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何が目的? 放送法の改正 - 南部義典

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突然湧いて出た、放送法の改正方針

 森友文書改ざん問題の発覚と時期を同じくしていたでしょうか、「政府内で、放送法改正の検討が始まっている」との報道がちらほらと、突然湧いて出てきました。報道によると、放送法4条を削除することなどの内容で、政府はことし秋の臨時国会、または来年の通常国会に放送法の改正案を提出する方針とのことです。

 放送法は、総務省が所管しています。しかし、一連の報道の情報源は総務省ではなく、首相官邸であることが後に判ってきました。野田総務大臣は、3月20日の記者会見で放送法4条の削除に関する認識を問われて、「現時点に関しては、今、御質問いただいたことは全て承知しておりませんので、ここでコメントするのは差し控えたいと思っています。今後、様々な検討の場所で多様な意見が出てくるわけで、それをしっかり見守り、総務省として取組むべきことは取組んでいくということを申し上げるにとどめたいと思います」と素っ気ない答えを返すだけでした。言葉のニュアンスとしては、不快感が若干混じっていて、苦虫を嚙み潰しているような印象を受けます。

 一体、どういうことでしょうか。総務省が進めるつもりのない政策を、首相官邸が横やりを入れて、あえて進めようとする背景には、好からぬ意図が隠されているのではないかと疑わざるを得ません。削除されるといわれている、放送法4条とは、次のような規定です(3条も合わせてご覧ください)。

放送法
第3条(放送番組編集の自由)
 放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。
第4条(国内放送等の放送番組の編集等)
1 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
 一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
 二 政治的に公平であること。
 三 報道は事実をまげないですること。
 四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにする
こと。
2 (略)

 放送法4条1項は、1号から4号まで、番組を編成する上でのルールを定めています。「番組編成準則」ともいわれます。

 ここで思い出していただきたいのが、2年前、高市総務大臣(当時)が「放送事業者が極端なことをして、行政指導をしても全く改善されずに公共の電波を使って繰り返される場合に、全くそれに対して何も対応しないということは約束するわけにはいかない」と答弁し、放送事業者が放送法4条違反となる放送を繰り返せば、電波法76条に基づいて「停波」を命じる可能性に言及した件です(2016年2月8日・衆議院予算委員会)。

 高市答弁は当時、放送事業者の一つの番組だけに焦点を当てて政治的公平性(放送法4条1項2号)を欠いたと判断する可能性を示唆し、さらに「停波」という単語を躊躇なく出したことから、報道機関の萎縮をもたらすと批判が拡がりました。「停波」などの処分は謙抑的であるべきとする、過去の政府見解との食い違いも問題視されました。

 政府はその後、高市答弁の鎮静化を図ろうと、「政治的公平の解釈について」と題する文書を衆議院予算委員会理事懇談会に提出しています(文末に掲載)。この文書の中で、高市答弁は、過去の政府見解と整合し、補充したものであるとの説明をしています。

 話を元に戻しますが、政府はつい2年前、放送法4条の解釈(とくに1項2号の「政治的公平」)を補充したばかりなのに、なぜ今になって、本条の「削除」を持ち出す展開になっているのか、まったく整合性がないと指摘しなければなりません。

憲法改正国民投票の場面では…

 別に、国民投票法に関する連載を行っている関係で、放送法4条削除の影響を考えてみます。

 実は、国民投票法には、放送法4条と密接に結びついている条文があるのです。国民投票法104条は、「放送事業者(※括弧書きは省略)は、国民投票に関する放送については、放送法4条1項の規定に留意するものとする」と規定しています。国民投票法(案)が国会で審議される前、2005年秋・冬くらいに遡りますが、自民党内では当時、国民投票に関する放送(番組)について、さらに踏み込んだ規律を求める意見が出ていました。憲法改正の発議があった後、改正の是非を特集する番組が相当数組まれることが予想されるところ、各番組では、反対意見ばかり偏って採り上げるのではなく、賛成意見も公平に取り扱うべきことを明文で担保しようとしたのです。

 最終的には、メディア規制は、それ自体が介入の根拠となり、濫用の危険もあるので、規律は最小限に止めるべきということになり、現在の条文に落ち着きました。また、国民投票法(案)の提出者は、104条を根拠に、憲法改正案に関する賛成派、反対派のCM(放送広告)が平等な条件の下で取り扱われるべきことを述べています。賛成派CMの放送条件が有利に、反対派CMのそれが不利に、というのでは明らかに公平さを欠きます。104条には、CMの料金、時間帯など、諸条件を平等にすべきとの考えも込められています。

 放送法4条が削除されるとなると、国民投票法104条の規定も無意味になってしまうので、合わせて削除されることになります。実際、憲法改正が発議された場合を想像してみますが、政治的公平などを定める番組編成準則がまったく無くなってしまうので、憲法改正の世論戦を徹底的に仕掛けてくる放送事業者が出てきても不思議ではありません。国民投票に限らず、選挙の事前報道も含め、まさに“やりたい放題”の番組が出てきても不思議ではありません。これでは、世論の形成が非常に歪んでしまいます。民主政治の根幹が、成り立たなくなってしまいます。

 放送法4条は、メディア側が自主的に遵守すべき規範(倫理規範)としては残すべきです。現時点では不確かな部分もありますが、安倍内閣が今あえてこの条文に手を付けようとするのはどう考えても、メディアコントロールへの布石でしょう。時の政権に好都合な放送事業者を作り出し、(露骨に)宣伝に利用しようというわけです。放送法、電波法などと言われると、私たちの暮らしとは離れた、遠い世界の話をしているようにも聞こえますが、社会を支える礎石が壊れてしまうかもしれないという危機的な問題です。今後の動向を、注視しておく必要があります。

(参考)2016.2.12 衆議院予算委員会理事懇談会提出資料

平成28年2月12日
総務省

政治的公平の解釈について(政府統一見解)

 放送法第4条第1項において、放送事業者は、放送番組の編集に当たって、「政治的に公平であること」や「報道は事実をまげないですること」や「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」等を確保しなければならないとしている。
 この「政治的に公平であること」の解釈は、従来から、「政治的問題を取り扱う放送番組の編集に当たっては、不偏不党の立場から特定の政治的見解に偏ることなく、番組全体としてのバランスのとれたものであること」としており、その適合性の判断に当たっては、放送事業者の「番組全体を見て判断する」としてきたものである。この従来からの解釈については、何ら変更はない。
 その際、「番組全体」を見て判断するとしても、「番組全体」は「一つ一つの番組の集合体」であり、一つ一つの番組を見て、全体を判断することは当然のことである。
 総務大臣の見解は、一つの番組のみでも、例えば、

① 選挙期間中又はそれに近接する期間において、殊更に特定の候補者や候補予定者のみを相当の期間にわたり取り上げる特別番組を放送した場合のように、選挙の公平性に明らかに支障を及ぼすと認められる場合
② 国論を二分するような政治課題について、放送事業者が、一方の政治的見解を取り上げず、殊更に、他の政治的見解のみを取り上げて、それを支持する内容を相当の期間にわたり繰り返す番組を放送した場合のように、当該放送事業者の番組編集が不偏不党の立場から明らかに逸脱していると認められる場合

 といった極端な場合においては、一般論として「政治的に公平であること」を確保しているとは認められないとの考え方を示し、その旨、回答したところである。
 これは、「番組全体を見て判断する」というこれまでの解釈を補充的に説明し、より明確にしたもの。
 なお、放送番組は放送事業者が自らの責任において編集するものであり、放送事業者が、自主的、自律的に放送法を遵守していただくものと理解している。

以上

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