
不屈のジャーナリスト田原総一朗氏が注目のニュースを解説する「田原総一朗の『ニュースの裏側』」。今回は、北朝鮮の金正日総書記の死の裏側を中心に、今年一年を総括していただいた。【取材:田野 幸伸・文:永田 正行(BLOGOS編集部)】
「金正日死亡は17日」の嘘
―北朝鮮の金正日総書記の死去が12月17日に発表されました。今後の北朝鮮情勢についてのお考えをお聞かせください。
まず金総書記の死亡については、発表している情報が全部嘘だね。例えば、「12月17日に死亡した」と報道されているが、これは100%嘘。死去したのは17日より前だ。
実は12月12~16日まで、インドネシアのユドヨノ大統領が平壌に来ていた。インドネシアというのは、現在北朝鮮と非常に関係の良い国だ。ユドヨノ大統領は、当然金正日に会いにきているのだが、キャンセルされて会えなかった。友好関係にある国のトップが、会いに来たにも関わらず、会えなかったということは通常あり得ない。つまり、金総書記は相当体調が悪かったのではないか、と考えられる。しかし、こういう場合は体調が悪くても会う。短い時間であってもね。それなのに、会えなかったということは、既に亡くなっていた可能性が高い。この説には、最近になって異論も出ているが、金総書記が死去したのは、少なくとも17日ではない。
ここで問題になる一つの事実がある。9月12~16日まで、やはりインドネシアの前大統領(メガワティ前大統領)が平壌に行っている。メガワティ前大統領は、北朝鮮とインドネシアの友好関係を築いた人物だが、この時も金正日に会えていない。この事実をもって、この時に既に死亡していたというつもりはないけれど、この時点で相当体調が悪かったのではないかということは言えるだろう。
では、何故17日まで死亡の発表を伸ばしたのか。
金正日には妹(金敬姫)がいて、その妹には夫(張成沢)がいる。その夫が、北京に17日以前に入って、中国の共産党幹部と会ったという確かな情報がある。張成沢は、何をしに中国に行ったのか。おそらく、中国の指図を受けるためにいったのではないかと思う。
金正日総書記の後継者として、28歳の金正恩の名前が挙がっている。彼は、いわゆるボンボンで、これまでの経験も実績もないし、信用もされていない。金正日と正恩の一番の違いは、修羅場を経験しているかどうかという点だ。正日は父親である金日成の時代に、ロシアで言うスターリン時代のような殺し合いの中で、父親が権力を勝ち取る様子を見ている。そのため、金正日は権力抗争時におけるリスクに対する勘が働くのだが、経験のない正恩は、そうした勘が働かない。
さらに北朝鮮という国は、共産党の幹部たちが国民を弾圧し、完全に抑えつけている。このような秩序を保つためには、上層部が一糸乱れぬ団結をしていなければならない。上層部が乱れてしまったら大混乱になる。少なくとも金正日時代は、一種の恐怖政治を敷いて上層部の団結を維持していた。何故恐怖政治が成功したかというと、正日が修羅場を経験していたからだと思う。例えば先軍政治に代表されるように、軍を如何に大事に扱うかというようなツボを知っていたからだ。
実は小泉さん(小泉純一郎・元首相)が、訪朝した後に、僕は北朝鮮に2度行っている。その時に、拉致被害者のうち8人が亡くなっていると北朝鮮側が小泉さんにいった。
僕は、もし亡くなっているというならば、非常に疑わしいわけだから、「いつ、誰が、どのような経緯で拉致して、どのように亡くなったのかを、当事者が出てきて語るべきだ」「日本は警察力を動員して、実態を日本側に誠実に誠意をこめて説明すべき」として、日朝の国交正常化大使であるチョン・テハに直接話したんだ。5時間ね。
そうすると、チョン・テハは無理だという。「そりゃ、あなたには無理だろうが、金正日総書記には出来るだろう」というと「それも無理だ」と。何故なら「独裁者というのは実は弱いものだ」といったんだね。「金正日総書記が独裁を維持できるのは、軍と秘密警察を握っているからだ。あなたがいうように、『誰が誰を拉致したかを明らかにする』ことは秘密警察機関の弱体化につながる。そんなことをしたら暗殺される」。そんな話をしていたのを聞きました。
つまり、金日成時代に修羅場を経験している金正日は恐怖政治を行う場合に、「どこを抑えるべきか」というのを知っているが、正恩はまったくのボンボンで知らない。だから、このままでは体制の維持は難しいだろうという話だ。
そうした状況の中で、金正日が死んだ。この事実は限られた側近しか把握していなかったが早い段階で中国にだけは教えた。先ほどいったように、金正日の妹の夫が北京にいって、全面的に中国の支持を仰いだ。どういう形で死亡を発表すればいいかという物語をつくったわけだ。
「偉大なる金正日将軍は、最後の最後まで人民に尽くすため、体調不良をおして、視察を行い、その途中でなくなった」という物語。如何に正日将軍が、偉大な人物だったかという物語だ。また、葬式はどうするか。参列の順番はどうするか。こうした、あらゆることに対して、中国からの指示を仰いだのではないかと僕は思っている。そうした指示を受けるまでに17日まで掛かったのではないだろうか。
北朝鮮が混乱して一番困るのは中国だ。中国は朝鮮半島が南北に分かれて喧嘩している状態が一番いい。何故なら、もし朝鮮半島を韓国が統一したら、アメリカの勢力が半島を支配することになる。これは中国にとっては最悪の状態だ。南北に分かれて、北は中国側、南がアメリカ側というのがバランスが取れて一番いい。だから、中国は現在の体制を保つために、あらゆる援助をするだろう。
中国の援助を得たとしても、北朝鮮が秩序を保てるかは、非常に難しいと僕は思っている。だからこそ、今後北朝鮮は長期間喪に服することになると思う。喪に服すということは稟議や何かをしないということだ。やれば、不満が出るに決まっている。だから、おそらく半年から1年、あるいは2年でも3年でも喪に服するかもしれない。それが北朝鮮の現状だね。

金正日氏の国葬で巨大な遺影を掲げて走る乗用車(AP/アフロ) 写真一覧




