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【赤木智弘の眼光紙背】日本社会に必要なものは、糸ではなく網

赤木智弘の眼光紙背:第206回

 毎年恒例となった、日本漢字能力検定協会が発表する「今年の漢字」。2011年の漢字は「絆」に決まったそうである。(*1)  「絆」、じつに素晴らしい言葉である。絆は糸である。私たちは、自分が絆を結びたい人と絆を結び、お互いに支え合う事ができる。糸だからこそ、私たちは絆の結び先を選択することができる。

もしも、絆がネットであるとすれば、私たちが望まない害虫やゴミ虫をも拾い上げてしまう。だから絆は糸でなければならない。「がんばろう日本」と、日本を相手に絆を結ぶ。私たちの大切な子供と絆を結ぶ。子供たちが被曝しないために、東北のがれきは受け入れなず、絆を結ばない。

 福島で農業を再開しようとする農家の方々を「オウムと同じ」と罵り、絆を結ばない。過度な放射線に対する忌避により、不利益を受けるであろう多くの人達。その大半は原子力村の関係者ではなく、僅かな放射性物質の検出により風評被害を受ける農家や、工場で働く人や、増税に苦しめられる貧しい人たちであるが、そうした人たちとの絆を結ばない。そして、福島で生活を維持しようとする人たちに対して「お前たちの子供は癌になるぞ」「将来子供が産めなくなる」と脅し、絆を結ばない。

  「絆」とは、選択と同義の言葉であり、選ばれず、絆を結ばれなかった人たちの存在は、ただ忘れ去られていく。実に「絆」とは、3月11日以降に日本で起きたことを、正確に表した言葉である。

いや、それ以前から日本はそういう社会であった。人が人を選び、選ばれなかった人間は、捨てられ、忘れ去られていく。「今年の漢字」なんて、ずっとくだらない茶番だと思っていたのだが、このような皮肉を表現する年もあるのだなと感心しきりである。

 『困っているひと』(大野更紗 ポプラ社)で、原因不明の難病を発症した大野更紗さんは、本の中で「絆」の限界を描いている。病気だからと友達に助けてもらい続けた結果、友達に心身ともに大きな負担をかけていることに気づけず、大切なものを失ってしまったという。

  もし、病気が風邪であれば、数日友達に看病してもらうこともできる。しかし、いつ治るのかも分からない難病に対し、人の絆だけで立ち向かうことはできない。「誰かが自分を選んでくれること」でしか成り立たない「絆」は、持続的なセーフティーネットには成り得ない。だからこそ、糸状の「絆」ではなく、私たちが望まない人までひっくるめて拾い上げることができる網状の「制度」が、日本社会には必要なのである。たとえ誰にも選ばれなくても、すべての人が生きていくことができる社会を、来年こそは。

  *1:今年の漢字は「絆」 2位「災」、3位「震」(朝日新聞社)http://www.asahi.com/national/update/1212/OSK201112120036.html プロフィール
画像を見る赤木智弘(あかぎ・ともひろ)
1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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