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ビジネスとしてのプロ野球とJリーグはいかに相互に影響を及ぼしあったのか -『巨人ファンはどこへ行ったのか?』を読む

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Jリーグの脅威を力に変えた日本プロ野球

ところで、本書も含めてなのだが、野球についてのビジネスやマーケティングを扱った論考には、必ずサッカーJリーグの話が出てくる。それはやはり前述のとおり、競技人口に直結するサッカーに対しての危機感やビジネスとしてのコンペティターとして強く意識していることが容易に理解できる。それは本書で40年以上も巨人に関わり続けた、とある人が、「江川事件」も長嶋解任騒動も巨人の人気低下には決定打とはならず、むしろJリーグの誕生が一番の危機と感じたと現在でも考えていることからもわかる。

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この当時、読売新聞社長の渡辺恒雄 vs Jリーグ川淵チェアマンの対立も生じた。さらには実際に読売新聞主導でサッカーの新リーグの可能性が検討されたのも当時あったことのようである。(もちろん実現は不可能だったろう)。だが、実際は渡辺恒雄の考えていたことは、それがいかに自身のビジネスを中心に考えていたものだったとはいえ、資本投資しやすい環境をつくり持続的なビジネスとするという意味ではやはり理にかなったことともいえるだろう。

実際、この対立からすぐJリーグのバブルは崩壊した。未成熟なマーケットに無理な投資と商品の過剰供給が生じたといわれても仕方ない出来事だった。しかし、その一方で草の根までスポーツの魅力を伝えて、そこから「百年構想」で営利を超えた文化をつくるというJリーグのポリシーも実を結びつつある。それが競技人口の逆転現象だ。これはおそらく今後さらに加速していくであろう。その時に、ビジネス優先の施策をとったプロ野球はウサギとカメの故事のようになる可能性は極めて高いだろう。

しかし、だからといってサッカーが野球のようなエンターテインメントビジネスとして成立するかどうかはまた別の問題だ。ときおり、知人の誘われてプロ野球を見に行くと、私が少年時代にスタジアムで見た野球とはエンターテインメントとしてかなり変わったと思う。

たぶん今のプロ野球はルールを知らないものがなんの前提知識もなく見に行っても、それなりに楽しめるだろう。アメリカ流のエンターテインメント路線はチアガールや観客サービス、飲食やチケット販売まで行き届いている。スタジアムの光の量も全く違う。カクテルライトに照らされる緑の芝生の美しさは、日本のサッカースタジアムとは格段に違う。これはライト数の違いである。おそらくエンターテインメントとしてどうやって生き延びていくかは、プロ野球のほうがより真剣に考えてきたのではないかと思わざるをえない。

もちろんこれは単純に試合数の差による収益規模から来る投資体力が大きいのだろうが、それでも90分間ロクなエンタメもなく、ひたすら苦行のように寒いスタジアムで90分間じっと試合だけを観ざるを得ないサッカーとは格段に違う。これがプロバスケットボールになると、もっとその差を味合わせられることになる。プロバスケットボールのエンテーテインメントの洗練され方は、それがBリーグレベルでもサッカーファンとしては思い知らされることになる。

いずれにしても、おそらくビジネスとしてのプロ野球にサッカーが追いつくのは、遥か先のことになるだろう。Jリーグが百年構想ならば、そのうちまだ四分の一も経過していない。

逆に日本プロ野球は、1/12になった巨人、つまりマスマーケティングではない、商圏を限るエリアマーケティング、それを担保するローカリズムをグローカルに展開できるようになった。これはもちろん本来はJリーグが目指していたものだった。

理想主義的サッカーはコスモポリタンな未来を掴めるか

自分としては、逆にサッカービジネスは、かつてリーグ戦のビジネスモデルを野球から導入したように、サッカーも変わらなければならないところはあるのではないかと思わざるをえない。サッカービジネスのごくごく端くれにいるものとして、やはりサッカー、特に国内リーグのマーケットの貧困にはまだまだ問題があると強く思う。

