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【読書感想】健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方

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健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方 (BuzzFeed Japan Book)

健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方 (BuzzFeed Japan Book)

  • 作者: 朽木誠一郎
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2018/03/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る

Kindle版もあります。

健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方 (BuzzFeed Japan Book)

健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方 (BuzzFeed Japan Book)

内容紹介

WELQ問題の火付け役 朽木誠一郎が語る

医療デマから身を守り、誰も騙されない世の中をつくるために今できること

ネット時代の今、私たちの「健康になりたい」という切実な想いが狙われています。

ウソや不正確な健康情報を粗製乱造するメディアたち、量産される健康本、健康食品ビジネスの闇。

さらには、高度に発達したテクノロジーにより手口が複雑化し、見分けるのがますます難しくなってきている医療デマ。

なぜ、私たちは医療デマに「騙され」てしまうのか、医療デマに「騙されない」ためにはどうすればいいのか――。

「WELQ問題」の火付け役となった著者は、医学部卒業後ウェブメディアの編集長を経て医療記者となり、

「ネット時代の医療情報との付き合い方」というテーマで取材を重ねています。

本書は、このテーマでの取材内容をまとめ、なぜ健康・医療に関してウソや不正確な情報、デマが発生しやすいのか、

それらから身を守るために今私たちにできることを紹介するものです。

 僕はこれを読みながら、『「ニセ医学に」騙されないために』という本のことを思い出していました。

fujipon.hatenadiary.com

 「ニセ医学に騙されてしまう人たち」を「愚かだ」と切り捨ててしまうのではなく、「人間とは、とくに病に苦しんでいる人間は、信じたくなってしまうのが当たり前なのだ」という前提に立って発信している人は、そんなに多くはないのです。

 医療の側にも、メディアの側にも。

『ニセ医学に騙されないために』が、医療者側からのアプローチだとすれば、この本は、メディア側からの歩み寄り、と言えると思います。

 著者は、医学部医学科を卒業後、医者ではなくライターという仕事を選び、ネットメディアでの情報発信に携わってきました。著者が最初に指摘した「WELQ問題」は、「医療に関するデマ」と「そのデマを検索上位に常時させるネットでのテクニック」の複合汚染と言うべきもので、医療とネットメディアの特性について熟知していないと、その問題の大きさが理解しがたい、というものだったのです。

 正直、WELQで問題になったデマ記事を読んだときには「こんな与太話、みんな信じないに決まってるよ」と僕は思ったのですが、ネットで検索上位に表示されるだけで、大きな影響を及ぼすことがあるんですよね。

 医療記者として、私は、この構造を巡るさまざまな問題を取材してきました。WELQと同じ手法で急拡大したいくつかの医療系ネットメディアや、深刻な出版不況で過激な「健康本」を作らざるを得ない出版業界……。このような事例を基に、「私たちはなぜ騙されるのか」、「どうすれば騙されにくくなるのか」を、本書を通じて考えていきたいと思います。

 「どうすれば騙されないのか」ではなくて、「どうすれば騙されにくくなるのか」。

 著者は「絶対に騙されない人はいない」という前提で、この本を書いていて、それはとても大事なことだと感じるのです。

 本の売り上げが落ちてくるなかで、「健康本」とくに、「がんは放置してよい」というような「読者をミスリードする可能性が高い、偏った健康本」は、出版社にとっては、貴重な「売り上げが期待できる本」なのです。

 「賢いエリート」のはずの出版業界の人たちが、なんでこんなおかしな情報を大手出版社の名のもとにまき散らすんだ……と愕然とすることも少なくありません。

 そして、医療の専門家でない人が主張する「治療法」は、まず疑ってかかるべきだけれど、医師免許を持っているからといって、必ずしも正しいことを言っているとはかぎらないんですよね。

 僕もさまざまな医者をみてきましたが、「トンデモ医療」や「個人の経験だけに基づく素晴らしい治療法」を主張する医者も、少なからずいるのです。

 しかも、そういう人に限って、大手出版社から、「わかりやすくて簡単な治療法や健康に関する本」を出版しがちです。

 そして、彼らの多くは、「本当に自説を信じている」のです。

 そして、普通の医者の普通の日常診療のなかにも、「100%患者さんのため」とは言い切れないような状況というのもある。

 著者は、こんな例を挙げています。

 医師が、必ずしも患者の利益のことだけを考える存在ではないという点にも、注意が必要です。このことは、私たちが騙されにくくなるためにも、知っておかなければなりません。

