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アメリカは高齢者に冷たい社会と言った教授の本音 - 「賢人論。」第57回山口真由氏(中編)

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世銀(World Bank)のデータによると、2016年の日本の高齢化率(総人口に対する65歳以上人口の比率)は世界最高水準の26.86%であるのに対し、アメリカは15.16%だという。日米では家族のあり方だけでなく、社会の年齢構成も大きく違う。山口真由氏の目に、アメリカ社会はどう写ったのか?

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

義務がなければ親の介護費も払わなくていい

みんなの介護 社会の高齢化は、先進国の多くが抱える問題です。日本ほど著しくないとはいえ、アメリカもその問題に直面していると思いますが、どんなことを感じましたか?

山口 家族法の授業で、ある裁判の判例について検証したんですが、私にとってはショッキングな内容でした。

ある人が介護施設で亡くなったんですが、費用をすべて払うことができず、負債になってしまったんです。そこで施設は亡くなった人の息子に費用を請求したんですが、息子はそれを拒否したんですね。つまり、この裁判は「子は親の介護費用を負担する義務はあるか?」を問う裁判なんです。

みんなの介護 どんな判決が出たんですか?

山口 「親の介護費用を子供が負担する必要があるか」について、アメリカには州ごとに異なる法令があります。この裁判では、確か、支払い命令をくだす判決が出たように記憶しています。

もちろん、これは州によって異なるので、他の州では逆の判決もありうるはずです。

みんなの介護 そのようなケースが日本で起こった場合、誰もが「子が支払うのは当然」と考え、支払い義務があるかどうかさえ議論されないでしょうね。

山口 私もそう思ったので、バーソレッテ先生に同じ疑問をぶつけてみました。すると先生はキョトンとした顔をされて、「法律で義務が定められているの?」って、私ももっとびっくりして「法律上の扶養義務はもちろんありますけど、法律の問題というより、私たちにとっては倫理の問題です。法律があってもなくても子どもとして当然だという価値観があります」って答えたら、先生が「法律に義務がなければ、親の介護費用だとしても支払う必要はないでしょ」と。

私が留学した2015年は、大統領選挙のキャンペーンが大々的に行われていて、メディアでは各陣営の演説を盛んに紹介していました。それを目にして私が感じたのは、アメリカは年をとることに価値を見出さない社会なんだなということ。

というのも、ヒラリー・クリントン、ドナルド・トランプという両候補者は、比較的高齢だったわけですが、それが互いに対する攻撃材料にもなる。だから、映像でアピールしているのは、自分がどんなに健康でエネルギッシュであるかということなんですよね。過去の実績や経験の豊かさはもちろん大事ですが選挙戦の終盤で体調を崩したのかふらついたヒラリーの映像は、同情よりは失笑と批判の対象になってしまった。

そんなことを話しながら、日本の家族観では子が親の面倒を見るのが当たり前であることを説明すると、バーソレッテ先生は「確かにアメリカは、高齢者に冷たい社会かもしれないわね」とおっしゃいました。先生自身、お年を召していましたから、そんなことを実感されるようになっていたのかもしれません。


1%の富裕層が半分以上の富を独占しているアメリカ社会

みんなの介護 山口さんがハーバード大学に在学中、アメリカではトランプ政権が誕生し、医療保険制度改革(オバマケア)の存続が危ぶまれましたね。アメリカの医療制度については、どんなことを感じましたか?

山口 日本の医学部を卒業後、アメリカで医師として働いている知人がいるんですが、アメリカの医療保険制度には不備が多々あると言っていました。

例えば、患者さんの病状に合わせてベストな薬を処方しようとしても、保険が適用される薬は限られていて、適用外の薬は経済的な理由で処方できないということがよくあるそうです。保険会社に問い合わせをしながら、やりくりしていくのがとても大変ということでした。

友だちが転んで腰を打って、病院に行くのに付き添ったこともあるんですが、ドクターはレントゲンもとらず、薬品名を言って病院の外にあるドラッグストアの場所を指さすだけでした。それでも、日本では考えられないような高額な診察料を請求される場合もあるそうです。

私が実際に経験したことはごくわずかですが、それでも日本の医療制度がアメリカよりも手厚いものであることは間違いないでしょう。

みんなの介護 アメリカには世界最高水準の医療技術があるといいますが、どうして医療制度は完全ではないのでしょう?

山口 アメリカ社会はよく、1%の富裕層がお金も権力も独占していると言われますよね。歴史的に平等よりも競争を重んじてきた社会で、誰もが平等に保障を受けることができる日本の国民皆保険のような制度を作るのはむずかしいのかもしれません。

もちろん、日本の医療制度にも問題がないわけではありません。私の両親と妹は日本の病院で医師として働いていますが、患者さんがいつも殺到するので診察に満足な時間をかけられないということをよく言っています。時間を区切って、ある意味で流れ作業のように診察していかないと間に合わないというわけですね。

イギリスではそういうことが起こらないよう、専門の資格を持った看護師が医師のかわりに診察できるようになっていると聞きました。

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