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Forbes Japanウナギ記事に見られる事実誤認について

2018年3月18日にForbes Japanに公開された記事『「土用の丑の日」の影に潜むブラックウナギ問題』の内容に、看過しがたい事実誤認が複数見られたため、以下の5点について、Forbes Japan編集部に対し、編集部の考えをお聞きする質問状を、問い合わせフォームから送りました。回答は、いただき次第公開します。なお、二重カッコ内の太字は記事からの引用です。

(1)『パンダより絶滅が危惧されているのに、いまだに乱獲され、蒲焼にまでされている種がある。ニホンウナギである。』
IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは、ジャイアントパンダは絶滅危惧II類(VU)、ニホンウナギはそれよりもランクの高い絶滅危惧IB類(EN)に区分されています。しかし、ジャイアントパンダが絶滅危惧種に指定されている理由は、個体数が少ないことです(Swaisgood et al. 2016)。具体的には、個体群サイズが成熟個体1000未満と推定され(基準D1)、かつ1000以上の成熟個体を含んでいると推定される下位個体群が存在しない(基準C2a(i))ために、絶滅危惧II類(VU)に区分されています。

一方でニホンウナギは、個体数は非常に多いのですが、急激に減少していることを理由として、絶滅危惧種に区分されています(Jacoby & Gollock 2014)。具体的には、適切な個体数レベルを表す指数及び出現範囲、占有面積、あるいは生息環境の減少に基づき、過去3世代の間に個体群サイズが50%以上縮小していることが推定され、縮小の原因が理解されていない(基準A2bc)ために、絶滅危惧IB類(EN)に区分されています。

ジャイアントパンダとニホンウナギを同列に並べ、『絶滅が危惧されているのに』『蒲焼にまでされている』との主張は、レッドリストの絶滅リスク評価システムの理解不足から消費行動を非難する、明らかなミスリードです。このような誤った主張は、絶滅危惧種を適切に管理・保全するにあたって、むしろ障害となります。

また、記事ではニホンウナギが『天然記念物のトキと同じカテゴリーであるIUCNの絶滅危惧種IB類に指定されたと述べていますが、天然記念物は絶滅リスクとは独立した基準で評価されています。生物種ごとに絶滅リスクを評価し、一覧にしたレッドリストは、日本では環境省が管理・運営しています。レッドリストでは、絶滅リスクの高い生物種は絶滅危惧種に、それほど高くないものは異なったカテゴリーに区分されます。これに対して天然記念物の指定は文科省が管轄しており、指定されるのは、『我が国にとって学術上価値の高いもの』です(文化庁文化財部記念物課 2010)。記事の中では、天然記念物と絶滅危惧種(希少種)が混同されているようです。

参考
IUCNカテゴリーと基準(3.1版 改訂第2版)

(2)『香港ルートと呼ばれるルートが明確なもの』
「香港ルート」とは、香港から日本に輸入されるシラスウナギがたどる経路のことです。この経路で日本に輸入されるシラスウナギの多く、または全部が、台湾などの原産国から密輸されている可能性が疑われています。当然、そのルートは不明確です。記事では「香港ルート」について、出所が明らかで適切であるかのように記載していますが、誤りです。

参考
NHK「”白いダイヤ”ウナギ密輸ルートを追え!」
Kaifu Lab「シラスウナギ密輸の裏にあるのは『無意味な規制』-NHKクローズアップ現代を見て-」

(3)『出所不明なウナギは52%にも上る』
記事中の平成28年漁期の数値(7.7トン、6.1トン、5.9トン)を組み合わせて計算しても、「52%」という数値を得ることはできません。おそらくこの数値は、2015年漁期における、違法なシラスウナギの国内漁獲量(9.6トン)が、養殖場に入れられたシラスウナギの量(18.3トン)に占める割合、52.46%を指しているものと思われます。この年に香港ルートで輸入された、つまり原産国から密輸されて日本へ来たと考えられるシラスウナギは3.0トンであり、違法が疑われるシラスウナギは9.6+3.0=12.6トンになります。

総量18.3トンの68.85%、約7割であり、直前にある『日本の市場に出回るウナギのなんと7割ほどが、IUU漁業のものと言われている』とも合致します。筆者に確認しなければ確定的なことは言えませんが、「52%」という値は、「2015年漁期に国内で密漁・密売されたシラスウナギの量」が「2015年漁期に国内で養殖に用いられたシラスウナギの総量」に対する割合であると推測されます。その場合、「52%」に、香港ルートで輸入されたシラスウナギは含まれません。

なお、シラスウナギは密漁や密売が横行しているため、国内漁獲量を把握することが困難です。このため、養殖業者が養殖場に入れたシラスウナギの総計から、貿易統計に記録されているシラスウナギの輸入量を差し引いた値を、国内のシラスウナギ漁獲量と考えます。国内のシラスウナギ漁獲量から報告量を差し引いた値が、国内で密漁・密売されたシラスウナギの量になります。

参考
Kaifu Lab「2018年漁期シラスウナギ採捕量の減少について その6 新しいシラスウナギの流通」

(4)『3枚のうなぎのうち2枚はブラックマネーに侵されている可能性がある』
これは、国内で養殖されたウナギの約7割に違法行為が関わっているという前提から導かれている記述です。おそらく2015年漁期を示していると考えられますが、この記事では香港からの輸入については、『ルートが明確なもの』として扱っています。そうすると、2015年漁期の「ブラックな」ウナギは約半分(52%)であり、『3枚のうなぎのうち2枚はブラックマネーに侵されている可能性がある』という記述と矛盾します。

参考
Kaifu Lab「密漁ウナギに出会う確率は50%?」

(5)『日本に輸入されるブラックな52%のウナギ』
上述のように、「52%」という数値はおそらく、「2015年漁期に国内で密漁・密売されたシラスウナギの割合」であり、輸入されたものではありません。また、記事では香港ルートで輸入されるシラスウナギについて、『ルートが明確なもの』と定義しています。『輸入されるブラックな』ウナギという表現は、この定義とも矛盾します。

引用文献

Jacoby, D. & Gollock, M. 2014.  Anguilla japonica. The IUCN Red List of Threatened Species 2014: e.T166184A1117791.
文化庁文化財部記念物課(2010)「記念物の保護のしくみ」
Swaisgood, R., Wang, D. & Wei, F. 2016.  Ailuropoda melanoleuca (errata version published in 2016). The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T712A121745669.

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