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「お互いさま」を日本中に、世界中に

 あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。今年こそ、いい年でありたいなあと、ひとしお思うのは、やはり昨年の東日本大震災への忘れがたい思いがあるからでしょう。

 さて、そんな思いで迎えた新年、ちょっと心に残る言葉に出会った。私たちの仕事は書き、そして、しゃべること。どちらにしても、言葉で生きている生業。あらためて、今年も、言葉の持つ意味と、その重さに心して仕事をしていかなければという思いを強くしたのだ。

 ところで、昨年末はちょうどクリスマスイブのころ、私は、断続的に雪が舞い、テレビ取材のロケをした海岸ではマイナス4度だった被災地、岩手、宮城を訪ねてきた。これで被災地の取材は3度目。だが、正直に言ってがっかりした。復旧、復興なんて私たちメディアが勝手に騒いでいるだけのことではないのか、とさえ感じたのだ。いま、被災地で行なわれていることは後片付け、お掃除にすぎない。なるほど、ガレキは海岸から消えていた。だが、ちょっとぐるりを見渡せば、別の場所にガレキが移動しただけなのだ。その高さは小山と呼んでいいほどになっている。持って行き場のないガレキを一カ所に集めただけ。それでも片付かないものだってある。気仙沼では、津波で港から数百メートル運ばれてきた400トンはあろうかという漁船が更地になった元の住宅街にデンと巨体を居座らせている。このままでは、被災地は復旧も復興もあったもんじゃない。ただ、ただ、この現実を黙って受け入れるしかない。

 それはそうだろう。いま、全国の都道府県で被災地のガレキの受け入れを表明している自治体は東京、山形など、五指に満たない。他の自治体は「たとえ、放射能が検出されなくても住民の反対を考えると、とてもとても」と腰を引いてしまっているのが現実だ。大都市で放射能の線量計を溝に突っ込んで、「放射能が怖くて、子どもに何を食べさせたらいいかわからないわ!」と叫んでいるお母さんたちは、この被災地の実情をご存じなのだろうか。

 さて、前置きが長くなったが、そんないささか暗い気持ちを被災地から引きずって帰った新年。型通り、妻と愛犬プルとでお屠蘇を祝っていると、妻が年末の町内の道路掃除の折り、隣家のご婦人からこんな言葉を聞いたと言って話し始めた。ご婦人は70代初め。家はお能の家元で、時折、ご自宅にしつらえた舞台でご主人がお弟子さんに稽古をつけている声が聞こえてくる。お能の家元などというと私たち町場の人間には近寄り難いものを感じるところだが、ご婦人は上品ななかにモロ大阪のおばちゃん的要素を持った楽しい人。わが家が数少なくご近所づき合いをさせていただいている方だ。

 どこの家から、どの葉っぱが飛んできたかわからない家々の間の道で、葉っぱを箒でかき集めながら、ふと、ご婦人が「絆という言葉も嫌いやないけど、わざわざそれを今年を象徴する漢字なんて大きく取り上げんでも、私らの世代には、わかりやすく『お互いさま』いう言葉があったのになあ」とポツリと言われたというのだ。

 妻の話はそこまで。だけど、日ごろはウイスキーばかり、お屠蘇として飲む、たまの日本酒の熱燗の温かさだけではなく、この「お互いさま」という平凡な言葉に私の体はほっこり、ほんのりとしてきたのだった。

 「お互いさま」、この言葉で今年は被災地と日本中が結ばれたらいいのにな。いや、欲張りかも知れないけど、世界中の国々が「お互いさま」と言い合えたら、どんな素晴らしい年になるだろうか。プルの屈託のない顔を見ながら、少し酔った頭でそんなことを考えていた。

 さて、ここで一つ、お知らせ。私が名古屋以西版の「日刊スポーツ」に毎週月曜日、書かせていただいている「フラッシュアップ」は、新聞掲載の翌日にこのホームページにアップさせていただいている。だが、昨年10月から「アレ、今週はないの」「さては、あちこち飛び回っていて、今週は書けなかったのかな」なんて声が寄せられている。大勢の方に、こんなに読んでいただいると思うとうれしい限りだが、実は一般紙の新聞休刊日は日刊スポーツも宅配はなく、駅売りだけとなる。そこで昨年10月から、一般紙の休刊日が月曜日となる場合、フラッシュアップも休載ということになったのだ。決してさぼっていたわけではないので、悪しからずご了承の上、これからも、どうぞご愛読を。

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