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別件逮捕による採尿は違法、覚せい剤使用事件で無罪判決

謹んで、年頭のご挨拶を申し上げます。
晴れやかさも控えめな2012年の幕開けですが、太陽は、いつにも増して輝いてくれています。
皆さまの1年が実り多いものになりますよう、祈念いたします。

さて、仕事始めの1月5日、福岡地裁の覚せい剤使用事件で、違法収集証拠による無罪判決があったと、ニュースが報じています。
<ニュースから>*****
●「別件逮捕で違法捜査」覚醒剤事件で無罪 福岡

覚せい剤取締法違反(使用)の罪に問われた北九州市小倉南区の無職…被告(34)の判決で、福岡地裁小倉支部は5日、別件逮捕による違法な捜査だったとして無罪(求刑懲役3年)を言い渡した。
判決によると、被告は昨年1月19日早朝、北九州市小倉北区で、正当な理由なくカッターナイフを所持していたとして軽犯罪法違反の疑いで福岡県警に現行犯逮捕された。翌20日、令状による尿検査で覚せい剤の陽性反応が出た。
大泉一夫裁判長は軽犯罪法違反容疑での逮捕を「実質的に、令状によらずに覚せい剤使用の疑いで逮捕した別件逮捕で、令状主義の精神を無視した重大な違法がある」と判断。その上で、検察側が提出した尿の鑑定書について「証拠として採用することは別件逮捕を助長する恐れがある」として証拠能力を否定、「ほかの証拠がなく犯罪の証明がない」と結論付けた。(当事者の氏名を省略)
MSN産経ニュース 2012.1.5 19:00
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120105/trl12010519010004-n1.htm
*****
パトロール中の警察官が挙動不審者をみつけて職務質問をしたところ、覚せい剤の使用が疑われるような点が認められた・・・、このように職務質問がきっかけで、覚せい剤事犯者が逮捕されるケースがよくあります。所持品検査で覚せい剤がみつかれば、その場で簡易試験が行われて、覚せい剤所持で現行犯逮捕されるのですが、覚せい剤を所持していない場合には、尿を採取して尿中の覚せい剤を確認することになります。
多くの場合、対象者は警察官に説得されて警察署へ同行し、任意で尿を提出しています。しかし、これはあくまでも任意捜査であり、対象者が同行することを拒んだ場合、警察官は実力をもって対象者を警察署へ連れて行くことは許されません。

覚せい剤使用の疑いが濃厚であれば、令状を請求して強制採尿するのが本来とるべき方法なのですが、上記の事件では、とりあえず対象者の身柄を確保しようと、覚せい剤事件と無関係な微罪で逮捕したことが、別件逮捕による違法捜査と判断されたわけです。

実は、これとよく似た事案で、2009年3月に大阪高裁で無罪の判決が出ています。この事件は、パチンコ店の駐車場で警察官の職務質問を受けた被告人が、いわゆる浮浪罪(軽犯罪法1条4号)で現行犯逮捕されたものですが、被告人に覚せい剤の前科があったことや、所持品検査で発見された注射器等から、覚せい剤使用の疑があるとして、浮浪罪での逮捕による身柄拘束中に、令状(捜索差押許可状)によって強制採尿が行われたというものです。
判決は、別件逮捕の違法性について、次のように判示しています。
「捜査機関の関心が、専ら又は主として覚せい剤の嫌疑にあったことはほぼ明らかであるといえ、本件逮捕は、所持品検査の段階で収集された資料である被告人の前科と注射器所持の事実のみでは、覚せい剤事犯での逮捕を基礎付けるだけの嫌疑はいまだ不十分であるために、強制採尿及び鑑定を経て、覚せい剤使用による逮捕状の発付を得ることと、その間における被告人の身柄確保を主要な目的とし、そのために、別罪での逮捕という形式を利用したものであって、いわゆる別件逮捕としても違法であると評価すべきである。」
[参照・裁判例]
大阪高等裁判所 平成21年3月3日 判決 (判例タイムズ1329号276頁)
かねてから議論が多かった、別件逮捕による違法捜査の問題に、ある程度の方向性がみえてきたようです。とはいえ、覚せい剤使用事犯の捜査につきものの、採尿というやっかいな手続をめぐっては、絶対に採尿に応じないと頑張る被疑者と、採尿が遅れると犯罪の立証が困難になるとあせる捜査員との間で、紛糾が絶えません。
職務質問の現場で、複数のパトカーや多数の警察官に取り囲まれて長時間にわたり説得された例、強行に立ち去ろうとした被疑者の行動を阻止しようとするなかで起きたトラブル、同行した警察署で数時間にわたって留め置かれた例、プライバシー侵害が危惧されたケース・・・。
2010年では、覚せい剤事犯として検挙された11,993人中、使用事犯は6,915 人と半数以上を占めています(所持事犯は3,938 人)。この膨大な検挙数の裏側で、採尿をめぐって、数え切れないほどの争いやトラブルが起きており、違法性な捜査が行われたと訴える被疑者も少なくないのが現状なのです(警察庁「平成22年中の薬物・銃器情勢」)。

ところで、日本では、法律は覚せい剤や麻薬の使用を犯罪と規定し、その法律が厳格に執行されています。しかし、視野を世界に広げてみると、薬物使用を犯罪として扱っている国は、ごく少数に限られており、西欧諸国では、原則として薬物使用を犯罪としている例はありません。

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