スタジアムが満員になるのは、年何回かの日本代表戦と海外クラブチームの遠征時、Jリーグのスタジアムはまだまだワールドカップ仕様の観客席を埋めるには至らない。年間140試合が保証されている野球だからなおのこと羨ましい。

一方で、ビジネス優先で、プロ野球のクライマックスシリーズを思わせるシステムの2ステージ制を引けば、これも国内のファンの強い反対にさらされる。確かにこのような公式戦システムはサッカーでは例が少なく、これに反対するのは理想主義的なサッカーファンの面目躍如なのだが、それを言うなら、リーグ戦そのものがサッカーのオリジンとは関係なく、野球のビジネスを見習ったものなのはどう考えたらいいのだろうか。

サッカーファンは、そういう意味であまりにも考えが閉鎖的になりすぎているような気がしてならない。これに関しては、Jリーグに危機感を抱いて自ら変わろうとした日本プロ野球とは対照的だろう。

唯一、日本プロ野球に対して、ビジネスとして先駆けているところもある。それは外資の導入である。

プロ野球には外資規制があり、これは比較的厳格なものだが、Jリーグはこれが近年かなり緩くなってきている。これは、横浜F・マリノスが顕著な例であるが、もともと親会社である存在が外資企業になってしまうケースが出てきているからである。日産自動車はすでにフランス政府が大株主のルノーの連結子会社、つまり外資企業である。というか、そもそも外資であるか国内資本であるかというのが古い話であり、日本の時価総額1000億円以上の企業の株式の外国人保有率は30パーセント超の時代に、外資か国内資本かといっても仕方ないわけである。

マリノスは、2014年にUAEの国策投資会社のアブダビ・ユナイテッド・グループのスポーツエンターテインメント事業を行うシティ・フットボール・グループの株式を受け入れている。つまり、マリノスを実質支配しているのは、フランス政府とUAE政府ということになる。

今、世界のサッカーでビジネスとして台風の目となっているのは中国だ。ナショナルチームの不甲斐なさとは別に、中国のクラブチームは積極的に高額な移籍金で選手や指導者を招き、アジアでトップレベルのチームも出てきている。あたかもバブル直後のJリーグ創設当時を思わせるが、同じように中国のサッカーファンやプレイヤーも大きな刺激を得ているだろう。

この効果は10-20年後に底上げ効果として必ず出てくるはずだ。その中国が例えば、シャープは台湾企業に買収されたが、中国は当の昔にラオックス、レナウンといった日本企業を買収し、家電メーカーの部門の買収はもはや珍しいものではない。こうした企業の爆買いの対象にJリーグのクラブがなることもありうるのではないか。

中国ではJリーグはサッカーファンの間ではリスペクトの対象である。欧州では、中国、タイ、インドネシア、ロシアといった国が有名クラブを買収するのは、もうこの15年来珍しいものはではなくなっている。これにより、多大な投資が可能になって見違えるようになったチームをファンは普通に承知している。

日本の少子高齢化の中で、競技者の裾野をいくら広げても、どんなに適切なマーケティングだけをしていっても、ビジネスとしては可処分所得のパイの食い合いになるだろうだろう。そういう引き潮の中で立ち回る方法は必要となってくる。そのひとつが外資の受け入れとなるだろう。

もちろんこれはサッカービジネスの中で、重要ではあるもののあくまでもビジネスの中では部分の話に過ぎない。

本書で初めて知ったことがひとつある。歴史的に巨人が本格的に人気が出たのは、V9後、第一次長嶋政権で史上初めて最下位(1975)になってから、というものだ。それまでのV9時代であっても後楽園球場の観客席には空きがあったとのこと。

その巨人が初めて最下位になったとき、巨人ファンは「自分が応援しなくても(強い)」から「自分が応援しなくては(負ける)」に変わったというわけだ。そういう参加意識や帰属意識を得て、はじめて巨人に一極集中して巨人ファンが最大化したのだと(例の93年を超えた94年くらいがピークとのこと)。これはなるほどなとも思うし、同じスポーツファンとしても納得できるところがある。

きっとスポーツエンターテインメントを持続可能なビジネスとしていくには、こういうことすらも、サービスの送り手は読み解いていくことが必要になっていくのであろう。

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