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米中貿易戦争であっさり白旗を挙げた中国 - 澁谷司

 よく知られているように、米国は長年、対中貿易赤字で苦しんでいた。他方、中国側は圧倒的な対米出超で外貨を稼いできた。今なお、北京政府は国内の過剰生産物を海外、特に米国へ輸出したいに違いない(アジア・インフラ投資銀行<AIIB>を利用した「一帯一路」はその好例だろう)。

 かつて、米国からの対中投資が多かった。そのため、米政府が中国に高い関税をかけると、中国大陸に進出している米企業の(主に米国への)輸出に支障が出た。

 ところが、現在、大部分の米企業は既に中国から撤退している。中国国内の賃金が上昇し、投資環境が悪化したからである。米企業は、工場を第3国へ移転するか、米国内へ戻ってきている。従って、ワシントンが中国製品に高関税をかけても、米企業は痛みが少なくなった。つまり、以前のような“ブーメラン現象”は起きづらい。

 さて、トランプ米大統領は、国内で雇用を増やす公約を掲げて登場した。今回、大統領は中間選挙を見据えて、有権者の心を掴むべく対中貿易戦争を仕掛けた。対中輸入関税引き上げを決断したのである。

 それに対し、当初、習近平政権は、ワシントンの措置に反発し、対米報復措置を取った。また、中国は決して外国の圧力には屈しないと息巻いていた。

 “米中チキンレース”を世界は固唾を飲んで見守った。しかし、それは、実にあっけない幕切れとなったのである。

 今年(2018年)4月10日、習近平中国国家主席は、海南島で開催された博鰲(ボアオ)アジア・フォーラム開会式の演説で、唐突に、今後、中国は4つの努力をすると公表した。その内容は次の通りである。

 (1)外資の市場参入規制を緩和する。銀行、証券、保険業の外資の持ち株比率制限を拡げ、とりわけ保険業界の開放を加速させる。また、製造業では、自動車、船舶、飛行機分野への外資参入を緩和する。

 (2)投資環境を改善し、外資を呼び込む。

 (3)知的財産権の保護を強化する。

 (4)輸入を拡大する。今年、中国は、自動車の輸入関税を大幅に下げ、また、一部、他の製品の輸入関税も下げる。

 北京がワシントンに白旗を挙げた瞬間だった。米中貿易戦争は、中国側の大幅な“譲歩”であっさり収束を迎えたのである。

 以前から我々が主張しているように、近年の中国経済は良くない(2015年、中国のGDPはマイナスだった可能性が高い)。従って、“チキンレース”を続ければ、回復基調にある輸出に陰りが出る。もし、また景気が悪くなるならば、習政権、ひいては中国共産党の存続が危うくなる。

 北朝鮮同様、中国も、やはり背に腹は代えられぬという事ではないのか。習近平主席は著しく面子を失ったはずである。党内で、主席への批判は免れないだろう。

 今回に限って言えば、ワシントンの大勝利と言っても決して過言ではない。結果は、トランプ大統領の思惑通りとなった。今頃、大統領は、内心「してやったり」と大喜びしているのではないか。これは、おそらく今秋の米中間選挙への追い風となるだろう。

 この度、米中貿易戦争が起こった際、我が国では様々な意見が噴出した。

 輸出依存度の大きい中国側がより多くの痛手を被ると言う意見が多かったのではないか。

 一方、米国側の方が不利だと言う意見も散見された。また、痛み分けだと言う意見もあった(何故か、米中のハザマで日本が不利益になると言う説まで飛び出した)。

 けれども、経済学の常識からすれば、出超の中国が不利になるのは明らかではないか。中国側には、米国に反撃すべく弾(高関税をかける品目)が少ないからである。

 ところで、中国は独裁国家(昨今、西朝鮮と揶揄される)なので、何でもできると考えている人がいる。北朝鮮のように、ある程度、自給自足経済を行っているならば、それは可能かもしれない。

 しかし、今や中国は国際社会の中で、非常に大きな位置を占める経済体である。いくら「中国の特色ある」(独自性のある)と言っても、経済原理を無視した政策を実行できるはずはない。たとえ、権力が集中していると言われる習近平主席でもそれは不可能である。

 この度の米中貿易戦争は、我々にその点を再確認させてくれたのではないだろうか。

澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。
専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等多数。

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