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オリンパス社取締役会は、なぜウッドフォード氏を代表者に選んだのか?

皆様、新聞ニュース等でご承知のとおり、オリンパス社の開示情報として、「取締役責任調査委員会(弁護士3名による構成)」から200頁に及ぶ報告書がリリースされました。甲斐中報告書(第三者委員会報告書)に依拠するところが多いとしても、短期間に31名に及ぶヒアリングを行った上での詳細な報告書提出、ということで、関係者の方々の正月返上での尽力に頭が下がります。新旧取締役の善管注意義務違反の有無を判断するにあたり、前提となる事実認定ならびに法的検討が詳細に行われており、結論の厳格さからみても公正さがうかがわれ、高く評価されるものかと思われます。ただ、法的評価につきまして、私は別の意見を有しております。

ウッドフォード氏がオリンパス社の役員会で2008年の国内三社の買収、ジャイラス社買収時のFA手数料の異常さに異議を唱えた際の調査が不適切であったことについて、ウッドフォード氏を解任する決議に参加した取締役には法的な意味での善管注意義務違反は認められない・・・と上記報告書が結論付けておりますし、このような結論を導く根拠としましては、すでに昨年11月9日の当ブログでのエントリー「他社をかばう美徳とオリンパス事件の進展」のなかで検討したとおりでありまして、ほぼ予想どおりであります。

調査委員会の報告書は、多くの取締役がウッドフォード氏が代表取締役としての適格性に欠ける、という意味で解任決議に賛成したのでありまして、なにも不正事実の調査放棄に結び付くわけではない、と結論つけております。しかし、ウッドフォード氏が告発したのは、単なるオリンパスの一社員による内部通報としてではありません。れっきとした大会社の社長たる地位にある者が、第三者的立場にある会計事務所(PWC)の意見を添えて不正疑惑を持ち出してきたのでありますから、「異常な兆候」つまり不正行為を合理的に疑わせるだけの客観的・外形的な事実が存在していたのであります。したがいまして、「もう前に済んだことだから」「どうも社長としての適格性に欠ける」(調査報告書107頁以下参照)という意味で解職したことが(調査義務放棄とは結びつかず)善管注意義務違反にならない、というのであれば、その前提として「なぜ、あなた方取締役は、その数か月前にウッドフォード氏を代表取締役に選出したのか?」という点が明らかにされなければ説得力に乏しい、と言わざるをえません。

しかし、上記調査報告書では、なぜオリンパス社の取締役会が、解職の数か月前にウッドフォード氏を代表取締役に選んだのか、その詳細な検討がなされておりません。もう数年前から次期代表者はウッドフォード氏と決まっていたのであれば理解できますが、日本人ではなく外国人の社長を同社として初めて選出するわけですから、たとえば日本的経営感覚と合わないとか、日本に滞在する期間が短いとか、そういったことは覚悟のうえで、同氏を代表取締役に選出したのではないかと思われます。

また、そもそも「経営感覚に問題がある」のであれば、就任以降のウッドフォード氏が代表者としてふさわしくないことを物語るような「特徴的な出来事」などにも触れたうえで、この「過去の不正疑惑の告発」が解職判断の決定的な出来事になった、といった経緯が解説されていなければなりません。そのような経緯も説明されず、不正告発の直後に「経営感覚が合わない」といった理由で解職に全取締役が合意する、というのは、明らかにウッドフォード氏を代表者に選出した動機と矛盾するものでありまして、到底信用できないものであります。

異常な兆候を目の前にして、取締役が少しばかりの努力によって、その解明の糸口を把握することが可能なのであれば、その「少しばかりの努力」をしなかった取締役に善管注意義務違反が認められるのは、平成21年の大原町農協事件最高裁判決、平成11年の釧路生協組合債事件高裁判決の理屈にも合致したものであり、本件でも「社長の告発」だからこそ、他の取締役にはこの「少しばかりの努力」が必要だったのではないかと考えます。

多数の取締役・監査役の責任が認められたダスキン事件株主代表訴訟判決におきまして、「いますぐ公表せよ」と役員会で異議を唱え、社長に手紙を送った社外取締役の方は、(結局不正隠ぺいを食い止めることはできませんでしたが)この「少しの努力」を惜しまなかったために、責任を問われることはなかったわけでして、今回のオリンパスの取締役の方々にとっても、この少しの努力は決して期待可能性に乏しかったわけではないと思われます。

また、ウッドフォード氏を解職したとしても、ウッドフォード氏は取締役として残るわけですから、取締役の面々としても、せめて第三者委員会を設置して検討することぐらいは考えていた(したがって、解職への賛同と調査義務放棄とは結びつかない)と、調査報告書は述べております。しかし、(1)現実にはウッドフォード氏は「直ちに自分ひとりで英国に帰るように」と申し向けられ、業務執行取締役としての地位は喪失していたこと、(2)海外のマスコミが騒ぎだした直後、オリンパス社は「根も葉もないうわさを軽信するな。もし噂を流すのであれば法的措置も辞さない」と公表し、そこには再度の調査意思があることは一切認められないこと、(3)そもそも週刊朝日のスクープがきっかけとなって不正事実を公表したものであり、内部調査を行ったことを示す根拠が一切見当たらないこと等からみますと、調査委員会が述べるように、ウッドフォード氏の解職と調査義務懈怠が別問題とする理由にはあまり説得力がないように思われます。

私のような考え方ですと、技術系出身の取締役さん、社外取締役さん方にとっては厳しすぎるのではないか、とのご意見もあろうかとは思います。そのあたりは、損害との因果関係を検討したり、(報告書にもあるように)求償関係によって割合的な責任を検討することで調整すべきではないでしょうか。12月6日に公表された甲斐中報告書でも詳しく触れておられませんが、どうしてオリンパス社は昨年6月、外国人であるウッドフォード氏を代表取締役に選んだのか?不正会計の処理が済み、本当にグローバルな企業として生まれ変わろう、との前向きな気持ちで役員全員の賛同をもって選出されたのではないのでしょうか?そう考えれば考えるほど、取締役の方々の不作為(監視義務違反、調査義務違反)の重みを感じざるをえません。

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