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「教師による排除」が子どもを追い詰める 指導死シンポジウム

教師の指導によって子どもが自殺する「指導死」について考えるシンポジウム「『指導死』はなぜ起こるのか〜善意が子どもを追いつめる〜」が2月25日、名古屋市内で行われた。このシンポジウムは、17年3月、福井県池田町で教師による厳しい叱責が原因で生徒が自殺した事件を受けて開催された。

「指導死」親の会が主催し、全国柔道事故被害者の会と学校事故事件遺族連絡会が協力している。スクールソーシャルワーカー(SSW)のアドバイザーでもある野尻紀恵・日本福祉大准教授は、池田町の自殺についての調査報告書を分析した上で、「個々の教員の問題なのか?」と組織的な背景を語った。

「真っ当な指導なら自殺には追い込まれない」

「指導死」親の会の共同代表・大貫隆志さんによると、教師による指導で児童生徒が自殺に至るきっかけとして、

1)不適切な言動や暴力等を用いた「指導」を、教員から受けたり見聞きすること
2)妥当性、教育的配慮を欠く中で、教員から独断的、場当たり的な制裁が加えられる
3)長時間の身体の拘束や反省や謝罪、妥当性を欠いたペナルティー等を強要される
4)暴行罪や傷害罪、児童虐待防止法での「虐待」に相当する教員の行為

などがあった場合、「指導死」と定義。「ここでいう指導とは、生徒指導だけでなく、教師のすべての振る舞いを指している」という。教育評論家の武田さち子さんの調査によると、平成に入ってから、不適切な指導が児童生徒の自殺に結びついたのは74件。うち1件は未遂。73番目に福井県池田町で起きている。

指導死について話をする大貫さん(撮影:渋井哲也)

「真っ当な指導なら自殺には追い込まれない。真っ当ではない指導が行われているが、それはもはや指導ではなく、支配と呼んだ方がいい」と大貫さんは話す。

「指導死に至るまでに自己効力感が失われている」

野尻准教授は講演「子どもの福祉を学校でつくりあげるために」で、福祉の視点から学校を捉え直すことの重要性を指摘した。その中で、「なぜ学校で子どもが苦労するのか、指導されなければならないのか」と問う上で必要なものとして、「子どもたちが幸せだと思える学校づくり」を強調した。

「日本は先進国の中で、子どもの自己肯定感がダントツに低い。自己効力感がない子が本当に多い。指導死に至るまでにそれが失われている。少なくとも学校教育の中で、福祉の支えがあれば、自己効力感が下がらないのではないか」

また、子どもをどう見ていくかという大人の「子ども観」にも触れた。

「以前は、子どもは “小さな大人”と呼ばれて、大人と同じような生き方をしていても半人前として扱われた。しかし、その後、子どもにも権利があると言われ始めた。一方で、子どもは決定的に弱者でもあり、大人は守り育てる義務がある。特有の権利がある存在だ」

その上で、児童福祉法が改正され、第一条の目的の部分に「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)の精神にのっとり〜」との文言が入ったことを紹介。同条約を踏まえる文言が入っていることは、「子ども・若者育成支援推進法」でも見られる点だ。

福祉の視点を学校に入れる意義について話す野尻日本福祉大准教授(撮影:渋井哲也)

「(児童福祉法の改正で)『権利条約』の精神が入ったのは画期的。福祉の現場を変えていく取り組みが始まった。このことを広めていかないといけない。子どもは権利を持っているということを学校にどう広めていくのかが課題。ところが、最も変わっていないのが学校。多くの教員がこのことを知らないで指導しているため、福祉の人間が学校に入る意義がある」

「生徒が特殊だったから起きたのか」

福井県池田町で、教師の不適切な指導によって中学生が自殺した件では、調査報告書が作成されている。その文面を野尻准教授が読み解き、分析した。

「調査報告書は生徒が特殊だったから起きたというように読める含みのある言い方になっている。生徒が指導にのってこないから、こういう表現になったのか。そして、(公開されている部分では)何が起こったのかが具体的に書かれていない。そして、学校現場の再構築という部分があるが、誰のためなのか」

