記事

「なかったことになってほしくない」〜遺品が伝える東日本大震災の痕跡と悲劇

6歳でなくなった愛梨ちゃんの遺品を展示

「人はどうしても忘れる動物です。だからこそ、私たちみたいなものが語らないといけない。でないと、娘のことはなかったことにされてしまいます」

遺品となっているクレヨン(妹の珠莉ちゃんが撮影)

宮城県石巻市の私立日和幼稚園に通っていた園児、佐藤愛梨ちゃん(当時6歳)の遺品が、公益社団法人みらいサポート石巻が運営する「東日本大震災メモリアル 南浜つなぐ館」に展示されている。常設展は今月から始まっているという。母親の美香さんは冒頭のように語り、二度と悲劇が繰り返されないように願っている。

展示されている遺品は、愛梨ちゃんの上靴とクレヨンの2点。日和幼稚園の送迎バスが被災し、その中から見つかった愛梨ちゃんの遺体の側にあったものだ。上靴は、上靴入れの裏地が付着していたために特定された。クレヨンは、入園の年度によってケースの柄が違うために愛梨ちゃんのものだとわかった。

現場では遺品として、他にも「粘土」が見つかっている。上靴とクレヨンがあった場所で一緒に見つかっているため、「愛梨のものだとは思うけれど、粘土には名前が書いてあるわけでもないし、愛梨ちゃんのものと識別できるほどのものはない」(美香さん)という。

遺品となっている上靴(妹の珠莉ちゃんが撮影)

「これらの遺品を見てもらうことで、この地域は津波だけでなく、火災が起きたことがわかります。展示をすることで、リアルに伝わると思います。それによって、日和幼稚園で起きたことを知ってもらうきっかけになればいい」(同)  

日和幼稚園は日和山(61.3メートル)の中腹にある。園内に待機するか、避難するとしても、日和山の山頂へ向かえば事故は防げたはずだった。ふもとにあった門脇小学校の校舎は津波と火災の被害にあった。しかし、教員の指示により、学校にいた児童たちは日和山に避難し、無事だった。

一方、日和幼稚園では悲劇が起きた。遺族が幼稚園を相手に起こした裁判の一審判決や遺族の説明によると、震災発生時、園では園児をバスに乗せ、津波警報が出ているなかで、海側に向かってしまう。愛梨ちゃんの乗るバスは、本来、内陸に向かう便のはずだった。

しかし、この日、愛梨ちゃんを含めて内陸に向かう便に乗るはずだった園児たちは、海側に向かう便に乗せられていた。バスの定員によっては一緒に乗ることになっているという園の“ルール”を保護者は知らされていなかった。

園のバスが被災した現場を案内する美香さん(16年1月撮影)

園のバスには12人の園児が乗っていた。途中、親が迎えに来たり、降車させたりし、門脇小学校に停車した時点で7人だったという。そこに、「バスを上げろ」と園長から指示を受けた幼稚園教諭2人が追いつく。しかし、指示は伝えたものの、バスは園児を乗せたまま、動き、被災現場付近まで行き、そこで園児2人を下ろしている。そして津波がくる中、運転手は園児5人と添乗員を残して、園に戻った。運転手は園に戻ったものの、園長との間で、添乗員や園児の話にはなってない。

園側は残された添乗員や園児たちの捜索はしていない。震災3日後、遺族たちが自らの子どもを発見した。愛梨ちゃんの遺体は車外の瓦礫の中にあった。火災の影響で焦げていた。誰かは判別できないが、ジャンパーの生地が肩に付着していたためにわかったという。抱き上げるが、壊れてしまいそうだった。

「震災の報道は少なくなっている」

遺品を展示することを決めた母親の美香さん
その後、避難をめぐっては遺族と園は裁判になった。一審の仙台地裁(斉木教朗裁判長)では勝訴した。園側が控訴し、仙台高裁(中西茂裁判長)では和解となった。その中には、「幼稚園側は法的責任を認め、被災園児らと遺族側を含む家族に心から謝罪する」ともあった。

たしかに、文面上では謝罪したことで法的には終わりだ。しかし、「心のからの謝罪」とあるため、遺族としては線香をあげにくることくらいは想像していたが、いまだに園側にそうした動きはない。

園のバスが被災した付近(11年7月撮影)

取材されることも減って来たという。

「被災三県(岩手、宮城、福島)以外では、東日本大震災の報道は少なくなっています。それは理解できなくはないのですが、忘れて欲しくはないです。忘れられることがないように、日々、発信することが必要なんだと思います。そして教訓として思ってくれれば幸いです」

幼稚園バスが被災したのは、日和山のふもとで、もう少しで津波浸水エリアではなくなるところだった。少しの差で生死が分かれた。震災直後は、ここで多くの車が火災で焼かれていた。その後、現場には花が置かれているのをよく目にした。現在は、土地区画整理事業によって、新しい地域が作られている。海岸線と内陸の盛り土道路が二重の壁になり、防潮堤となる。近くにある災害公営住宅が整備されて、入居が始まっている。

現在の被災現場(18年3月撮影)

「2020年に祈念公園が完成する予定です。目に見えるものは変わっていくのです。そして、震災の記憶は薄れ、伝えていくものはだんだんなくなっていきます。ただ、震災を経験した私たちには記憶があります。今から生まれてくる子どものためにも、どう伝えていくのかが課題になって起きます。伝える人がいなくなったとき、津波が起きたこと自体が忘れられるかもしれません。東日本大震災が起きたから、今回だって、以前の津波を忘れられていました」

被災地にはまだ津波の痕跡がある地域がある。震災から7年経つが、その脅威を目にすることができる。しかし、時間が経てば、整備されて、痕跡も少なくなっていく。愛梨ちゃんの遺品は、痕跡を目にすることがなくなっても、悲劇を後世に語り継いでいく。

あわせて読みたい

「東日本大震災」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「スゴイ日本!」ばかりのテレビ五輪放送。在留外国人は東京五輪を楽しめるか

    Dr-Seton

    08月05日 08:29

  2. 2

    なぜ選手が首長を訪問? 名古屋・河村市長のメダルかじりで「表敬訪問」に疑問の声

    BLOGOS しらべる部

    08月05日 18:37

  3. 3

    淀川長治さんが『キネマの神様』を絶賛?CMに「冒涜」と映画ファン激怒

    女性自身

    08月05日 09:07

  4. 4

    環境省がエアコンのサブスクを検討 背景に熱中症死亡者の8割超える高齢者

    BLOGOS しらべる部

    08月04日 18:05

  5. 5

    ベラルーシ選手はなぜ政治亡命したのか ルカシェンコ政権の迫害ぶりを示した東京大会

    WEDGE Infinity

    08月05日 09:18

  6. 6

    ワクチン完全接種5割の8月末まで好転無しか

    団藤保晴

    08月05日 09:02

  7. 7

    入院制限の前にやることがあるでしょう

    鈴木しんじ

    08月05日 14:09

  8. 8

    "ラ王世代"にはない価値観「これ絶対うまいやつ!」というラーメンが若者に大人気なワケ

    PRESIDENT Online

    08月05日 14:29

  9. 9

    東京都で新たに5042人の感染確認 初の5000人超え 2日続けて過去最多を更新

    ABEMA TIMES

    08月05日 17:09

  10. 10

    東京都、新規感染者数5042人に疑問

    諌山裕

    08月05日 17:42

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。