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トランプ「鉄鋼・アルミ関税」引き上げ―「被害者意識と癒しの政治」は何をもたらすか

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 3月2日、トランプ大統領は鉄鋼とアルミニウムの関税をそれぞれ25パーセント、10パーセント引き上げる方針を表明。トランプ大統領は「中国が不当に安い鉄鋼製品を過剰に供給しているために米国の鉄鋼業界が損失を受けている」だけでなく、「兵器の製造などにかかわる鉄鋼製品を海外輸入に依存することは安全保障にかかわる」と強調しています。

 しかし、これは中国だけでなく、日本やヨーロッパ、カナダなどからも強い懸念と反発を呼んでいるだけでなく、米国の主要な企業からも反対意見が噴出。これまででも最も大きなショックといえるトランプ政権の方針には、大きく三つの論点が見出せます。

安全保障を理由に貿易を制限できるか

 第一に、「安全保障」を理由に貿易を制限することは、そもそも認められるのでしょうか。

 トランプ政権の今回の方針は、1962年に成立した米国の国内法、通商拡大法の第232項に基づきます。ここでは「安全保障上の懸念がある場合」に、米国政府は輸入の制限を決定できると定められています。ただし、2001年の同時多発テロ事件の後、米国がそれまでになく警戒態勢を強化していた時を含めて、この条項が適用されたことはありません。

 これはあくまで米国の国内法ですが、世界全体の貿易にかかわる世界貿易機関(WTO)のルールでも、国家の安全保障を理由とした貿易制限は認められています。ただし、それは「戦時」を念頭に置いたもので、「平時」においての適用は異例です。「安全保障」をタテマエに貿易制限を行うなら、他にも同様のことをする国が続出しかねないという意味で、フィナンシャル・タイムズ紙はこれを貿易戦争における「核の選択」と呼びます。

 つまり、今回の「鉄鋼アルミ関税」導入は、少なくとも法的にはぎりぎりセーフでも、「普通ならしないこと」であるばかりか、国際的な貿易ルールそのものを形骸化させかねないといえます。

中国は諸悪の根源か

 第二に、トランプ政権にやり玉にあげられた中国の鉄鋼製品は、果たして米国の鉄鋼業にとって脅威となっているのでしょうか。

 まずワールドアトラスの統計で2015年段階での粗鉄の生産量で比較すると、第1位の中国のそれは8億383万立法トンで世界全体の50.3パーセント。これに日本(1億515万立法トン)、インド(8958万立法トン)と続き、米国は7892万立法トンで第4位でした。これにロシア、韓国、ドイツ、ブラジル、トルコと続きます。

 トランプ政権は「米国を再び偉大な国にする」と叫び、貿易赤字の解消を目指すなか、対中関係において貿易が大きな焦点になってきました。また、中国の主に巨大国有企業で生産される鉄鋼製品が、国際市場を左右する大きな力をもつに至っていることは確かです。

 しかし、中国の生産量が多いのは確かでも、トランプ氏が強調するように、鉄鋼製品が「中国の過剰供給で値崩れをおこしている」とまではいえません。実際、2015年以降、鉄鋼製品の国際価格はやや回復傾向を示しています。ここには世界全体での需給関係が影響しているとみられますが、少なくとも「中国が不当に安く鉄鋼製品を輸出しているせいで米国企業が損害を受けている」とは一概にいえません。

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 さらに、米国の鉄鋼業界が大ダメージを受けるほど、米国は中国製の鉄鋼製品を輸入していません。米国政府の統計によると、2017年の米国の鉄鋼製品の輸入(3447万トン)のうち、最大の輸出国はカナダ(567万トン)で、これにブラジル(466万トン)、韓国(340万トン)、メキシコ(315万トン)、ロシア(286万トン)、トルコ(197万トン)、日本(172万トン)、ドイツ(138万トン)、台湾(112万トン)、インド(74万3000トン)が続きます。中国のそれは74万トンで、米国向け鉄鋼製品の輸出では第11位にとどまります

 これでは「中国との貿易戦争に熱心なヒーロー」を演じることはできても、「中国製の鉄鋼製品に依存することは国防にかかわる」という主張に説得力は生まれません。

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