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埼玉県民に愛される山田うどんの"ゆるさ"

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■余裕ができても拡大しない理由

これは顧客ひとりひとりの顔、一軒一軒の間取りやレイアウトまで熟知しているからこそ成立するビジネスであろう。同社がチェーン店化し、同レベルのサービスを他の街で展開しようとしても難しいはずだ。もちろん精神論だけでやり遂げられる仕事ではなく、顧客データベースから8000人の優良顧客を導き出し、12人の営業体制で対応できる仕組みを備えている。

同社の理念「ヤマグチの考え」を紹介しよう。「ヤマグチは余裕が出来ても、店を大きくしたり支店を出したりは致しません。なぜなら、ヤマグチを利用して頂いているお客様に十分な安心サービスが出来なくなるからです。これからもヤマグチはパナソニック製品を中心にお客様に喜ばれる家電、住まいのリフォーム、健康商品を販売し、ヤマグチを利用して頂くお客様と私たち自身の為にこれからも汗を流し続けます」。

この他にも、宮城県仙台市郊外の店舗まで遥か遠方から「おはぎ」を買い求めに来る客で絶えない「主婦の店 さいち」や、北海道函館市のソウルフードとしてすっかり定着した感のあるハンバーガーショップ「ラッキーピエロ」、十勝の素材を生かしたお菓子作りで親しまれている「柳月」など、地域ダントツの評価を大切にし、商圏をいたずらに拡張しない方針を貫く企業には学ぶべき点も多い。

■時代は変わってもずっとそこにいる

1908年、横浜(現在の桜木町)駅の売店としてスタートした「崎陽軒(きようけん)」は、横浜初の名物食を作りたいという一心から、中華街で突き出しとして出されていた焼売(シュウマイ)に注目。点心の専門家をスカウトして1928年、「冷めてもおいしいシウマイ」を開発する。

シウマイ弁当は1954年から横浜駅構内で販売を開始、崎陽軒のシンボル商品として人気を博し、以降半世紀にわたって横浜名物の座を保ってきた。駅弁市場は縮小しているにもかかわらず、2016年度の売上高は過去最高を示し、一日2万食以上を売り上げている。

このシウマイ弁当、ロングセラー商品として、昔ながらの製法やデザインを固持している。シウマイの材料には、オホーツク産の干しホタテ貝柱を使用、俵型ご飯(小梅、黒胡麻)はモチモチした食感を保つために蒸気炊飯方式で炊き上げたものだ。折り容器は、アカマツやエゾマツなどの天然木を使った経木(きょうぎ)のままで、そのサイズも変えていない。本社工場で製造された弁当は、一箱ずつ手作業で紐が結ばれている。そしてシウマイの箱の中に入る48種類の絵柄を持つ磁器製しょうゆ入れの「ひょうちゃん」もまた、ずっとお馴染みの顔のままだ。

関東在住者の中には、楽しかった旅行の思い出とシウマイ弁当を重ね合わせ、その懐かしさから購入していく人も多い。シウマイの具材や調味料は飽きがこないよう、あえてシンプルなままにしているという。一度具材の唐揚げをエビフライに変更したところファンから抗議が来たため、元に戻したというエピソードにもあるように、昔ながらの姿を大切にしている。時代は変わり、美味しい食品は次から次へと登場するが、崎陽軒の味は変わらず、いつも同じ場所にいてくれる存在だからこそ、人気が損なわれないのだろう。

同社の経営理念は「ナショナルブランドではなく、真に優れた『ローカルブランド』を目指す」である。このメッセージに込められたのは、ローカルな文化でも全世界で愛されるような存在になりたい、という願いであり、目指す地点は「アルゼンチンタンゴ」のような文化ということだ。

■ぶれないでいるための努力を続けられるか

本パートで紹介したケースは、顧客と長期的に寄り添うブランドである。時代が変わっても常にそばにいてくれるような家族、あるいは自分が変わってもいつでも戻れる故郷のような存在といえる。反面、あまりに身近であるために飽きられ、尊重しづらい対象になる陥穽とは隣り合わせにある。必然的に、変わらないけど変わっていく、不易流行のマネジメントが求められる。

「ポーター」のブランドでメイドイン・ジャパンの鞄づくりを牽引する東京都千代田区の「吉田」(吉田カバン)。同社は値引きしない、宣伝しない、全工程国内生産、職人の手作りにこだわる、厳しすぎるほどの品質管理など、頑固な「ものづくり姿勢」で知られている。リピーターはもちろんのこと、修理し続けて使用したり、父から子へ受け継がれていったりと、世代を超えて愛されているブランドとして有名だ。その強度や耐久性、飽きの来ないオーソドックスなデザインは、まさに「一生のおつき合い」を可能にする製品とみられている。

そのポーターに、1983年の発売以来、基本デザインを変えない「タンカー」というシリーズがある。シリーズ全体で年間27万本の生産量を誇る、まさに日本の鞄の代表選手である。軽量で弾力性に富む素材は、米軍のフライトジャケットの名品「MA-1」をモチーフにしたものだ。スタイルや素材、見えない部分への縫製、インナーのオレンジ色といった特徴は30年間変えないまま、バッグの周囲の縁取り(パイピング)素材の耐久性を向上したり、ウエストベルトを少し長くして日本人の体格向上に合わせたり、限定商品を発売したりするなど、陰で地道な変化を導入してきている。吉田輝幸社長は、ロングセラーブランドにおいて「守りに入って代わり映えのしない単調さが出てくると衰退する」と語り、変えてはならないものを守るために必要な“変える勇気”の大切さを説く。

帝国データバンク調査(2008年)によると、百年以上続く老舗企業では、社是・社訓や主力事業の内容は維持しつつも、製造方法・販売方法・商品やサービスは「一部変えた」というケースが多い。新たな要素を取り入れていく(流行)のは、本流を変えない(不易)ための努力の一環といえるだろう。

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新井 範子(あらい・のりこ)
上智大学経済学部経営学科教授。インターネットやアプリを使ったデジタルなマーケティング、デジタル空間での消費者行動やブランディッド・エンターテインメントを中心に研究をしている。 山川 悟(やまかわ・さとる)
東京富士大学経営学部教授。広告会社のマーケティング部門において、広告計画、販売促進計画、ブランド開発、商品開発などに携わった。専門はマーケティング論、創造性開発(プランニング、事業モデル開発)、コンテンツビジネス論。

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(上智大学経済学部経営学科教授 新井 範子、東京富士大学経営学部教授 山川 悟)

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