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震災7年目で添乗員の身元確認。津波警報の中で海側に向かった幼稚園バス。裁判を選んだ遺族の証言

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今年の1月30日、宮城県警は、東日本大震災後に石巻市日和山近くで発見された遺体について、私立日和幼稚園(震災当時:園児103人、斉藤紘一園長)の送迎バスの添乗員(当時58)と発表した。日和幼稚園を巡っては、津波警報が出ていたにもかかわらず、園児を乗せた送迎バスが海側に向かって出発し、津波や火災などに巻き込まれた園児5人が死亡。控訴審で和解していた。

県警の担当者「遺体を家族の元に返したい」

添乗員の遺体を発見したのは園児の遺族だ。亡くなった園児、西城春音ちゃん(当時6歳)の父、靖之さん(49)に今年1月中旬、宮城県警から電話があり、石巻警察署に出向いた。説明によれば、「焼けた遺体のDNA鑑定や歯型照合はできない。だから身元が確定できない」というのが鑑識の判断だったと。そのため、筑波大学に骨学鑑定を依頼。性別や年齢を判別したという。

「あとは状況証拠だけだった。見つけた場所にたどり着く遺体は限られている。園児が発見された場所から出た遺体で、当初から『私たちは添乗員ではないのか?』と言っていた。警察では、発見した当時の様子を思い出して、教えてほしい、と言われました」

遺体が見つかった幼稚園バス(震災当時、遺族提供)

なぜこのタイミングだったのだろうか。

「県警の担当者が今年度で定年のようで、『どうしても遺体を家族の元に返したい』と思っていたようです。これまで係争中だったために、言いにくかったとのこと。でも、私はずっと、裁判とこれとは別だと思っていました。早く言ってくれればよかった」

震災当日、津波警報の中で、幼稚園バスは海側に向かった

一審判決や遺族の説明によると、日和幼稚園は日和山(61.3メートル)の中腹にある。園内に待機するか、避難するとしても、日和山の山頂へ向かえば事故は防ぐことが出来た。しかし、園は園児をバスに乗せ、しかも、津波警報が出ているなかで、海側に向かった。途中で引き取りにきた保護者もいた。そんな中で、「バスを上げろ」と園長から指示を受けた幼稚園教諭2人が、門脇小学校で停車していたバスに追いつく。指示を伝えたが、バスは園児を乗せたまま、動いた。そして津波がくる中、運転手は園児5人と添乗員を残して、園に戻った。

幼稚園バスが停車した門脇小学校(11年7月、筆者撮影)

その後、運転手は園に戻ったものの、園長との間で、添乗員や園児の話にはなってない。しかも、子どもを迎えにきた母、江津子さん(43)が「子どもたちは?」と尋ねた際に、バスの運転手は津波被災地域を指差し、「あっちのほう」と言っただけだった。しかし、実際に運転手が逃げ出した場所は別の場所だった。確認もせずに説明したのだ。

子どもたちの死因ははっきりしない。当日の夜、子どもの“助けて”との声が聞こえたという近所の人の証言もある。もし、この声が残された園児だとしたら、園側が早く捜索活動をしていたら....と思うと遺族としてはやりきれない。

幼稚園バスが発見された場所(震災当時、遺族提供)
幼稚園バスが発見された場所(18年3月)

火がくすぶる中で遺族が捜索するも、園側はせず

3月14日、再度、靖之さんと江津子さんは園に向かった。この日、ようやく、津波が引いて、捜索できる状況になったが、園側は園児も添乗員も探した形跡はなかった。火災があったために火がくすぶる中で、靖之さんらは捜索を行った。園側が指摘した車内には遺体はなかった。しかし、ゴルフバックがあったので、他の遺族との間でも「園のバスにはゴルフバックは入ってないよね?」という話になった。

当初は、火がくすぶっていて、消防関係者も捜索ができなかった(遺族提供)

近くの別の車を探していると、「幼稚園」と書いてあるワゴン車を見つけた。そこで、焼け焦げた子どもたちの遺体と対面することになる。そして重なるようにしていた大人の遺体を発見した。今回、身元が確認された添乗員のものだった。

「子どもと比べると大きい骨だった。でも、自分としては、子どものほうが大事なのでよく見ていなかった。真っ黒だったが、子どもではなく、大人の上半身の部分だった」

「骨をいかに壊さないようにするのか難しかった」

亡くなった春音ちゃん(遺族提供)

状況的には、添乗員の可能性は高かった。骨を受け取るかどうかは夫である運転手次第だった。しかし、100%の確証があるわけではない。

「衣類も焼けていましたが、子どもの場合、衣類の一部が付着していました。母親はその日に何を着させていたのかわかります。それに娘の場合、歯型でわかりました。乳歯が抜けていたことが決定的でした。でも、添乗員の手がかりは出て来なかったようです」

こう冷静に話す靖之さんだが、春音ちゃんの遺体を発見したときは必死だった。

「(焦げていたので)骨をいかに壊さないようにするのか難しかった。毛布に包んでそっと抱きかかえて運んだ。このときは幼稚園に対する憎しみしかなかった。だって、自分で、自分の子どもの遺体を発見し、抱きあげるんですよ」

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