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受験生のみなさんへ

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米英二国から日本の学校教育の失敗についての指摘があったことにはそれなりの歴史的意味があると考えられます。米英両国は大西洋憲章・ポツダム宣言以来、戦後日本の国のかたちについて制度設計の責任を(部分的には)感じています。はやばやと世界帝国であることを止めた英国はともかく、米国は今も戦後日本のシステムに対して(宗主国としての)責任と権限を自覚しています。

日本の国力が衰微したら、それは盟邦としての米国の国益が損なわれるだけでなく、戦後日本社会の設計と運営にあたっていた米国の責任でもあるからです。だから、「友情ある苦言」はまず米英両国から到来した。そういうことではないかと思います。中国や韓国やASEAN諸国からは日本の学校教育に対する批判的なコメントが来ることはまずありません。日本が教育に失敗して、国力が低下しても、それは彼らからすればまさに「対岸の火事」に他ならず、東アジアにおける日本のプレゼンスの低下など痛くも痒くもないからです。

ですから、友邦から海外から日本の学校教育について警鐘が鳴らされているということを日本の教育関係者は厳しく受け止めなければならないと私は思います。けれども、この事実について日本のメディアではほとんど報道がなされていません。なぜか。

制度に欠陥があるというのは「よくあること」です。でも、制度の欠陥についての指摘を聞き流して、失敗を修正しないというのは「よくあること」ではありません。それはより深刻な出来事です。人間は誰でも病気になり、怪我をします。その時には、どの臓器や生体機能が不調であるか、どこの骨が折れ、どこから出血しているかについて吟味がまずなされます。そうしないと治療が始まらないからです。でも、今の日本では「日本の学校教育が海外から否定的評価を受けている」という事実そのものが隠蔽されている。それは制度を手直しし、補正する手立てを講じる機会そのものを放棄するということです。

驚くべきことに、教育行政の当事者たちは今も自分たちの失敗を認めておりません。客観的なデータが「日本の教育は落ち目だ」ということをにべもなく伝えているので、やむなく「教育行政は一貫して正しい政策を行ってきたが、現場が言うことを聞かずに、閉鎖的で封建的な遺制を死守しているために、教育が劣化したのだ。

ゆえに教員たちから自己決定権を取り上げ、上意下達の仕組みに切り替えることが教育改善のためには急務である」という説明にしがみついている。教育の「全面的な失敗」の責任は教育現場が行政の指導に従わないことにあって、行政側には何の瑕疵もない、そう言い張っている。もちろん、内心では「たいへんなことになった」と困惑しているのでしょうけれども、今さら「すみません」とは言えない。お役人は基本的に失敗を認めません。

それで省庁の面子が保てると思っている。でも、そのせいで「失敗から学習する」という進歩と修正のための唯一つの道筋を自ら塞いでしまっている。

ですから、気鬱な予言になりますけれど、大学を含む日本の学校教育はこれから先ますます「落ち目」になってゆきます。V字回復の見込みはありません。もうすぐに18歳人口の急減によって、大学が次々と淘汰されて消えてゆきます。2017年度で大学を経営する660の学校法人のうち112法人(17%)が経営困難、21法人は2019年度中に経営破綻が見込まれています。みなさんがこれから進学しようとしている先は、そういう危機的状況にある領域なのです。

じゃあ、どうすればいいんだ、と悲痛な声が上がると思います。上がって当然です。分かっているのは「こうすればうまくゆく」というシンプルな解は存在しないということです。初めて経験する状況ですから成功事例というものがない。生き延びる方途はみなさんが自力で見つけるか創り出すなりするしかない。

書物やメディアで必要な情報を集め、事情に通じていそうな人に相談し、アドバイスに耳を傾け、分析し、解釈して、生きる道を決定するしかありません。そして、その選択の成否については自分で責任を取るしかない。誰もみなさんに代わって「人生の選択を誤った」ことの責任を取ってはくれません。

どのような専門的な知識や技能を手につけたらよいのかを判断をする時にこれまでは「決して食いっぱぐれがない」とか「安定した地位や収入が期待できるから」という経験則に従うことができました。これからはそれができない。日本の産業構造や雇用状況はこれから少子化高齢化とAIの導入で激変することが確実だからです。でも、どの産業セクターが、いつ、どのようなかたちで雇用空洞化に遭遇するかは誰も予測できない

ですから、僕からみなさんにお勧めすることはとりあえず一つだけです。それは「学びたいことを学ぶ。身につけたい技術を身につける」ということです。「やりたくはないけれど、やると食えそうだから」といった小賢しい算盤を弾かない。「やりたいこと」だけにフォーカスする。それは自分がしたいことをしている時に人間のパフォーマンスは最も高まるからです。生きる知恵と力を最大化しておかないと生き延びることが難しい時代にみなさんは踏み込むのです。ご健闘を祈ります。

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