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ハーバードで見たアメリカの家族の多様化。日本もその変化と無縁ではない - 「賢人論。」第57回山口真由氏(前編)

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東京大学法学部に在学中、司法試験と国家公務員Ⅰ種に合格。同大学を「オール優」で卒業した後は財務省に入省し、約2年の勤務を経て弁護士に転職。そして、米国・ハーバード大学ハーバード・ロースクールに留学。そんな非の打ちどころのない経歴を持ち、『東大首席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』(PHP研究所)などの著書がヒットしてメディアでも引っ張りだこの山口真由氏。まずは、ハーバード大学で学んだという「家族法」の知見をもとに、自身が大いに驚いたという日米の社会の違いについて語ってもらった。

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

民間精子バンクに“潜入取材”してわかったこと

みんなの介護 ハーバード大学では「表現の自由」や「交渉術」といった授業の他に、「産む権利と正義」の授業を受けたそうですね。日本では馴染みの薄い研究分野だと思いますが、どのようなものなんですか?

山口 子どもを産むか産まないか、産むとしたらどうやって産むのかについての研究で、夫婦関係や親子関係をテーマとした「家族法」に関する一分野です。実は、この分野の研究に興味を持ったことについて、私自身も不思議に思っているんです。

留学する直前までは、日本で6年ほど企業法務の弁護士をしていましたから、知的財産権やIT法務といった、今後の日本で盛んな議論がはじまりそうな分野の研究をすることになるだろうと自分では考えていましたからね。

でも、実際に家族法の授業に出てみると、日本とアメリカの家族に対する考え方があまりにも違うことに興味を持ち、それをきっかけに研究にのめり込んでいきました。

みんなの介護 その“家族法”では、どんなことを研究するのでしょう?

山口 ハーバード大学は面白い体験学習を提供していて、「産む権利と正義」の授業の一環として、アメリカの精子バンク業界に“潜入取材”をしました。

日本ではまだ認知度が低いですが、アメリカでは現代科学を駆使した「生殖補助医療」が驚くほど進んでいて、2015年には9,000億円規模に達するほどの一大産業になっています。

いくつもの精子バンクがあって、中でも大きな民間企業の一つであるカリフォルニア・クリオバンクでは、肌の色、髪の毛の色、人種、身長、体重、学歴などのあらゆる条件を指定して、精子ドナー(提供者)を探すことができるんです。「サッカーのロナウド選手に似ている人」という特殊な条件を指定することもできたりして、とにかくビックリしました。

そこでは、ドナーが自分や家族のことを書いた作文や、スタッフのドナーに対する印象を記したレポートを無料で読むことができます。さらに、特別料金を支払えば、ドナーの幼少期の写真を入手することもできます。

みんなの介護 日本でも「不妊治療」の技術は進んでいますが、アメリカではそれとは別の次元へ向かっているように思えますね?

山口 日本の「不妊治療」は、アメリカの「生殖補助医療」と似ているようで異なります。不妊治療が、排卵誘発剤を使った方法やタイミング法など、あくまで自然な形での妊娠を促す治療を含むのに対して、生殖補助医療は、精子と卵子を体外で受精させた後に女性の子宮に埋め込むといった高度な技術を用いるのです。

こうした精子バンクへの電話リサーチやインタビュー取材をするうちに、精子ドナーとなることが高学歴学生の間で割のいい高収入バイトとして認知されていて、しかも合格率の低い難関バイトだということがわかってきました。


精子ドナーは高学歴学生の人気バイト

みんなの介護 アメリカの精子バンクのドナー(提供者)には、どんな恩恵があるのですか?

山口 1回の精子提供でもらえる金額は100~200ドルで、提供の頻度は最短で3日に1度、多くは1週間に1度程度だといいます。妊活をはじめてすぐに妊娠するという保証はありませんので、これを2年くらい続けるのが原則とのことでした。

仮に週に1度だったとして、2年間続けると9,600~1万9,200ドルというお金が、たいした労力を要せずに入ってくるのです。中でもスタンフォード大学などの有名大学がひしめている西海岸のカリフォルニアでは、ドナーの応募者がつねに殺到しているといいます。

みんなの介護 精子ドナーになるにはどんな試験、いや、検査があるんですか?

山口 まずは、法律で定められた伝染病などの検査の他、自分の病歴や家族の病歴のチェックを受けなくてはなりません。さらに身長180㎝以上で、4年制大学に在籍しているか卒業しているかが最低条件なんだそうです。結局、精子ドナーになろうとする応募者のうち、「遺伝子優良者」として採用されるのは100人に1人、たったの1%しかいないほどの競争率だとされています。

みんなの介護 どのような人が「生殖補助医療」を利用して子どもを産むのでしょう?

山口 日本の「不妊治療」のように、身体的な事情で妊娠するのが難しく、さらに「匿名の男性」の精子の子を産みたいという夫婦が利用するケースの他に、レズビアンやゲイのカップル、パートナーと一緒に子育てをするのではなく、自分一人で子育てをしようと自分の意思で決めた「選択的シングルマザー」の多くが、このような精子バンクを利用して子どもを産んでいます。

みんなの介護 「選択的シングルマザー」という言葉も、日本ではまだ馴染みのない言葉ですね。

山口 ハーバード・ロースクールで家族法を教える教授のうち、何人かは「選択的シングルマザー」でした。私が受けた授業の担当教授であるエリザベス・バーソレッテ先生は、離婚したあとにパートナーを作らず、国際養子縁組で二人の子どもを育てた「選択的シングルマザー」でした。

バーソレッテ先生の研究テーマは養子縁組。大学教授の研究テーマというと、中立的な立場で対象となるテーマを客観的に研究するものというイメージがあるかもしれませんが、自分の生き方と研究がリンクしている教授はハーバードにたくさんいました。バーソレッテ先生の場合も、自らの経験を生かして養子研究の第一人者になったわけですね。

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