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フェイクニュースの需要と供給

下馬評を覆しドナルド・トランプの勝利で幕を閉じた2016年の米国大統領選挙や、これまた事前の予想を覆すブレグジット(EU離脱)賛成という結論が出た英国の国民投票において、主にネット上でばらまかれる虚偽情報、いわゆる「フェイクニュース」が大きな役割を果たした、ということになり、洋の内外を問わず様々なところでフェイクニュースを巡る議論が盛んに行われるようになった。私もいくつかカンファレンス等に参加したのだが、率直に言って、個人的には違和感のある議論が多かったように思う。

なぜ違和を感じたのか自分なりに考えてみたのだが、フェイクニュースについて発言する論者の多くがメディア関係者のせいか、どうもフェイクニュースの供給側に偏った議論が多いせいではないかと思われる。供給側の議論とは、ようするにフェイクニュースをばらまくメディアの側に問題があるということで、例えば業界団体による自主規制であるとか、ファクト・チェックであるとか、情報技術による自動検出とか、嘘を嘘と見抜くためのメディア・リテラシー教育とか、そのあたりが処方箋ということになろう。

それらはもちろん重要なことだ。しかし、フェイクニュース対策として真に役立つかというと、私にはとてもそうは思えない。なぜならば、フェイクニュースの需要側の問題から目を背けているからである。

行きがかり上、海外のろくでもない極右陰謀論サイトを毎日見物し、ろくでもないFOXニュースをくそまじめに視聴している私は、多分日本で一番(少なくとも米国がらみの)フェイクニュースを熱心に見ている人間だと思うのだが、その経験からしみじみ思うのは、フェイクニュースをニュースだと考えると話が分からなくなるということだ。では何なのかというと、思うにフェイクニュースはニュースよりポルノグラフィに近いのである。

どのへんがポルノかというと、一言で言えば「見たい奴に見たいものを見せている」ということだ。ポルノが作り物だの演技だのと言って気にする人はいないと思う。作り物だろうがなんだろうが、自分を興奮させてくれるものを求めるわけだ。それと同じで、そもそもフェイクニュースを消費する人の多くは、正確性や事実を重視していないのである。あからさまにおかしな話でも、見て楽しければそれでよいのだ。

すなわち、フェイクニュースは事実の正確な伝達というニュースの伝統的役割とは無縁のものであって、扇情や価値観の共有・強化こそが最重要なのである。だから、あれは本質的にニュースではなく、エンターテインメントに属するものなのだと考えたほうがよいと思う。

一般に不動産王、実業家と見なされているトランプが、実のところ商売では失敗続きで、実質的にここ20年ほどは単なる人気テレビ・タレントだったこと、私のような保守派から見てもなんだこれはというようなフェイクニュースの多いFOXニュースが、なんだかんだ言って16年間ずっと全米ケーブルテレビ視聴率トップであることが、ある意味証明しているように思うのである。フェイクニュースにだまされているのではなく、フェイクニュースを積極的に選ぶ層というのが相当数存在するということだ。そういった人々へ「正しい」情報を提示することに、果たしてどれくらい意味があるのだろう?

で、ここが重要なのだが、私は実のところ、フェイクニュースが蔓延すること自体が悪いことだと思っていないのである。むしろ、フェイクニュースがニュースであることを前提に、フェイクニュース対策としてオンラインの規制や検閲が世界的になし崩し的に強まりつつあることを懸念している。何が「悪い」言論かは、あくまで立場の問題だからだ。ただ、ここで私が述べたいのはそうした話ではない(そういう話も前に書いたけれど)。

端から見れば異様で事実に基づかない非合理な妄想(トランプ周辺の連中は、いみじくもオルタナティヴ・ファクトと呼んでいたが)であっても、それを信じ、いわばファンタジーに浸って生きる権利が誰にもあると私は思うのである。言い換えれば、人間には愚行権があるということだ。これこそが内面の自由、あるいはこう言うと怒る人もいるかもしれないが、信仰の自由の本質だと私は思うのである。だから、軽く扱ってはならない。

自由論 (光文社古典新訳文庫)

しかし、ジョン・スチュアート・ミルが『自由論』で述べたように、愚行権は他者危害排除の原則で裏打ちされている。馬鹿な話を信奉して馬鹿なことをするのはあくまで当人の勝手だが、それに他人を巻き込んで危害を与えてはならないということだ。そして、政治はしくじると他人に(場合によっては生命に関わるような)被害を与えうる分野である。

だから、フェイクニュースを享受しファンタジーに生きるなら、政治に参加してはならないし、させてもならないという結論が導かれる。すなわちフェイクニュースが問題なのではなくて、フェイクニュースで意志決定が左右されるような人々が担う、現状の民主主義という仕組みそのものがどうかしているのではないか、という議論になるわけだ。

実はここまでは話の枕でありまして、このあと最近読んで面白かった本の紹介をするつもりだったのですが、それはまたそのうち。

Against Democracy

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