦後の米国の対ベトナム政策をまとめた、極秘報告書」だ。

「ベトナム戦争」は広義には第2次大戦後にベトナムで行われた戦争だが、狭義では1964年以降、米国が大規模に介入し、73年の和平協定を経て、75年にベトナム民主共和国(北ベトナム)と南ベトナム解放民族戦線が勝利するまでを指す。

文書の内部告発者となるデービッド・エルスバーグは、シンクタンク「ランド研究所」に勤務し、極秘報告書「ベトナムにおける政策決定の歴史 1945-68年」(=「ペンタゴン文書」)の作成に調査員の1人として関わった。

60年代半ばまでに戦争は泥沼化し、国務長官ロバート・マクナマラはベトナム戦争の詳細な報告書を作るよう指令を出した。未来の政策立案者が間違いを犯さないよう、歴史家のために記録を残そうとしたのである。

1968年、マクナマラは国務長官を退任したが、報告書の制作は次の国務長官の下で継続され、翌年までに全部で7000ページ、47巻構成としてまとまった。

エルスバーグによると、報告書は「4人の大統領の下で、秘密に覆い隠されながら、米政府が欺瞞と致命的に愚かな意思決定を繰り返してきたこと」を露わにしていたという(彼のブログより)。

反戦を支持するようになったエルスバーグは、戦争の拡大を防ぐには国会と国民に情報を与えるしかないと確信し、1969年の秋頃から、同僚とともに文書の複写を作りだした。

相当の枚数の文書をコピー機で作っていく様子が、映画の中でも描かれている。

CDやUSBに大量の情報を入れて渡す時代は、まだ到来していなかった。

当初、エルスバーグはある国会議員に文書のコピーを送ったが、この議員は公表には同意しなかった。

そこで、コンタクトを取ったのがニューヨーク・タイムズのニール・シーハン記者だった。

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