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即身仏と個人情報保護の壁

 先日、小学生の孫が訪ねてきました。夏休みの社会科の勉強のテーマを探しているとかで、そういえば旧朝日村の七五三掛(しめかけ)集落にある注連寺の、鉄海上人に会いに行きました。鉄海上人はミイラです。日本には昔ミイラ信仰があって、全国にミイラ、つまり即身仏は三六体あるのだそうです。そのうちの、六体が鶴岡周辺に祀られています。

 ミイラの前身は僧侶です。長い修行の最後、高齢になった僧侶は、自らの意志で即身仏の修行に入り、五穀、十穀と、少しずつ穀物の摂取を断っていく。するとだんだん骨と皮になっていくが、内臓だけはちゃんと動いているのだそうです。やがて衰弱が進み、意識が朦朧としてくると、弟子がその身体を箱に収め、土の中に埋めます。箱の天井には穴が開いていて、そこに竹の筒を差して空気を送る。僧侶は静かに息をしながら衆生救済を願い、この地の豊穣と安寧を祈って鉦を叩く。その鉦の音が鳴り止んだとき、弟子たちは竹の筒を抜いたのだそうです。

 おりしも、東京都の111歳の男性が、実は30年以上前に「即身成仏する」と言い残して自宅でミイラ化していたのに、遺族が届けを出さず、老齢年金や遺族救済年金を不正受給し続けていたというニュースが入りました。日本の即身仏は、確かに自ら死を選びますが、古代エジプトの王たちの死からの再生を願うミイラとは違い、死に向かって用意周到、周囲の手も借りながら、明るく、前向きです。生きていれば全国長寿番付2位だったはずのその男性が、どのような気持ちで死を選んだのかは知る由もありませんが、本来の即身仏は、遺族にお金を残すために死を選んだのではありません。

 最近の高齢者と年金に関するニュースを見ながら、誰にも生死が分からないままに放置されている高齢者の存在を思い、寒々とした気持ちになります。いつから日本はそんな社会になったのでしょう? その原因のひとつに、同じ市役所でありながら、高齢者医療担当課で得ている個人情報を、高齢者住宅担当官には見せられないという現実があるように思います。市町村など末端自治体がいちばんやらなければならないのは、自分たちが保護しなければならない住民の存否、健康状態、所在の把握でしょう。国民の生存の確認のためには、個人情報保護の壁は乗り越えられるべきものではないでしょうか。

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