記事

「刑事免責」導入で文書改ざん問題の真相解明を

1/2

日本の官僚組織の中枢で起きた決裁文書改ざんという前代未聞の不祥事で、行政に対する信頼は大きく揺らいでいる。それが、なぜ、いかなる動機で行われたかを解明すべく、中心人物と目される佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問が行われたが、「刑事訴追を受けるおそれ」で証言を拒否したために、財務省の決裁文書改ざん問題の真相解明は全く進まなかった。事件の真相が解明されないということになると、行政のみならず、政治に対しても国民の不信がますます深まることになる。

この件に関して、先週末、土曜日のBSジャパン「日経プラス10サタデー」、AbemaPrimeの「みのもんたのよるバズ!」、日曜日のBS朝日「日曜スクープ」等で、今後の方策として、国会証人喚問における刑事免責を導入することを提案した。

英米では、議会の調査において「刑事訴追を受けるおそれ」で供述を拒否した証人に「刑事免責」を付与することで、証言させる方法が、一般的に用いられてきた。日本でも、今年6月に施行される刑事訴訟法改正で、「日本版司法取引」と併せて、「刑事裁判における証人の刑事免責制度」が導入されることとなっており、刑事免責の導入に関する立法上の問題の大部分はクリアされている。

決裁文書改ざん問題の真相解明に向かって手段が見えなくなっている現状を打開するためには、今回の問題の被害者と言える国会で、「刑事免責制度」を導入する立法を行い、供述拒否権を行使できないようにした上で佐川氏の再度の証人喚問を行うこと、そして、国会において調査委員会を設置し、刑事免責を最大限に活用して関係者の聴取を行うこと以外に方法はない。

この提案の内容について、詳しく述べておくこととしたい。

国会の証人喚問でなぜ証言拒否が認められるのか

国政調査権は、国権の最高機関である国会(憲法41条)が、立法、行政監視その他国政上の重要な事項について調査を行う権限である。その重要な手段として認められているのが、「議院証言法」に基づく「証人喚問」であり、宣誓の上で虚偽の陳述をした場合には[三月以上十年以下の懲役]、宣誓・陳述を拒んだ場合には「一年以下の禁錮又は十万円以下の罰金」に処せられることから、真実を証言することが刑事制裁によって強制されることになっている。

しかし、自分の犯罪事実に関わる事項についても罰則によって証言が強制され、その証言内容が、刑事事件の証拠として使われることになると、事実上、自白を強制されることになり、憲法38条による「黙秘権の保障」に反することになる。そこで、「証人又はその親族等が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあるときには証言等を拒むことができる」(議院証言法4条)として、証人に「証言拒否権」が与えられている。

諸外国での議会の調査での刑事免責の活用

今回の証人喚問で、佐川氏が決裁文書改ざんに関連する質問に対して証言を拒否したのも、この「証言拒否権」に基づくものだ。

それは、「自己の犯罪事実についての供述を強要されない」という憲法の「黙秘権の保障」に基づくものであるから、黙秘権を侵害しない方法をとることで、「証言拒否権」を認めず、刑事制裁で証言を強制することも可能だ。

イギリスやアメリカでは、刑事裁判において、刑事訴追を受けるおそれがあることによる供述拒否権を行使して証言を回避しようとする証人に対して、議会の議決で「刑事免責」(immunity from prosecution)を付与して証言を強制するという手段が講じられてきた。そして、その手法は、議会での調査における証人喚問においても、重要な手段とされてきた。

アメリカでは、昨年、トランプ大統領の補佐官(国家安全保障担当)だったマイケル・フリン氏が、大統領選でロシアの干渉があったとされる疑惑について、「訴追免責」を条件に議会で証言する意向を示したが、議会側が拒否したと報じられた。

このように、英米では、議会での調査に関して、「刑事訴追を受けるおそれ」を理由とする「証言拒否」に対する有力な手段として、議会証言による刑事訴追が行われるおそれをなくすことで証言拒否の理由を失わせるという「刑事免責」が用いられてきた。

日本の国会証人喚問について刑事免責が議論されなかった理由

日本でも、国会の証人喚問で、「刑事訴追を受けるおそれがある」として「証言拒否」が行われることは過去に数多く繰り返されてきたが、「刑事免責」によって証言拒否権を失わせることが議論されたことは、全くと言っていいほどない。

その最大の理由は、英米と日本との刑事司法制度の違いである。日本では、刑事裁判においても、「証人に対する刑事免責」が認められてこなかったので、国会の証人喚問での刑事免責を議論する余地もなかった。

