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  • Dain
  • 2010年07月09日 00:39

小説の読み方指南=「フランケンシュタイン」+「批評理論入門」

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リンク先を見る 小説の読み方指南の良書、一冊で小説技法と批評理論の両方を俯瞰する。

 読書本は多々あれど、ほとんど対象はノンフィクションに限られる。つまり、すばやく情報を吸収し、的確に批判するためのハウツーを宣伝している。書店の平台に乗っているコピー本のオリジナル、アドラー「本を読む本」を精読すれば事足りるかと→わたしのレビュー : 上から目線の「本を読む本」を10倍楽しく読む方法

 いっぽう、フィクション・小説だと話が違ってくる。小説の読み方を具体的にレクチャーする本は少ない。「小説を読む」という行為は個人的な体験とされているため、客観性を求められる批評がしにくい(と思われがちだ)。また、小説技法を味わうには、一定量の"修練"が必要で、教科的に身につけられるものではないとされる。

 例えば、石原千秋「未来形の読書術」(レビュー)や平野啓一郎「本の読み方」(レビュー)あたりが小説の読書指南として挙げられるが、どちらも内的体験を一般化する試みにすぎない。評論としては面白いし、次の「読み」へつながるかもしれないが、ひとつの批評に限られる。あくまで「ひとつの批評」なのだ。

 こうした小説の批評を束ねたもの、さらに小説の技法を集積したのが、「批評理論入門」になる。悪い言い方になるが、「勉強が可能」なのだ。「小説を読む→楽しむ」という行為は、もっとテクニカルなもの/伝達可能な手法なのだ。

 小説だから、好きに読めばいいんじゃない?確かに。でも、作者が仕掛けた罠や飾りつけをちゃんと驚いて/愛でてあげるのも大切。そのための近道があれば、ためらわずにたどってみよう。自力主義に固執して、多読や精読や原典や教養修行を強要するのは、エリート主義の残骸だと思う。

 本書はゴシック・ホラーの傑作「フランケンシュタイン」を俎上に、「読むとは何か」「小説とは何か」について徹底的に解剖している。二部構成となっており、前半はデイヴィッド・ロッジ「小説の技巧」から小説技法を援用し、後半はヨハンナ・スミス「フランケンシュタイン」の批評理論を適用している。一冊で二度おいしい力作。

 死ぬまでに読みたい本として、「フランケンシュタイン」は先日読了したばかりだが、「批評理論入門」のおかげで嬉しい再発見が多々あった。例えば、「月」の象徴的な意味。西洋において、月は母性の象徴であるとともに、不吉な出来事を予言する目印だという(シェイクスピア劇)。フランケンシュタインが生命創造に没頭しているとき、「月が深夜のわたしの仕事を見守っていた」と描写されているが、この「仕事=labor」に「分娩」という意味を見出す。つまりこれは、フランケンシュタインの出産行為を象徴しているというのだ。

 さらに、惨劇のシーンではヘンリー・フューズリ「夢魔」を持ってくる。
彼女は死んでいた。ベッドに投げ出され、頭が垂れ下がり、苦しみに歪んだ青ざめた顔は、髪の毛で半分覆われていた
これは、「夢魔」そのものだという。睡眠中の女性を襲うインキュバスのイメージで、(作品では見えないが)怪物は彼女をレイプしたというのだ。「んなバカな!」「なるほど!」と意見が割れるかもしれない。だが、この絵を描いたヘンリー・フューズリは、「フランケンシュタイン」の著者メアリの母の愛人だったということが指摘されると、その相似に息を呑むだろう。

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