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速水健朗著「ラーメンと愛国」

速水健朗著「ラーメンと愛国」(講談社現代新書、2011年)

個人的に、ラーメンは嫌いではないが、ものすごく好きか、といわれるとそこまででもない。少なくとも、やたらに行列させたり、客に指図したりするラーメン屋とかは頼まれても行きたくない。なのだが、最近各所で話題になっていて、なんだか面白そうじゃん、ということで読んでみたら、やっぱり面白かったので。

最近の本、特に新書や文庫のタイトルは、その本全体の内容をひとことで表現するものというよりは、その本の中で最も「おいしい」ところを印象づけることを目的とする、いわば映画のCMのようなものであることが多いように思う。おそらく、なんとかして手にとらせようという工夫なんだろうから、CM的であるのはむしろ当然なのかもしれない。

その意味でいうと本書も、タイトル通り「ラーメンと愛国」について書かれた本かというと、必ずしもそうとはいいにくい。「ラーメンと愛国」というタイトルに最もよくあてはまるのは第5章「ラーメンとナショナリズム」だろう。もちろん重要な部分ではあるが、少なくともそれが本書の全部ではないし、もっといえば本書が全体として物語るものの本質でもないように思う。

では本書全体としてはどんな本かというと、ひとことでいえば「ラーメンをめぐる日本と日本人の物語」、ぐらいが適切なのではなかろうか。つまりテーマは日本や日本人、ということだ。映画の話にたとえれば、「ラーメン」も「愛国」も、本書の主役級の役者ではあるが映画のテーマそのものではない、といえばわかりやすいかもしれない。

要するに本書は、もし「ラーメンと愛国」についての本だとすれば、「脱線」が多いのだ。ラーメンの本かと思って読み始めた人は、デミングが戦後日本の復興にどんな功績があったとか、ヒトラーが映画好きだったことがどうだとかいう話が延々と続くのに少々うんざりしたりするかもしれない(個人的にはむしろ好きだが)。

もう少し前向きに評価すれば、ジャーナリスティックとでもいうのだろうか。著者の「脱線」ぶりには、表面的な現象をなぞるだけではなく、その裏にあるものを読み解き、大きな流れの中に位置づけようとする執念めいたものを感じなくもない。その事実関係や解釈が適切かどうか(正直、踏み込み過ぎみたいな印象のところも散見される)、専門外である私にはわからないことも多いが、いいたいことは概ねわかるし、共感もできる。

もちろん、ラーメンが本書の中心にあることはまちがいない。本書の「幹」部分は日本におけるラーメン史のようなものであって、そこに戦後の工業化やその後の脱工業化、あるいは近年のナショナリズム再興など、日本の現代史を重ねて見ているわけだ。こういう並べ方はそれ自体充分斬新であり、かつ非常に面白い。

ラーメンはいうまでもなく、そう遠くない昔に中国から伝わった料理である(とされている)わけだが、いまやすっかり国民食として人々の間に定着した。それだけでなく、さまざまな工夫やアレンジが施され、半端な日本料理よりもずっと「日本」をイメージさせるほど「日本的」なものに変化しており、もはや元々の「拉麺(他にも起源については説があるらしいが)」とは似ても似つかないものとなっている。

考えてみれば日本は、多くの食べ物を海外から取り込み、独自の工夫を加えて受容するという歴史を繰り返してきた。本書には書かれていないが、よく知られているように、いまや和食の代表的な料理のといってもいい寿司も天ぷらも、元をたどれば外来の料理であるらしい。その意味では、それらとラーメンを隔てるものは伝来した時期の差しかない、ともいえるのかもしれない。

つまり本書が描いているのは、ラーメンという外来の料理が日本向けに変容しつつ受け入れられていった過程ということになろう。もう少しすれば、もはやラーメンがかつて「支那そば」と呼ばれた時代があったことも忘れ去られ、そばやうどんと同じく、あたかもはじめからそうだったような顔で、和食ラインアップの一画を占めるようになるのではないかと想像する。

「愛国」という要素は、この、ラーメンのいわば和食化とも呼べる変容と深く結びついている、というのが著者の見立てだと思う。近代化やグローバリゼーションなど、画一化、平均化へと向かったために失われた過去や人々のつながりを取り戻そうとしているのが現代社会の流れだとするなら、日本の「食」が失った歴史や個性を、「捏造」された歴史や伝統の力を借りて再構築しようとしている現在のラーメンの姿は、まさに現代の日本社会をその限りにおいて体現するものといえよう。

著者は、こうした流れ自体を、字面の上では必ずしも批判しているわけではないが、どうもそこはかとなく批判めいた雰囲気を感じ取ることはできる。そこまでぶち上げられると、ではいったい何がいいたいのだろうか、ラーメンと日本人の関係はこれからどうなるのかなどと気になるのが人情だが、これがどうにもわからない。そこで本書は終わってしまうからだ。

あとがきによると、本書には「幻の第六章」があったはずだが、「東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所の事故を目の当たりににして、大きく揺らぐこととなった」のだそうだ。なんともとってつけたような理由だが、正直なところ、手に余ったのだろう。筆者自身もあとがきの最後のところでは「これ以上は紙幅も筆者の根気も尽きつつある」と書いている。あまりに脱線満載で手を広げすぎ、やたらに視点を高く置きすぎたせいで、収拾がつかなくなったのかもしれない。そして筆者自身もさることながら、編集者の、というかビジネス的な意味で根気が尽きたというあたりなのではないか。真相はわからないが、いずれにせよこの「食い足りない」感はなんとも残念な気がする。

というわけで、なんとも途中で放り出された気分になってしまうのだが、情報という意味では面白い。参考資料なども載っているので、我こそはという方はぜひ、この続きに書かれたはずの、「日本人の未来とラーメン」について、頭をひねってみるといいのではないか。ほら、日本人はラーメンが、そして何より日本人論が大好きだし。私にはそこまでの熱意はないが。

というわけで、ラーメンと日本人論が大好物の方向けにおすすめ。読むとラーメンについて語りたくなる。食べたくなるかどうかについては保証しないが、なるかもしれないとか期待して、ついでにラーメンのアフィリエイトでもはっておくとするか。

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