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IS「シリア帰り」に厳戒態勢の中国・新疆ウイグル自治区―テロ対策のもとの「監獄国家」

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  • 中国の新疆ウイグル自治区ではプライバシーがゼロの監視体制が生まれている
  • 当局は「ISのテロ対策」でこれを正当化している
  • しかし、実際にISの大規模なテロが発生する可能性と比べて、その取り締まりは不釣り合いなほど厳しい
  • 中国当局は「テロ対策」を利用して少数民族支配を強化しているが、それは結果的にテロの芽を大きくしかねない

 習近平体制のもと、中国はもはや「監獄国家」と呼べる水準に近づいています。市民への監視、思想統制、移動の制限は、とりわけムスリムのウイグル人が多い新疆ウイグル自治区で強化されています。

 深刻な人権侵害をともなう少数民族の取り締まりを中国当局は「テロ対策」と説明しています。しかし、新疆でイスラーム過激派のテロが実際に発生する危険性に比べて、中国当局の対策は不釣り合いなほど厳格。そこには「テロ対策」を名目に少数民族支配を強化し、中央アジア方面への進出の足場を固めようとする意図をうかがえます。

中国のなかの中央アジア

 新疆ウイグル自治区の面積は日本の4倍以上の約166万平方キロメートル。アフガニスタンなど中央アジアに隣接します。この地に暮らすウイグル人の人口は約1100万人で、中国最大の少数民族。10世紀以前からトルコ方面からきた騎馬民族の子孫といわれます。

 この地は1955年に中国に編入されましたが、その後ウイグル人の分離独立運動は絶えず、その度に中国当局がこれを鎮圧。2000年代からは「テロ対策」の名のもとで「厳打」と呼ばれる厳しい取り締まりが行われてきました。

 筆者は2000年代後半から2010年代初頭にかけて、あるプロジェクトの一員としてこの地を何度か訪れました。当時、既に外国人の多いホテルなどで常に持ち物検査が行われ、国内線の搭乗には国際線以上に厳しいチェックがありました。しかし、数少ない報道からは、習近平体制による取り締まりが当時と比較にならないほど厳しいことがうかがえます。

ゼロ・プライバシー社会

 ヨーロッパ文化技術大学のアドリアン・センス博士によると、2017年度の新疆の予算に占める治安対策費は約12億ドルで、医療予算のほぼ倍。2017に新たに採用された警察官は10万人にのぼり、これだけでも全人口のうち220人に1人(日本では全員でも500人以上に1人)にあたる割合です。


最大都市ウルムチはオアシスの巨大都市(筆者撮影、2008年)

 当局の監視は、私生活のほとんど全てに及びます。2017年12月には当局が全てのウイグル人の顔写真、指紋、目の虹彩、DNAまで採集していることが発覚。さらに街中に配置された赤外線カメラで収集された顔認証データや、LANアナライザで集められた通信記録など、最新システムに基づくビッグデータも、この監視体制を支えています。

 ハイテクだけでなくローテクの監視も強化されており、当局は「テロや暴動に関連する情報」の提供者に最大500万元(約8500万円)の報奨金を提供。その対象には「違法な宗教活動」まで含まれ、いわば密告を奨励するものといえます。文革時代にもみられた密告は、市民同士の不信感を高め、バラバラにすることで、管理を容易にする効果があります。

監獄と化した新疆

 こうして監視が強化される一方、新疆では2017年4月頃から「正しくないイデオロギーの影響を受けた者」を収容し、教化する再教育キャンプの存在が指摘されるようになりました。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、2018年3月現在で収容者数は約80万人。収容者のほとんどが40歳未満の若者とみられます。

 海外に逃れようとするウイグル人も少なくありませんが、最近では移動の制限も強化されています。2017年7月にはウイグル人留学生数十人がエジプトで拘束され、中国に送還されました。

 さらに、運よく海外で国籍を変更できたとしても、監視は続きますフランスでは2018年3月、フランス国籍をもつウイグル人が中国警察から居住地、職場、身分証のコピー、さらに配偶者の身分証のコピーまで提出を求められていることが発覚。多くの場合、新疆の親戚が半ば人質となっている以上、外国籍を取得したウイグル人もこれに応じざるを得ないといいます。

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