刑事事件において、「司法取引」による決着が一般的な英米では、刑事処分に関して、「特定の犯罪について、疑いがあっても不問に付す」という方法自体にもともと抵抗が少ない。そのため、国政に関わる重要事項について、議会の調査権の実効性確保という目的達成のため、「特定の犯罪について証人に対する訴追の可能性をなくす」という方法を用いることにも、違和感がない。

しかし、「実体的真実主義」がとられてきた日本の刑事司法においては、他の目的のために、「特定の犯罪について、疑いがあっても不問に付す」ということ自体が認められておらず、一部の犯罪を認めたり捜査公判への協力をしたりする見返りに、一部の犯罪を不問に付したり刑を軽くしたりする制度もなかった。

しかし、このような日本の刑事司法制度は、今大きく変わろうとしている。2016年の刑事訴訟法改正(2018年6月施行)で「日本版司法取引」に加えて、あまり知られていないが、「刑事裁判での証人尋問での刑事免責制度」も導入されることになった。日本の刑事司法制度も大きく変わろうとしているのであり、国政調査権に基づく証人喚問で刑事免責を導入することに関して、これまでのような制度上の問題はほとんどなくなっていると言える。

「政治ショー」に過ぎなかったこれまでの国会証人喚問 

「刑事訴追を受けるおそれ」を理由とする「証言拒否」に対する「刑事免責」という、有効な手段が全く議論されなかったもう一つの理由は、これまでの国会での証人喚問が「政治ショー」的な色彩が強く、国会議員の側で、真相解明のために証人喚問の実効性を高めてそれを活用しようとする発想が希薄だったことだ。

過去に行われた国会での証人喚問の多くは、国会議員や閣僚の政治資金問題やスキャンダル等の個人的問題で、犯罪捜査が同時並行で行われていたり、その後の刑事責任追及が必至な事例だった。「刑事訴追のおそれ」で「証言拒否」が予想される場合でも、敢えて喚問が実施される目的は、もっぱら政治的アピールであり、証人喚問によって事実解明が行われることはほとんどなかった。

今回の佐川氏証人喚問でも、与党側の質問では、丸川珠代議員の、事前に想定問答がセット済みであるような質問で、

「安倍総理からの指示はありませんでしたね。」

など誘導的な質問をしたり、

「少なくとも今回の書き換え、そして森友学園の国有地の貸し付けならび売り払いの取り引きについて、総理、総理夫人、官邸の関与がなかったということは証言を得られました。」

などと強調したりするなど、自民党にとって証人喚問の目的が「真相解明」ではなく、「安倍首相・首相夫人の関与の否定」だったことを印象づけた。

一方、野党側は、多数の質問者が「顔見世興行」的に次々と登場したため、質問が細切れとなった上、「証言拒否」が想定される事項の質問を繰り返すだけで、与党議員の質問に対する証言内容を問いただすこともせず、有効な追及はほとんどなかった。

今回の財務省の決裁文書改ざん問題は、「国有地の売却という行政上の意思決定に関する決裁文書が、事後的に改ざんされた上で提出されて国会が騙された」という、議会制民主主義を根底から揺るがす問題であり、国民とともに「被害者」の立場にある国会および与野党の国会議員は、国会での国政調査の機能を最大限に高めることに真剣に取り組むのが当然である。

しかも、刑事訴訟法改正で、刑事裁判の証人尋問に「刑事免責」の制度が導入されたことで、「刑事訴追を受けるおそれ」を理由とする証言拒否に対して、最も効果的な対抗策である「刑事免責」を導入することに、立法技術上の困難性はほとんどなくなっているのである。「国権の最高機関」である国会が行う証人喚問について、刑事裁判と同様の「刑事免責」を導入する立法を行うことを否定する理由はない。

あわせて読みたい

「森友学園」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    よしのり氏 年収100万円時代来る

    小林よしのり

  2. 2

    人手不足でも不遇続く氷河期世代

    fujipon

  3. 3

    河野大臣の答弁拒否に議員が苦言

    大串博志

  4. 4

    たけし 桜田大臣叩く野党に苦言

    NEWSポストセブン

  5. 5

    あなたも共犯 食卓に並ぶ密漁品

    BLOGOS編集部

  6. 6

    検察OB ゴーン氏逮捕は無理な話

    AbemaTIMES

  7. 7

    中国富豪 蒼井そらに300万円出す

    NEWSポストセブン

  8. 8

    高圧的な革新機構社長に違和感

    鈴木宗男

  9. 9

    安倍政権の横暴助ける無能な野党

    PRESIDENT Online

  10. 10

    米が中国渡航に勧告か 報復警戒

    ロイター

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。