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- 2012年01月06日 12:00
米国の新国防戦略:メインステージはアジア太平洋へ
米国が新たな国防戦略を発表しました。国防予算が大幅に削減される中、地上戦力を中心に米軍全体の規模も縮小される方針です。そうした戦略環境下で米国が国益をどのような点に置き、それを確保するためにどのようにリソースを配分するか、という点が注目されています。
今回の発表では、公海の自由通航やアクセスの自由、そしてサイバースペースや宇宙に配備されたアセットへのアクセス確保が米国の経済・安全保障上不可欠なものであるとし、中国やイラン、北朝鮮がこれを脅かす可能性があると示唆しています。その上で、アジア太平洋へのシフトが明確にされました。中東へのプレゼンスはある程度維持される模様ですが、欧州への姿勢は「スマート・ディフェンス」という表現で、いかにも申し訳程度、という印象です。
また、新聞等でも伝えられている通り、これまで米国が採用してきた二つの大規模紛争に同時に対処する「二正面作戦」を放棄することが示されています。今後は、あるひとつの地域の大規模紛争に従事する場合、別のある地域においては紛争の抑止に専念する、という方針ですね。
国防総省発表の資料を読むと、米国が安全保障上、どのような点を重視しているのかがざっくりとつかめるかと思いますので、要点をご紹介します。
中国の地域大国としての台頭は、長期的に見て米国の経済と安全保障に様々な形で影響を与えるだろう。中東では、「アラブの目覚め」が機会と挑戦をもたらすだろう。このように戦略的景色が変わるにつれて、欧州に対する我々の姿勢も変化が求められている。予算削減が求められる中、米国はNATO諸国とは「スマート・ディフェンス」というアプローチをとることになるだろう。
米国の国益を保護し、国家の安全保障を維持するためには、米軍はその能力を再調整し、選択的投資によって任務を遂行する態勢を整えなければならない。そのためのポイントが以下である。
■ テロと不正規戦への対応
米軍は、アルカイダとその系統組織、またその支持者に対して引き続き一定の圧力を加えなければならない。そして、アルカイダを分裂、解体、そして打ち負かすという目的を達成し、アフガニスタンが再びテロリストたちの安全な避難場所(safe haven)とならないよう努力しなければならない。過去10年の経験を生かし、テロと不正規戦への適切な能力の構築と維持が要求される。加えて、他のテロ集団(例:ヒズボラ)による脅威への対処も怠ってはならない。
■ 侵攻に対する抑止と打破
信頼性の高い抑止力とは、侵攻側の目的達成の見込みを挫く能力と侵攻側に受け入れがたい代価を課す能力から生まれる。複数の地域に国益を有する米国にとって、ある地域で大規模作戦に従事しつつ、別のある地域において敵対国を抑止し、打破する能力を持っておかなくてはならない。すなわち、ひとつの地域では、全領域(陸、海、空、宇宙、サイバースペース)で軍事作戦を遂行し得る能力を持つことが必要となる。ここには、限定的な期間、軍を常駐させて領土と住民を保護し、安定的な政権への移行を促進する(必要な場合は動員兵力によって期間延長)能力も含まれる。そして、あるひとつの地域で大規模作戦を進めながらも、第二の地域において別の侵略者の目的を挫く能力を持たなければならない。可能な場合は、同盟国の軍隊などとの連携をとる。
■ A2AD(接近阻止/領域拒否)下での戦力投射
潜在敵国を抑止し、その目的達成を防ぐためには、米国は作戦上必要なアクセスと自由が妨げられる恐れのある地域への戦力投射能力を維持しなければならない。これらの地域では、敵国は電子・サイバー戦力、弾道・巡航各種ミサイル、先進型防空能力、機雷などにより我が方の作戦立案を複雑化させる非対称戦力を用いるだろう。中国やイランなどは、米国の戦力投射能力に対処するための非対称手段を追及しており、この種の洗練された武器や技術は非国家アクター(テロリストなど)へも拡散するだろう。そのため、米軍は、A2AD環境下での効果的な作戦遂行能力が要求され、それに応じた投資をすることになる。つまり、潜水艦戦力を維持し、新たなステルス爆撃機を開発し、ミサイル防衛を発展させ、宇宙配備型戦力の復元力と効果を強化するといったJoint Operational Access Concept(JOAC)※1の実行が含まれている。
■ 大量破壊兵器(WMD)への対処
米軍は、核、生物、化学兵器の拡散と使用の阻止を目的とした活動に従事している。活動は、「協力的脅威削減計画※2」の下、WMD及び関連物質や製造手段・施設の位置特定、監視、追跡、輸送阻止、確保などを含む。これは、イランのように核兵器開発能力を追及する国家の野心を挫くために米政府が行うすべての努力も含んでいる。
■ サイバースペースと宇宙における効果的運用