 医師も人間であり、意識的か無意識化によらず、「ズル」をすることがあります。これを専門的には、医療において医師は「不完全な代理人」であると表現します。

 「完全な代理人」としての医師というのは、患者の利益を最大化することだけに集中している存在です。しかし、実際は、「患者の利益を最大化する」と同時に、「自分の利益を最大化する」ように行動してしまうのが人間です。ここでいう利益とは、経済的なものに留まらず、「研究のため」なども含まれます。何も、不当にお金を儲けたり、研究のために人体実験をしたり……というわかりやすいズルだけを意味するものではありません。

 例えば、5歳のたかしくんが公園で転倒したとしましょう。医師は適切に診察をして、大きな問題はないので「帰宅させて様子を見よう」と判断しました。医師がそう保護者に説明すると、たかしくんのお母さんは「先生、心配だから念のため頭のCTを撮ってください」といいます。

 さて、ここで「念のため」頭部CTを撮影することは、医学的に妥当でしょうか。不必要な頭部CTは将来のガンのリスクをわずかではあるが上げるという報告があり、基本的には避けたい、とこの医師は考えました。しかしここに、このクリニックにはCTを撮影するための機器があって、ある程度は稼働させないとクリニックが赤字になるという事情があったとします。この医師がCTを撮影する誘惑に駆られない保証はあるでしょうか。

 この場合のポイントは、医師に「たかしくんのお母さんを安心させる」という大義名分ができてしまったことです。もしかするとこの医師は、医学的には妥当ではなくても、CTを撮影してしまうかもしれません。もちろん、リスクはわずかなものであり、このような特殊な状況での医師の行動を責めるのはフェアではありません。

 あえてこのような例を紹介したのは、これもまた一つの経済合理性の形であることに注目してほしかったからです。経済合理性は、医師に対しても働き得るものなのです。

 患者さんのために仕事をする、というのは大前提なのだけれど、じゃあ、無給でも、あるいは、食べていけないほどの安月給でも、医者として働いていけるか?と問われたら、「それはちょっと無理」だと思う医者のほうが、多いのではないでしょうか。

 昔の中国では、公務員の汚職が当たり前のように行われていました。

 汚職をやらないと食べていけないくらいの報酬しかない、という現実があったのです。

 そういう状況では、「普通の人」は、「生きていくため」だと自分に言い聞かせて、多少の不正はやむなし、と考えてしまうものなのです。

 僕の実感としては、ネットでこういう状況について書かれていると「親を説得しろ、CTなんて撮る必要はない!」という人が多いのに、救急外来では、「もし検査しないで、何かあったらどうするんだ!」って言う親が多いんですよね。

 人は、自分のこととなると、「科学的であること」よりも「不安」のほうが先に立ってしまう。

 出版業界も、景気がよければ、自浄作用も働きやすいだろうけれど、いまの出版不況のなかで、モラルが低下していくのも、「当たり前のこと」なのかもしれません。出版という仕事の性格上、それじゃ困るのですが、トンデモ医療も「表現の自由」だと言い張ることだって、理屈としては、できなくはない。そして、評価されるのは、「良い本をつくった人」よりも「売れる本をつくった人」になりがちです。

 メディアも、「ウケる記事」の魅力に抗うのは難しい。

 「ちゃんとした内容」を書いても、読まれなければ、書いてないのと同じではないのか?

 「ラクだけど、効果が怪しかったり、危険だったりするやりかた」を選んでいるのは、受け手のほうじゃないか。われわれは、押し売りしているわけではないのだから」

 「ダイエットのためには、食事制限と運動療法」みたいな、当たり前のことを述べても、誰も耳を傾けてはくれない。

 「そんなことはわかっている。われわれが知りたいのは、『ラクして痩せる方法』なんだ」

 いや、ダイエットであれば、失敗しても、即、命にかかわる、ということはないのだけれど、癌の治療となれば、初期対応を誤れば、治るものも治らなくなります。

 いまの医療では、早い時期の癌であれば治癒率はかなり高いですし、ある程度進行したものでも、かなりの延命が期待できる治療も存在しています。

 にもかかわらず、人は「標準治療」を信頼できない。

 なにか「特別な方法」があるのではないか、と思い込んでしまう。

 スティーブ・ジョブズでさえ、膵臓がんが見つかったときには比較的早期で、手術をすすめられたにもかかわらず、「もっと良い治療法」を探った末に、若くして命を落としました。

 もし、「医者たちが自分たちの金儲けのために隠している秘密の治療」があるのだとしたら、いまの世の中で、VIP中のVIPであり、最先端の医療を受けられたはずのジョブズがそれを享受できない、なんてことがありうるでしょうか?

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