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働かなくても生きているだけでお金がもらえるベーシックインカムーエノ・シュミット氏の来日を受けてー


すべての人に現金が配布されるベーシックインカム(ペイレスイメージズ/アフロ)

 働かなくてもお金がもらえるとしたら・・・

働かなくてもお金がもらえるとしたら何をしたいか想像してみてください。


2018年3月27日さいたま市浦和にてエノ・シュミット氏の講演とディスカッション

そんな言葉でベーシックインカムの意義を語るエノ・シュミット氏。

働かなくてもお金がもらえるとしたら・・・

子育てに時間を割いて子どもと遊ぶ時間を増やせる。

趣味や旅行の時間に費やしてのんびりと暮らすことができる。

嫌な仕事を我慢してやる必要性がないから辞職する。

リスクのある資産運用などから撤退する。

教育費の積み立てや自己投資の資金に利用する。

生活費を気にせずに本来やりたかった仕事や社会活動に没頭してみる。

自然環境の良い街に引っ越したい。

家庭内暴力や暴言に耐えることなく夫と早く離婚する。

他にもいろいろな選択肢が人生で広がっていくことだろう。

まさに人生がお金に縛られなくてよくなるかもしれない・・・。

嫌な職場で仕事をしなくても済むし、家族と同居している必要性もないかもしれない・・・。

いろいろな想像をしてみてほしい、というところがエノ氏のベーシックインカム論の導入の話だ。

いくらもらえるのかにもよるが・・・。

 社会活動家 エノ・シュミット

エノ・シュミット氏は、こんなワクワクするような想像をスイス国民にしてもらう手法を駆使し、2016年にスイスでベーシックインカム(BI)の国民投票を仕掛けた社会活動家である。

AIの導入で人々の仕事はどんどん減るし、生産性が少ない仕事をわざわざ人間がする必要性がなくなったことも説いている。

人間は労働から解放されて、より意義があり、より自由な形態での働き方や社会活動が可能となる。

もちろん、時間があるため、政治や社会のことを考えることも可能になるという。

ベーシックインカムは、人間本来の生き方を模索するためにも導入が必要だそうだ。

各種年金や税控除、生活保護などの社会保障費をベーシックインカムに統合することで財源はあるし、一律に現金支給となれば効率化も図れる。実現可能性はゼロではないのである。

ただ、エノ氏は「日本におけるベーシックインカムではいくら支給されるのか」という問いに「具体的な金額を導入前に出してしまえば混乱が生じたり、誤解が生じる」として、あくまで金額をいくらにするのかは、その国の民意によるしかないことも付け加えている。

さらに、ベーシックインカムを導入したとしても、その支給金額のみで生活していくことが難しいということも話されている。

エノ氏はこれらの思想を実現すべく、130名程度の仲間と連携して、1年半で寄付金を約2000万円(日本円換算)と10万人の街頭署名を集めて、ベーシックインカムの賛否を問う国民投票をおこなった。

スイスでは約800万人の人口のうち、10万人の街頭署名を集めれば、どのような政策でも国民投票にかけることが可能だ。

ダイレクトデモクラシーと呼ばれていて、直接民主制などとも訳される。

昨年は台湾でも同様の国民投票制度が導入されて、話題になっている。

エノ氏はこの活動によって、ベーシックインカムという言葉も世界中に広めることに貢献した第一人者である。

国民投票の結果は、ベーシックインカム導入に賛成が約23%であったそうだ。要するに反対が約70%ということになる。

しかし、エノ氏は結果に落胆していない。ベーシックインカムを知ってくれて、なおかつ4分の1程度の人が賛成してくれたのだから、と。

スイスでは女性の参政権を得るのに70年かかった。だから何でもシステムを変えるのには時間がかかる。今後も時間をかけて意義を伝えていくそうだ。

また、スイスでは過去に軍隊廃止も国民投票で問われた。

その結果、これも反対多数で否決されたが、このムーブメントを契機として、多くの国民が考えて注目したため、大幅な軍事費の削減に成功している。

エノ氏は国民を信じて、国民に語りかけながら社会のあり方、民主主義のあり方を問う活動を世界を駆け巡りながらおこなっている。

日本にも何度も訪問してベーシックインカムやダイレクトデモクラシーの意義を伝導している。

 ベーシックインカム論が私たちに問いかけるもの

では、そもそもエノ氏のいうベーシックインカムとは何か。

ベーシックインカムとは、生活保護制度のような資産調査をしたり、親族への扶養照会をすることなく、現金給付を無条件でおこなう仕組みである。障害があれば受けられる障害年金でも高齢者が受けられる老齢年金でもない。

