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極右の連続テロ事件から生まれた映画「女は二度決断する」のアキン監督に聞く

撮影:亀松太郎

無残な爆弾テロによって最愛の家族を突然失ったら、あなたはどうするだろうか? 4月14日から日本で公開されるドイツ映画「女は二度決断する」(ファティ・アキン監督)は、観る者にそんな問いを突きつける。ゴールデングローブ賞の外国語映画賞に輝いたこの作品は、ドイツで実際に起きた連続テロ事件に着想を得て製作された。

事件は、極右グループのNSU(国家社会主義地下活動)によって引き起こされ、2000年からの7年間にトルコ人など9人の外国人とドイツ人の警察官が殺害された。アキン監督はドイツ生まれだが、トルコ移民の両親を持ち、「事件に大きな衝撃を受けた」という。監督自身の強い問題意識から生まれた本作は、テロの悲劇に遭遇した女性の深い悲しみと怒りを描いている。

テロをテーマにした映画の製作者として、世界各地でテロリズムが続発する現在の状況をどう見ているのか。外国からの移民に対する排斥主義の高まりに、どう対応すればいいのか。劇場公開を前に来日したアキン監督にインタビューした。

トルコ系ドイツ人としてテロ事件に衝撃を受けた

――この映画を作ったきっかけは?

アキン:もともと僕はネオナチに対して問題意識がありました。自分も標的になりうると思っていて、ずっと気になる題材でした。NSUの事件をきっかけに、ネオナチに対する自分なりのカウンターとして、この映画の脚本を書き始めました。

――映画に登場するテロ事件は、2004年にケルンで起きた爆弾テロに似ているといいます。その事件があったときに、どのように感じましたか?

アキン:実は、ケルンで爆破事件が起きたときは「ネオナチの犯行」とは報じられていませんでした。トルコ人の商店が多い地区で、美容室の前に置かれた爆弾が破裂したんですが、経営者のトルコ人は麻薬の密売人で、犯罪組織の抗争の疑いがあるという報道でした。なので、当時はあまり注目していなかった。ところが2011年になって、NSUによる犯行だったと明らかになり、とてもショックを受けると同時に、大きな怒りを覚えました。その真相が、僕にこの物語を書かせたんです。

――本作はテロ事件の「被害者」の話です。製作にあたって、現実の被害者に話を聞いたのでしょうか?

アキン:(主人公の女性を演じた)ダイアン・クルーガーはたくさんの被害者に話を聞きましたが、僕はそのようなことをしませんでした。なぜなら、この物語を書くのに十分な知識があると感じていたからです。NSUの事件に関してはたくさんの本が出版されています。誰が犯人で、捜査がどう進められたか、被害者はどんな経験したのかについて、違うアングルで書いている。そういう犠牲者の本をたくさん読みました。

また、事件の犠牲者がトルコ系のドイツ人という点では、僕も同じルーツを持っている。また、自分自身が子を持つ親であるという意味でも、僕は経験があります。自分にこういうことが起きたらどんな気持ちになるか、理解できていると思っていたのです。一方、警察の捜査や裁判がどのように進むのかという点に関しては、詳しくリサーチしました。

――この映画ではテロリズムがテーマとなっていますが、現実にもヨーロッパやアメリカ、中東など世界各地で多くのテロが起きています。テロが頻発する現状をどう捉えたらいいでしょうか。

アキン:現在の状況は、アシンメトリー(非対称)な戦争の結果といえるかもしれません。かつては、国と国がそれぞれの軍と軍を戦わせ、戦地と母国の安全な地域が離れていました。一方で、アメリカやロシアのような強大な国と小さな国が戦うとき、ゲリラ的な戦法を取ることがある。テロリズムは現代の戦争の形という見方もできるでしょう。

同時に、現在のトルコのように、少しでも反体制的な声をあげたり、批判めいたことを記事で書くだけで、「テロリスト」と呼ばれる国もある。そんな国では、テロリストにシンパシーを持つ者も出てくるのではないでしょうか。

主人公の「サムライ・タトゥー」に込められた意味

撮影:亀松太郎

――今回の作品で描かれているテロの背景には、極右・ネオナチの「排斥主義」があります。日本でも排斥主義に基づくヘイトスピーチが問題となっていますが、日本の状況についてはどう考えますか?

アキン:これまで日本という国はドイツからすごく離れた国だという印象があり、土星くらいの距離感があった。しかし日本に来て、ジャーナリストたちから社会の状況を聞くと、それほどドイツと違っていない。同じ惑星なんだ、と思いました。ホッとすると同時に、いかに世界がグローバル化しているかということを感じました。

世界中が同じような問題に直面しています。つまり、ドイツの問題が日本の問題であり、日本の問題がドイツの問題でもある。そんなグローバル化している状況は「チャンス」と捉えることができるでしょう。お互いに学んだり、お互いの声を聞いて対話したりすることができる。我々には対話が必要なのではないかと思います。

――映画の中で、主人公の女性・カティヤが「サムライ」のタトゥー(刺青)をする場面がでてきます。どんな意味があるのでしょうか?

アキン:僕は、武士道について「死してなお忠義心をもつ」という解釈をしています。カティヤというキャラクターも、家族への愛に対して忠義を尽くす人間であることを見せる意図がありました。

また、映画を観た人から、今回の主人公は白人のドイツ人女性なのに、イスラム圏のジハード的な行動を取るのはおかしいのではないか、という批判が出ることが予想されました。そこで、サムライのタトゥーを取り入れることで、イスラム圏以外でも同様な行動は取られていたということを、観客に思い出してほしいと考えました。

――日本の観客も感情移入できる映画だと思いますが、日本の観客にこういうふうに観てほしいという希望はありますか。

アキン:実は、今回の映画は、アジア映画の影響をすごく受けています。特に、香港、韓国、日本の映画から、光の使い方などのビジュアル表現やキャラクター造形のインスピレーションを得ています。

過去の作品の『消えた声が、その名を呼ぶ』を作るときは、西部劇をたくさん観ましたし、『愛より強く』を撮ったときは、リアリズム系の映画をたくさん観ました。今回は、アジア映画をたくさん観て作りました。日本のみなさんには、そういうことを感じながら観てもらえればと思います。

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