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フェスはどこに向かうかーー書評『夏フェス革命』

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■プラットフォームとしてのフェスの権力構造

「協奏」(共創)については、著者インタビューでこんな風に語られている。

ここ数年、ビジネスの分野で「共創」という概念がよく言われるようになっているんですが、本書で掲げた「協奏」という考え方はこの「共創」を下敷きにしています。「共創」というのは文字通り「企業とユーザーが共に価値を創る」ということなんですが、もう少し紐解くと、企業が「私たちが素晴らしいと思うものを作ったから、ぜひ買ってください」もしくは「あなたたちはこんなものが好きだということが調査でわかりました。それを作ったので買ってください」と一方的に投げかけるのではなくて、ユーザーの意見や行動をタイムリーに取り入れながらそのビジネスのいちばん良いやり方を作っていく、ということになると思います。

――それは、マーケティングの世界では、割と一般的な概念なのでしょうか?

本の中でも挙げているのですが、日本で2010年に出版されたフィリップ・コトラーの『コトラーのマーケティング3.0』(朝日新聞出版)で「共創」という概念が提唱されています。その後、ソーシャルメディアが浸透していくにつれて、だんだん具体的な施策としても形になってきているように思います。ただ、「共創」を掲げている企業の多くが「共創のための場」を人工的に作って、そこで人を交流させたり、商品開発のための意見交換をさせたり、というレベルで終わっているように感じます。それが本当に何か意味のある取り組みになっているんだろうか、というのは常々疑問に感じる部分もあって。

(realsound「“フェス”を通して見る、音楽と社会の未来とは? 『夏フェス革命』著者インタビュー」より引用)

realsound.jp

おそらく20年後、30年後から今の2010年代を振り返るならば、それは「ソーシャルメディアが社会を変えた10年」ということになるのだと思う。フェスを軸に考えると、音楽を巡る場の変化が社会の変化と密接に絡み合っていた流れがすごく見えてくる。

ツイッターが浸透し、スマートフォンが普及し、「現場で体感するもの」としてのエンタテインメントが大きく支持を伸ばしていった。もちろん、2011年の東日本大震災も大きな影響もあった。

ただその一方で、サッカー日本代表戦後の渋谷スクランブル交差点が象徴するように、「本来のコンテンツそのものとは関係ないところで、参加者が“おそろいの服を着て騒ぐ”のが楽しい」というような構造も現出した。また、過去にこのブログで書いたように、そして本書でも書かれているように、日本においてハロウィンがキャズムを超えたのは2012年。それも本来のハロウィンの由来とは関係ないところで出現した、「新しい都市型の土着の祭り」だったのだと思う。

shiba710.hateblo.jp

そういう変化をつぶさに見て取れる一冊になっている。

個人的に最も刺激を感じたのは「おわりに」に書かれた部分。クラシック音楽の聴かれ方について書いた名著『聴衆の誕生』をひきつつ、18世紀の演奏会と21世紀初頭のロックフェスの風景を「社交の場、異性の視線、音楽に一生懸命耳を傾けようとする者との混在」という構造は同じだ、と位置づける。

もう一方では、フェスを「プラットフォーム」として捉え、そこにある権力構造を見出す。

フェスのタイムテーブルがヒットチャート替わりだとすると、フェスに出演しないということはすなわち「圏外」の存在であることを意味する。ということはつまり、フェスはブッキングパワーを駆使して特定のアーティストを「圏外」に追いやることができるのである。

(『夏フェス革命』より引用) 

 
このあたりは、アーティストにも「自分たちが主宰するフェスを立ち上げる」という選択肢があり、それが実際に各地で成功を収めていることからも、GoogleやamazonやFacebookなどのグローバルなプラットフォームと同列に「プラットフォーマーが強くなりすぎる問題」として語るのは慎重になるべきかも、という気がする。

■2018年のフェスの風景はどうなるのか


2018年はフジロックにケンドリック・ラマーとN.E.R.Dがヘッドライナーとして出演することが発表されている。先日には第2弾出演者が発表され、サカナクション、BRAHMAN、マキシマムザホルモン、ユニコーン、Suchmosら日本のアーティストが多く名を連ねた。

realsound.jp

一方、サマーソニックはベック、ノエル・ギャラガー、チャンス・ザ・ラッパーらを第1弾出演者として発表。現時点では第4弾までアナウンスされ、ソニックマニアにはフライング・ロータスの主宰レーベル・Brainfeederとのコラボレーションステージが登場することがアナウンスされている。

realsound.jp

www.barks.jp

ロック・イン・ジャパンの出演アーティストはこの記事を書いている時点ではまだ発表されていないが、昨年にヘッドライナーをつとめたB'z、桑田佳祐、サカナクション、RADWIMPSという並びを考えても、よりマスに訴える力を持ったアーティストがヘッドライナーをつとめるのではないかと思っている。
(個人的な勝手な予想では星野源と米津玄師が有力なのではないかと思う)

ただ、フェスを巡る言説自体も、5年前と今とでは徐々に変わってきている。このあたりの変化はまだ肌感覚でしか感じ取っていないものだけれど、おそらく、今年の夏あたりから顕在化していくような予感もする。

夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー

夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー

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