すべての人々を対象にした無条件の現金給付政策だ。条件を付けずにすべての人々の生存を支える。

エノ氏は現在の選別的な社会保障ではなく、すべての人に最低限の所得を保障しようという社会的ムーブメントとして2016年の国民投票などを実施してきている。しかし、現在のところ、ベーシックインカムを制度として導入している国は存在しない。

エノ氏によれば、フィンランド、ケニア、インド、ナミビアなどで限定的にモデル事業として実施されているだけだ。

その評価も検証も十分といえる状況ではない。

ベーシックインカムの特長は、働かなければ給与をやらない、とか、こういう条件を満たさなければ支給してやらない、という制度ではない。

前述したとおり、先に社会が人々の暮らしを保障することで、いやいや働かざるを得ない人はいなくなり、むしろ社会のために良い働き方・生き方ができるのではないかという思想の実験でもある。

日本の現状を見てほしい。日本社会はボロボロなのである。

好景気だと湧いても実質賃金が上がらず、働いている人々の間でもワーキングプアが増え続けている。

ブラック企業も多く、ストレスフルな労働環境のなかで、過労死、精神疾患やうつ病を発症する若者が後を絶たない。

経済的な困窮やストレスに起因した家庭内暴力や虐待も増加傾向である。

高齢者は年金が少なく、日々の生活にあえいでいる「下流老人」が膨大にいる。

生活保護制度は機能不全を起こしており、必要な人々に保護費が支給されていない。かなり困窮度合いが高くなければ受給は認められず、受給までに高いハードルがあることは何度も指摘されている。

子どもの教育費や住宅費など子育て世帯の負担は相変わらず重く、当然、少子化も一向に止まる気配がない。

実体経済は異次元の金融緩和などを実施してもデフレから抜け出すことすらできていない。そればかりかGDPをマイナス成長にしないために必死なあり様が30年ほど続いている。

それにも関わらず、政治や行政のあり様を見ていれば、ガッカリすることの連続でもあるだろう。

もはや打つ手はないように思えるかもしれない。

だからこそ、ベーシックインカムのように、すべてを変えられる魔法や特効薬にすがりたくもなってくるはずだ。

ベーシックインカムは「せめて来世は幸せになりたい」と願った中世の日本で、多くの人々が「南無阿弥陀仏」と唱えたように宗教性も垣間見え始めた。

エノ氏がベーシックインカム論で大事だと強調したのは、ベーシックインカム導入だけでは人々は幸せにはなれないこと、そして社会運動を繰り返していないと実現は不可能なことだ。唱えているだけでは実現は不可能だということ。

私たちはベーシックインカムを議論する以前に、社会を変えるため、日常を変えるため、何かしていることはあるだろうか。

日常が仕事に追われ、忙しすぎるため、ひどい社会であっても、社会運動や労働運動がほとんど見られない現状である。

政治に対しても「期待しても仕方がない」「どうにもできない」を繰り返していないだろうか。

あるいは安倍首相やポスト安倍、政府など、誰かが変えてくれると漠然と期待しているかもしれない。

これではベーシックインカムへの道筋は果てしなく遠いと言わざるを得ない。

スイスと日本の決定的な違いは、人々に社会のことを考える機会や時間が与えられているか否かということ。

スイスでは、それらの機会や時間は過去の社会運動、労働運動によって得られた土台の上に成り立っている。

日本でもまずは自分たちの働き方、暮らし方を少しずつでも変えていく具体的なアクションから取り組みたいところだ。

最後に、ベーシックインカムを議論することによって、私たちが働き方や社会、政治に目を向けていく契機にはなるだろう。

エノ氏が問いかけるのは、結局のところ、ベーシックインカムの賛否よりも、「あなたたちはこのひどい日本社会をどうしていきたいのか」ということを主体的に考えてみてほしいというメッセージだった。

※Yahoo!ニュースからの転載

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