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特集:中国とロシア、「強権体制」の理由

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今週は3月18日にロシアでプーチン大統領が再選されました。新たに6年間の負託を得て、任期は2024年まで。2000年の大統領就任以来、実に四半世紀にわたってロシアを統治することになります。さらに3月20日には中国で全人代が閉幕。こちらは憲法改正が実現し、習近平国家主席は「終身」地位にとどまることが可能になりました。

中国とロシアが着々と強権的な体制を整えている様子は、民主主義陣営から見ると危険極まりないことに思われます。とはいえ、中ロ両国の政治体制は必ずしも強固なものではないのではないか。むしろ逆だと考える方が、国際社会における”Revisionist Powers”(異議申し立て勢力)の本質に迫れるような気がしています。

●外から見ると「怖いプーチン政権」

昨年10月、モスクワを訪れた時に、現地の外交官から聞いたこんな言葉が印象に残っている。

「われわれの仕事は、ロシアの内政を見ることです。外交は内政の反映ですから。そしてロシアの内政は、ご承知の通り上手くいっていません。プーチンの体制は、皆が思っているほど強固なものではありません」

なるほど内政面の弱さを糊塗するために、プーチンは対外的に強く出ているのか。海外に介入して「強いロシア」をアピールする一方、国内向けには意外ときめ細かに気を使っている。

クリミア併合、シリアでの武力行使、バルト諸国へのサイバー攻撃、2016年米大統領選への介入などは、ロシアに邪悪な意図があるからというよりも、国内の安定を維持するためのコストと割り切ってやっている、と考える方が分かりやすい。

そういう意味で興味深いのは、今月4日に英国ソールズベリーで起きたロシアの元スパイ、スクリパリ氏親子の暗殺未遂事件である。

かつて英国との二重スパイであった同氏は、ロシア政府に逮捕された後に英ロ間のスパイ交換によって英国に渡り、余生を送っていたところを襲われ、猛毒神経物質ノヴィチョークによって重体に陥っている。ロシア特殊機関による犯行の容疑が濃厚である。

何しろロシアは2006年にも、英国に亡命した元スパイ、リトビネンコ氏を猛毒ポロニウムで暗殺した「前科」がある。これに対し、英国のメイ首相は3月14日に対ロ制裁措置を発表した。

さすがは元内務相だけに、ロシア大使館員23人を国外追放するなどの強硬手段に出た。とはいえ、さすがに金融制裁には踏み切っていない。

これからBrexitでロンドンの地位が低下するかもしれないときに、ロシアン・マネーに逃げられるようなことはさすがに躊躇する。その辺をロシアに見透かされているのでは、との声も一部にあるらしい。

しかしそれ以前に不思議なのは、大統領選挙のわずか2週間前に、ロシアがかかるリスクを冒す理由はどこにあったのか。

ロシアは3月18日、栄えある「クリミア併合4周年」の日にわざわざ投票日を設定した。再選に向けて「7割の投票率と7割の得票率」という数値目標を達成するために、「投票所におけるガンの無料検診」を提供するなど、有権者へのサービスに務めていたのに、である。

こんな見方をすると陰謀論めいてしまうけれども、ロシア内部には「英国という小さな敵を刺激することは、大統領選挙にはむしろプラスに働く」という計算があったのではないだろうか。つまり小さな緊張を煽って、西側世論にロシアを叩いて欲しいという動機があったように見えるのだ。

プーチン大統領は、最初に任期であった2000~2008年には折からの石油価格高騰もあって、好調な経済の下で高い支持率を得ることができた。しかし首相としての4年間のインターバル期間を経て、2012年に再登板してからはそれが望めなくなった。

ロシア経済は良くならない上に、2014年のクリミア併合以降は経済制裁も受け、石油価格も以前の半値程度で低迷している。ゆえにプーチンとしては、国民の愛国心に訴えるほかはない。

米国への対決姿勢を取り続け、「ロシアは西側諸国から包囲されている」「そんな中で、プーチンはよくやっている」と思ってもらわねばならない。おそらく今のロシアにとっては、対外介入のコストがだんだん耐えがたくなっている。かといって、いきなりシリアやウクライナから撤退するわけにもいかない。

むしろサイバー攻撃やフェイクニュースといった「お手軽」な手段によって、欧米社会から「ロシアが民主主義を危うくしている」との非難を受ける方が、費用対効果の面で優れている。なかでも2016年米大統領選挙への介入が、米国内で疑心暗鬼を招いていることは、彼らにとってはこの上ない欣快事であろう。

真面目な話、トランプ選対のような素人集団に対し、ロシアのプロたちが機微に触れる情報を提供していたとは考えにくい。しかしロシアは本件を肯定も否定もしない。このまま米国の有権者が自国の選挙システムを信用できなくなり、米政権への信認が損なわれることがいちばん「おいしい」展開であるからだ。

●内政は意外と伸縮自在がロシア流

ロシア国内の世論を考えた場合、今回の平昌冬季五輪におけるロシア選手に対する扱いは大きなファクターであったはずである。IOCは今回、ロシアの「国ぐるみドーピング」を問題視して断固たる措置を取った。

お蔭で平昌五輪におけるロシア選手は皆、「OAR」(OlympicAthletesFrom Russia)にされてしまった。ロシアとしては、かかる非礼な行為は認め難かったはずである。ところがプーチン大統領は、選手の個人資格での五輪参加を許可した。その方が愛国心を鼓舞することになり、選挙に有利だと考えたからであろう。

実際に、女子フィギュアで銀メダルを取ったエフゲニア・メドベージェワ選手は、18歳の初投票ということで投票を呼び掛けるCMに起用されている。この辺り、意外と芸が細かいのである。木村汎北海道大学名誉教授によれば1、国家ぐるみドーピングの責任者はヴィタリイ・ムトコ・スポーツ相であった。

リオ五輪の功績を買われて、ムトコ氏は副首相(!)に昇格する。ところが今回のIOC決定を受けて、プーチン大統領は同氏を降格させた。すなわち、今年夏に行われるサッカーW杯委員長から外したのだという。こうしてみると、ロシアの行動はけっして強気一辺倒ではない。

「退却するロシア軍に注意」と言われる通り、ちゃんと引くべきところでは無理をしないのである。今回の大統領選挙において、プーチン氏はこれといった公約を掲げていない。向こう6年間にこれをやります、などと言っても、国民の受けがよさそうで、なおかつ成算がありそうな案件が見当たらなかったのであろう。

こんな政権が、外交的に大きな決断ができる(例えば北方領土問題の解決)などと考えるのは、かなり無理がある。「再選を果たしたプーチンは、怖いものがなくなるから思い切った決断ができる」などと考えるのは、大統領選挙サイクルが完全に定着している米国式の発想であろう。

ロシアの憲法における大統領選規定は、プーチン氏の都合で過去に何度も変えられてきた。それくらい政権交代がルール化されていない。

ゆえにロシアは、「6年後にポスト・プーチンをどうやって選ぶのか」で悩まなければならない。仮に2024年に71歳になったプーチン大統領が、「体調がいいから、もう少しやってもいい」などと言い出した場合、それこそ憲法を改正して、任期を再延長してしまうかもしれない。ロシアは常に強い指導者を必要としている。

しかし「いかに正統性のある指導者を選出するか」という方法論は定着していない。ソ連時代はまだしも共産主義という「理念」があったけれども、今やそれもない。「ポスト・プーチン」という課題は、6年後に向けて既に始まっているのではないだろうか。


1「プーチン外交―特徴と対処法」(安保研報告2018年1月28日号)

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