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母親であることと階級: 日本のシングル・マザーの再生産実践

Aya Ezawa, 2010, "Motherhood and Class: Gender, Class, and Reproductive Pracices among Japanese Single Mothers," Hiroshi Ishida and David H. Slater (eds.) Social Class in Contemporary Japan: Structures, Sorting and Strategies, Routledge, 197-220.

日本のシングル・マザーの子育て実践について論じた論文。日本では専業主婦優遇の政策がとられる一方で、母子家庭への給付は、必ずしも貧困ラインを上回るに十分な額ではないため、シングル・マザーは一方で専業主婦なみの子供とのかかわりが求められる一方で、それをしていては十分な生活水準が得られないというジレンマにある。これは、子供に高い学歴と地位を達成させようとすると教育費がかさむので、特に大きなジレンマになる。それゆえ、子供の地位達成に強い関心を持つ中産階級のシングル・マザーほど上記のジレンマにさいなまれることになる。

ある中産階級の女性は十分な教育費を得られないことを覚悟で、労働時間を短くおさえ、子供といる時間を長くとるが、キャリアの追求を最優先にしている中産階級のシングル・マザーもいる。これに対して、労働者階級(親はブルーカラーの労働者らしいが、本人は水商売をしたり短期のパートをしたり、無職だったり、という職歴)の女性の場合は、子供の教育に関して高いアスピレーションを持たないので、母子手当などの給付を頼り、働かないか働いてもパート労働であるという。

既婚女性の場合、夫の収入が低いほど有業率が高い傾向があると言われており、中産階級の女性ほど専業主婦率が高いと言われている。それに対してシングル・マザーの場合は逆に中産階級の女性のほうが有業率・フルタイム労働率が高いという。このような逆転が生じる一因が再生産戦略であり、中産階級の既婚女性の場合は、専業主婦になって子供のケアに専念したほうが、子供が高い学歴をえる可能性が高いと信じられているのに対して、シングル・マザーの場合は、自分がフルタイムで働くことで、子供が高い学歴をえる可能性が高まると信じられているというわけである。いっぽう労働者階級は子供に高い学歴を得させようとしていないという。これは Breen and Goldthorpe の相対的リスク回避説によく似た仮説である。

しかし、労働者階級の既婚女性は、中産階級の既婚女性よりも有業率が高いと言われて来たのだが、それがなぜなのかは、この仮説だけではうまく説明できない。一定の生活水準を維持するために、労働者階級の既婚女性は働くが、中産階級の女性は夫の収入だけで一定の生活水準を維持できるために働かないというのが通説なのであるが、もしもそうならば、労働者階級のシングル・マザーだってしばしば貧困線上で生活しているわけであるから、もっと働いてもよさそうなものである。

しかし、中途半端に働くと、母子手当額が減ってかえって損をするから、という考え方に Ezawa は言及しており、それが理由なのかもしれない。つまり、労働者階級出身の低学歴女性の場合、フルタイムで働いても得られる収入は限られているので、むしろ母子手当などの給付に依存したほうが合理的であるが、中産階級の場合は、人的資本が高くフルタイムで働けばある程度以上の収入が見込めるので、フルタイムで働くということである。いくつかのメカニズムが錯綜しており、きっちり計算しないとどうなっているのかよくわからないのだが、面白そうな問題ではある。

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