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“人質司法の蟻地獄”に引きずり込まれた起業家

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全額返還を妨害した助成金詐欺での強引な逮捕

国税局査察部の調査も長期化し、強制捜査から2年半が経過した。M氏への査察調査は終了したのかと思っていた矢先の2016年7月、M氏の会社が受けていた中小企業雇用安定助成金の不正受給に関する東京地検特捜部の捜査が始まり、会社の従業員が事情聴取を受けた。

その助成金に関する手続は、唐澤氏の会社が受託して行ったものだった。社員に休業させて研修を受けさせた場合に支払われるものだったが、当初、行う予定だった研修が実際にはほとんど行われていないものがあり、結果的に不正に受給したことになっていることは否定できなかった。

特捜部が、国税局査察部が強制捜査で押収したM氏の会社の全データ・書類の中から助成金関係の書類の不備を見つけ、M氏の脱税の容疑を固め、助成金詐欺としてM氏と唐澤氏を立件しようとしていることがわかった。

唐澤氏は、東京労働局に問い合わせをし、受給していた助成金で不正や不備があった場合の対処について聞いたところ、「東京労働局として調査をし、不正であることが確認できれば、取消決定通知を出すので、取消決定通知を受けて全額返納してくれれば良い」という回答だった。また、「全額返納した場合、刑事告発は行う理由がない上、過去に刑事告発をした事例は1件もない」との回答だった。

そこで、唐澤氏は、自らが受け取っていた報酬分を全額、M氏側に返還し、その数日後には、M氏の会社が受給した助成金について東京労働局へ全額返済しようとしたが、東京労働局から、「独自の調査で不正受給であると正式に認定し取消決定通知を出してからでないと受け取れない」と言われたため、やむなく、東京労働局の調査が終了するまで、東京労働局にも伝えたうえで、2016年9月15日に全額を供託した。東京地検特捜部の取り調べでも、法務局への供託書のコピーを提出した。しかし、唐澤氏は、27日に、M氏とともに、助成金不正受給の詐欺罪で逮捕されることとなった。

唐澤氏が、逮捕され、接見禁止のまま勾留されたために、東京労働局の調査に応じることができなくなり、助成金を全額返還するため供託までしていたのに、被害弁償も完了できなかった。120日にも及ぶ勾留がなければ、東京労働局の調査を受けて、速やかに取消決定を受けて、全額返済し、それで100%終了していたことは確実だった。

逮捕された9月27日は午前10時から東京地検特捜部で任意の取り調べ予定があったが、前日から、心臓の痛みなど極度の体調不良となったため、検察官に、体調を壊し、病院で受診することと病院名を連絡した上で、病院で入院のための検査を受けていた。そこに、特捜部の検事がやってきて、検査を中断させられて逮捕され、そのまま拘置所に収容された。

逮捕、勾留は、助成金の全額返還を妨害するために強引に行われたものだった。

「人質司法」の“蟻地獄”

以上が、唐澤氏が逮捕されるまでの経過だ。

極度の体調不良の状態で逮捕された唐澤氏にとって、拘置所での身柄拘禁は、まさに地獄だった。彼は、幼い頃から、極度の閉所恐怖症で、遊園地の観覧車にも乗れず、会社を経営するようになって以降も、商談であっても狭い会議室には入ることもできない程だった。

そのような唐澤氏は、拘置所の独房に入れられ、不安と恐怖のため一睡もすることができず、拘置所の医師に、不安障害、パニック障害と診断され、睡眠薬、数種類の抗精神薬等を処方され、朝、昼、晩、寝る前と4回も大量に服用せざるを得ない状態となった。意識が朦朧とした状態となり、検察官の取調べに対しても、まともに受け答えすらできず、取り調べは、平均して1日30分程度しか行われなかった。

唐澤氏は、助成金詐欺容疑での勾留満期に起訴されると同時に、M氏に対する法人税法違反幇助で再逮捕された。「M氏との間で架空の業務委託契約を行って脱税を幇助した」という被疑事実だった。唐澤氏には、「脱税を幇助した」という認識は全くなかった。M氏の自宅不動産の賃貸借契約も、住宅ローンの関係で銀行に提出することが目的の契約で、実際に自宅の一部は、唐澤氏の会社で会議用等にいつでも使える状態だった。業務委託契約も、実際に、起業当初から、M氏の会社からは様々な業務委託を受けており、その業務量をそれまでより増やしてくれるものと思っており、実態がないわけではなかった。しかも、唐澤氏は、M氏の会社の経営状況も税務申告の内容も全く知らない。黒字か赤字かも知らなかった。仮に、M氏が脱税をして、それに業務委託契約書が使われたとしても、それを唐澤氏が知る由もなかった。

唐澤氏は、取調べでそのように説明しようとしたが、その点について具体的に質問されることはほとんどなく、「M氏の脱税について他に私が知っていることはないか?」という趣旨のことを何度も何度も聞かれるだけだった。「会社を経営していたのだから、架空の業務委託契約に応じることが、脱税に利用される可能性があることは、わかっていただろう」というようなことを繰り返し質問され、朦朧とした意識の中で、それを認めたような内容の調書に署名させられた。

意見書で検察官が書いた「保釈すべきでない理由」

助成金詐欺に加えて、脱税幇助で起訴された唐澤氏の保釈請求は、3回にわたって却下された。裁判官からの保釈請求への求意見に対して、検察官は、「不相当であり却下すべき」として、強く保釈に反対した。

唐澤氏は、助成金を全額返還するために供託までしていたのであり、詐欺について裁判で無罪主張をするつもりはなかったが、助成金の不正受給は計画的なものではなく、不正の利益を得る目的ではなかったということを、取調べで朦朧とした状況の中でも訴えていた。検察官は、それについて「詐欺の犯意を否認している。無罪を争おうとしている」とした。また、脱税幇助については、保釈に反対する理由を次のように述べていた。

法人税法違反幇助事件について、被告人は、捜査段階の取調べにおいて、業務委託手数料の架空性を一応認めているものの、送金する名目となっていたMの居宅の建物賃貸借契約については、実際にMの居宅を打合せに使ったことがあったなどと供述している上、幇助の故意についても、業務委託手数料の計上が脱税を目的にしたものであると明確に認識していたわけではない旨曖昧な供述をしている(被告人の反省文にも「私自身の税に関する知識をしっかり見直し」、「過ち」などと記載しており、無罪を争う事案と考えていることが判明する。)。

検察官が言っているのは、「幇助の故意について曖昧な供述をしている」「無罪を争おうとしている」ということだ。

もともと、唐澤氏は、M氏の脱税について全く認識がなかったのだから、「全く知らなかった」と言って無罪主張をするのは当然だ。認識がなかったのだから、「曖昧な供述」になるのも当然だ。ところが、検察官は、それを「罪証隠滅のおそれがある」として保釈に強く反対する理由にしたのだ。

しかし、保釈請求を受けた裁判官は、このような全く不当極まりない検察官の意見を受け入れて、保釈請求を却下した。そして、唐澤氏の勾留は100日を超えた。保釈請求についての検察官の反対意見をそのまま受け入れてしまう裁判所の姿勢が、「人質司法」の悪弊につながっているのだ。

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