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トランプ「鉄鋼・アルミ関税」引き上げ―「被害者意識と癒しの政治」は何をもたらすか

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斜陽産業の保護につながるか

 それでは、何のためにトランプ政権はわざわざ鉄鋼やアルミニウムの関税を大幅に引き上げようとしているのでしょうか。ここであげられる第三の論点は、関税導入の国内的な理由としての、米国の斜陽産業の保護です。

 鉄鋼業は「米国の衰退」の一つの象徴です。米国最大の鉄鋼メーカー、USスチールが本拠を構えるペンシルベニア州ピッツバーグを含む、米国中西部から大西洋岸中部にかけての一帯は、鉄鋼や自動車など重厚長大型の産業拠点が集まり、かつては米国の繁栄を支えた地域です。しかし、技術革新に遅れ、いまやラストベルト(さび付いた工業地帯)とも呼ばれるこの一帯の沈滞は、情報通信企業が集まるカリフォルニア州のシリコンバレーなど太平洋岸の活気とは対照的です。

 かつての栄光が遠のき、設備の更新や原材料地の多角化に遅れた米国の斜陽産業の代表格である鉄鋼業界が、政府に救済を求めることは不思議ではありません。1970年代から噴出した日米貿易摩擦でも、USスチールをはじめとする鉄鋼産業は、自動車産業とともに反日運動の中心にありました。

 現代に目を転じると、この地域の多くの選挙区では2016年大統領選挙でトランプ氏が勝利しました。つまり、国際的な競争に敗れつつある産業分野の人々が、米国の歴代政権が推し進めた自由貿易より、トランプ氏の「米国第一」に希望を託したといえます。この観点からみれば、支持者を優遇するという意味で、競争力の低い業種を支援することは不思議ではありません。

 トランプ政権のウィルバー・ロス商務長官はかつて企業買収などに辣腕をふるった企業家ですが、その経歴には鉄鋼業界での買収なども含まれます。この点も、トランプ政権による鉄鋼業の優遇に拍車をかけているといえるでしょう。

 ただし、鉄鋼業の露骨な優遇は、USスチールなど鉄鋼メーカーにとっては朗報ですが、「米国企業が鉄鋼を調達するコストの向上」につながり、他の米国産業に悪影響を及ぼすものとみられます。実際、鉄鋼アルミ関税の発表を受けて、中小企業からだけでなくゼネラルモーターズやフォードといった大企業からも懸念の声があがっています。少なくとも、この措置が「米国を再び偉大にする」かは大いに疑問です。

米国の「癒し」は何をもたらすか

 今回の鉄鋼・アルミ関税の引き上げ以前から、トランプ大統領はしきりに「自由、公正、互恵的な貿易」が必要だと強調してきました。今回の決定も、米国は「不当に安い」産品を買わされてきたのだ、という「被害者意識」を前面に出すことで、(いろいろと無理のある)新たな関税の導入を正当化しているといえます。

 自分が被害者であると思うことは、かえって相手に対する強気な態度を生みやすくなります。トランプ政権の手法は、傷つき、疲れた米国民にとって「癒し」をもたらすものといえます。したがって、企業やエコノミストの多くが懸念や警戒感を抱くなか、それでもトランプ政権が「斜陽産業の象徴」である鉄鋼業の保護に乗り出したことは、経済的な成果は未知数でも、政治的には中間選挙を控えたトランプ氏にとって「自分の好ましくない状況を誰かのせいにしたい」支持者へのアピールにはなるでしょう

 その一方で、鉄鋼・アルミ関税を引き上げることは、同盟国への締め付けにもつながります。トランプ政権が中国を名指しして「安全保障上の理由」から新関税の導入を正当化したことに対して、日本やヨーロッパ、カナダなどからは「自国の鉄鋼輸出が米国の安全保障を損なうことはない」と強調する意見が噴出しています。実際、トランプ大統領は今回の措置が中国だけでなく全ての国を対象とすると強調しているものの、マティス国防長官らは「新関税の対象から同盟国を除外するべき」と主張していると報じられています。

 つまり、かつてジョージ・ブッシュ大統領(当時)が2001年の同時多発テロ事件の直後に「テロリストの側につくか、我々の側につくか」と二者択一を迫ったのと同じく、トランプ大統領は米国市場を盾に「中国に連なるか、米国の引力圏に入るか」という選択を強要しているといえます。さらに、トランプ政権はTPPを放棄し、各国と再び自由貿易協定(FTA)を個別に結ぶことに意欲的ですが、鉄鋼・アルミ関税の導入は米国への譲歩を余儀なくする圧力にもなり得ます。

 こうしてみたとき、「被害者意識」を前面に掲げ、「米国を癒すこと」を他国にさえ求めるトランプ政権の方針は、支持者にとっての慰めにはなるかもしれませんが、これまで以上に米国が「世界最大の問題児」となるターニングポイントといえるでしょう。

※Yahoo!ニュースからの転載

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