現代の軍隊は、情報コミュニケーションやサイバースペース、そして宇宙へのアクセスが保証されていなければ、素早く効果的な作戦行動はとれない。今日、宇宙システムやその支援インフラは、そのアセットの価値を低下・途絶・破壊する能力を持った脅威にさらされている。それゆえ、米国は国内外のパートナーと連携し、そのネットワークを保護する先進機能や、サイバースペースや宇宙に配備されたアセットの復元力を高めるための投資をする。
■ 安全かつ確実で効果的な核抑止力の維持
核兵器が存在する限り、米国は安全かつ確実で効果的な兵器を維持する。潜在敵国を抑止し、米国の同盟国及び米国のコミットメントを期待する安全保障上のパートナーに対する保証として、我々は敵に受け入れがたい損害の見込みを与える核戦力を配備する。米国の抑止は、より小さな核戦力によって達成できるものであろう。
■ 安定的なプレゼンスの提供
ローテーション配備や二国間・多国間演習を通じ、米軍は持続可能な形でのプレゼンスを維持する。これは抑止力を高めるだけでなく、米国とその同盟国間での関係を強化することにもつながる。リソース(予算等)の減少により、同盟国やパートナーへの支援を維持するための新たな方策が求められている。予算削減のもと、プレゼンス維持のためのオペレーションの場所や頻度に関しては慎重な選択が求められる。
■ 安定化活動と対ゲリラ作戦への対処
イラク、アフガニスタン両戦争が終わり、情勢安定のためのオペレーションにおいて米軍の関与を減らすため、米国は非軍事手段や軍事協力を強調している。それでもなお要求がある場合に備えて、米軍は限定的な対ゲリラ活動に対処できるようにしているが、できる限り国連軍などとともに活動する。米軍はもはや大規模かつ長期にわたる安定化活動を行うサイズを必要としない。
※1 例えば中国近海のようなA2AD戦略環境において、米軍が作戦領域へのアクセスを確保する手段の構想。以下参照。
平山茂敏、Joint Operational Access Concept (JOAC) について (海上自衛隊幹部学校)
※2 協力的脅威削減計画(Cooperative Threat Reduction Program)。別名、「ナン・ルーガー法」。 旧ソ連が崩壊し、そこで保有されていた大量破壊兵器及びその関連物質と技術の管理を改善し、インフラなどの安全な解体を支援することを目的とした計画。
今回の発表では、公海の自由通航やアクセスの自由、そしてサイバースペースや宇宙に配備されたアセットへのアクセス確保が米国の経済・安全保障上不可欠なものであるとし、中国やイラン、北朝鮮がこれを脅かす可能性があると示唆しています。その上で、アジア太平洋へのシフトが明確にされました。中東へのプレゼンスはある程度維持される模様ですが、欧州への姿勢は「スマート・ディフェンス」という表現で、いかにも申し訳程度、という印象です。
また、新聞等でも伝えられている通り、これまで米国が採用してきた二つの大規模紛争に同時に対処する「二正面作戦」を放棄することが示されています。今後は、あるひとつの地域の大規模紛争に従事する場合、別のある地域においては紛争の抑止に専念する、という方針ですね。
国防総省発表の資料を読むと、米国が安全保障上、どのような点を重視しているのかがざっくりとつかめるかと思いますので、要点をご紹介します。
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Sustaining U.S. Global Leadership: Priorities for 21st Century Defense [PDF] (米国防総省)米軍は世界中の安定に寄与し続けるが、今後はアジア太平洋地域に対するバランスを再考する。なぜなら、米国の経済と安全保障は、西太平洋から東アジア、そしてインド洋、南アジアによって形成される「弧」に沿って拡がっている。したがって、アジアの同盟国・パートナーとの関係は、地域の安定と成長にとって極めて重要である。
中国の地域大国としての台頭は、長期的に見て米国の経済と安全保障に様々な形で影響を与えるだろう。中東では、「アラブの目覚め」が機会と挑戦をもたらすだろう。このように戦略的景色が変わるにつれて、欧州に対する我々の姿勢も変化が求められている。予算削減が求められる中、米国はNATO諸国とは「スマート・ディフェンス」というアプローチをとることになるだろう。
米国の国益を保護し、国家の安全保障を維持するためには、米軍はその能力を再調整し、選択的投資によって任務を遂行する態勢を整えなければならない。そのためのポイントが以下である。
■ テロと不正規戦への対応
米軍は、アルカイダとその系統組織、またその支持者に対して引き続き一定の圧力を加えなければならない。そして、アルカイダを分裂、解体、そして打ち負かすという目的を達成し、アフガニスタンが再びテロリストたちの安全な避難場所(safe haven)とならないよう努力しなければならない。過去10年の経験を生かし、テロと不正規戦への適切な能力の構築と維持が要求される。加えて、他のテロ集団(例:ヒズボラ)による脅威への対処も怠ってはならない。