指導死の本質については、「教員による“いじめ”との指摘がある。しかし、指導死にまで生徒を追い詰めるのは、いじめではなく、排除ではないか。それでは子どもを守る義務は果たせない」と指摘した。

「学校は暴力をなかったことにした」

シンポジウムでは、愛知県刈谷工業高校の野球部で、コーチによるパワハラにより自殺した生徒の遺族で母親の山田優美子さんが話をした。部内に体罰はあったものの、当人への体罰はなかったという。しかし、副部長から呼び出しを受けた日に、学校に行くことなく、自殺した。

「(肩を壊したことなどで)部活をやめようと思ったが、『逃げている』と言われてやめられなかった。そのため、『高校生活、諦めた』と言っていた。翌日から部活へ行くものの、コーチはわざと厳しくしていた。部活をすんなりやめられれば、死ぬことはなかったのではないか」

体罰を行うコーチがいたものの、当人は対象になっていなかった。しかし、他の部員が殴られているのを見て、悲しんでいる様子だった。

「私は甘く見ていた。殴られていないのに学校に何か言ったら、モンスターペアレンツと言われてしまうと思い、静観してしまっていた。それに、亡くなった後に驚いたが、殴られている生徒の親御さんが抗議をすると思っていたが、していなかった。『子どもは殴られて心が鍛えられる』『社会に出たら理不尽なことがある。部活はそれを耐えるためにある』と言っていた。そして、学校は暴力をなかったことにした。『部員は受け入れているので指導だ』と言っていた」

指導死に至る経緯や事後対応について話す登壇者(撮影:渋井哲也)

「教師によるいじめ、パワハラではないか」

北海道立高校の吹奏楽部の顧問による不適切な指導後に自殺した高校生の遺族も登壇した。部員同士のトラブルについて、顧問は、「指導」をしたという。しかし、当事者の一方のみを執拗に指導しており、部員同士のメールを禁止したり、「誰ともしゃべるな。言ったことだけすればいい」などと発言した。これらの行動により、学校内での居場所を失ったことで生徒は自殺した。

「こんな教師がいるのは不運なのか?それとも珍しいのか。SNSについていけない教師が、そのコミュニケーションツールを奪ってしまった。他の部員の前で自分だけが一方的に怒られた。これは教師によるいじめだったり、パワハラではないか。これが指導とされることに納得がいかない」

また、部活動を生きがいの場にしていた生徒だからこそ、家族だけでは子どもは救われないことも指摘した。

「家族は話を聞いていたが、何もできなかった。それなのに、教師を敵に回すような連絡ができたのだろうか。学校や社会は家族のせいだとして、調査もしてくれなかった。アンケートもとったが、シュレッダーにかけられ、部員の分だけが残されていた。それも裁判をして、やっと内容を見ることができた。きちんと事実を共有しないせいで、部員たちは自分を責めていたことが書かれていた。情報を共有して、ケアにつなげ、再発防止に役立ててほしい」

『学校で起きたことはすべて学校の責任』と校長は謝罪

さらに全国柔道事故被害者の会の代表、倉田久子さんも、大外刈りで投げられ、38日後に死亡した柔道初心者の息子のことを話した。柔道事故でも不適切な指導によって死亡する例がある。この名古屋市立向陽高校のケースでは、指導によって死亡事故が発生したものの、学校の事故対応は評価されている。

「名古屋市ではきちんと調査をしてくれた。被害者家族が望むのは、道義的責任にもとづく謝罪、亡くなった状況を知ること、子どもの被害を生かすための再発防止の3つだと思います。しかし、多くの事故では謝罪もしないし、状況を教えてくれない。向陽高校では、校長がすぐに『学校で起きたことはすべて学校の責任』として家族に謝った」

そして、向陽高校の事故が教えてくれたものして、以下の3点を指摘した。

1 預かった子どもを、そのままの姿で家庭に返すのが学校の最低限・最大の責務。それができなかった時は、心のからの謝罪が必要であること

2 すべてを隠さず、誠実に、被害者および被害者家族に寄り添うという姿勢

3 道義的責任と法的責任を区別して考える。すなわち、一人の生徒の命を重く見るということ。すべてはそこから始まる

 

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