■ 侵攻に対する抑止と打破
信頼性の高い抑止力とは、侵攻側の目的達成の見込みを挫く能力と侵攻側に受け入れがたい代価を課す能力から生まれる。複数の地域に国益を有する米国にとって、ある地域で大規模作戦に従事しつつ、別のある地域において敵対国を抑止し、打破する能力を持っておかなくてはならない。すなわち、ひとつの地域では、全領域(陸、海、空、宇宙、サイバースペース)で軍事作戦を遂行し得る能力を持つことが必要となる。ここには、限定的な期間、軍を常駐させて領土と住民を保護し、安定的な政権への移行を促進する(必要な場合は動員兵力によって期間延長)能力も含まれる。そして、あるひとつの地域で大規模作戦を進めながらも、第二の地域において別の侵略者の目的を挫く能力を持たなければならない。可能な場合は、同盟国の軍隊などとの連携をとる。
■ A2AD(接近阻止/領域拒否)下での戦力投射
潜在敵国を抑止し、その目的達成を防ぐためには、米国は作戦上必要なアクセスと自由が妨げられる恐れのある地域への戦力投射能力を維持しなければならない。これらの地域では、敵国は電子・サイバー戦力、弾道・巡航各種ミサイル、先進型防空能力、機雷などにより我が方の作戦立案を複雑化させる非対称戦力を用いるだろう。中国やイランなどは、米国の戦力投射能力に対処するための非対称手段を追及しており、この種の洗練された武器や技術は非国家アクター(テロリストなど)へも拡散するだろう。そのため、米軍は、A2AD環境下での効果的な作戦遂行能力が要求され、それに応じた投資をすることになる。つまり、潜水艦戦力を維持し、新たなステルス爆撃機を開発し、ミサイル防衛を発展させ、宇宙配備型戦力の復元力と効果を強化するといったJoint Operational Access Concept(JOAC)※1の実行が含まれている。
■ 大量破壊兵器(WMD)への対処
米軍は、核、生物、化学兵器の拡散と使用の阻止を目的とした活動に従事している。活動は、「協力的脅威削減計画※2」の下、WMD及び関連物質や製造手段・施設の位置特定、監視、追跡、輸送阻止、確保などを含む。これは、イランのように核兵器開発能力を追及する国家の野心を挫くために米政府が行うすべての努力も含んでいる。
■ サイバースペースと宇宙における効果的運用
現代の軍隊は、情報コミュニケーションやサイバースペース、そして宇宙へのアクセスが保証されていなければ、素早く効果的な作戦行動はとれない。今日、宇宙システムやその支援インフラは、そのアセットの価値を低下・途絶・破壊する能力を持った脅威にさらされている。それゆえ、米国は国内外のパートナーと連携し、そのネットワークを保護する先進機能や、サイバースペースや宇宙に配備されたアセットの復元力を高めるための投資をする。
■ 安全かつ確実で効果的な核抑止力の維持
核兵器が存在する限り、米国は安全かつ確実で効果的な兵器を維持する。潜在敵国を抑止し、米国の同盟国及び米国のコミットメントを期待する安全保障上のパートナーに対する保証として、我々は敵に受け入れがたい損害の見込みを与える核戦力を配備する。米国の抑止は、より小さな核戦力によって達成できるものであろう。
■ 安定的なプレゼンスの提供
ローテーション配備や二国間・多国間演習を通じ、米軍は持続可能な形でのプレゼンスを維持する。これは抑止力を高めるだけでなく、米国とその同盟国間での関係を強化することにもつながる。リソース(予算等)の減少により、同盟国やパートナーへの支援を維持するための新たな方策が求められている。予算削減のもと、プレゼンス維持のためのオペレーションの場所や頻度に関しては慎重な選択が求められる。
■ 安定化活動と対ゲリラ作戦への対処
イラク、アフガニスタン両戦争が終わり、情勢安定のためのオペレーションにおいて米軍の関与を減らすため、米国は非軍事手段や軍事協力を強調している。それでもなお要求がある場合に備えて、米軍は限定的な対ゲリラ活動に対処できるようにしているが、できる限り国連軍などとともに活動する。米軍はもはや大規模かつ長期にわたる安定化活動を行うサイズを必要としない。
※1 例えば中国近海のようなA2AD戦略環境において、米軍が作戦領域へのアクセスを確保する手段の構想。以下参照。
平山茂敏、Joint Operational Access Concept (JOAC) について (海上自衛隊幹部学校)
※2 協力的脅威削減計画(Cooperative Threat Reduction Program)。別名、「ナン・ルーガー法」。 旧ソ連が崩壊し、そこで保有されていた大量破壊兵器及びその関連物質と技術の管理を改善し、インフラなどの安全な解体を支援することを目的とした計画。



