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「同胞感」を考える ‐鈴木邦男‐

 35年ほど前に、『証言・昭和維新運動』(島津書房)という本を出した。戦前の、いわゆる昭和維新運動を闘った人々を訪ねて話を聞いたのだ。そのような人がまだ生きていた。今のうちに話を聞いておかなくてはと思った。老壮会、三月事件、血盟団事件、5・15事件、神兵隊事件、士官学校事件、2・26事件の関係者を探し出し、話を聞いた。

 僕の本は右翼には評判が悪いが、この本だけは唯一、「いい本だ」と右翼の人に認められている。他の本は「左翼かぶれ」だし、「右翼を馬鹿にしている」が、この本だけは右翼の運動をキチンと書いて評価している。右翼の人に、そう言われる。僕としては、証言を取りながらも、客観的に書いたつもりだが、戦前の運動をやった人への敬意と羨ましさがどうしても文章に出てるのかもしれない。

 だが、証言をした人々は皆、今の(といっても35年前の)右翼運動に批判的だった。たとえば、2・26事件に参加した末松太平さんは、「民族派だなんて自分で自分にレッテルを貼るな」と言って、こう断言した。

 「維新運動は公害撲滅運動一本にしぼっていいと思っています。僕がいま昔の状態の青年将校だったら、それで維新の運動をやりますね」

 何を馬鹿なことを、と思った。反公害運動は必要かもしれないが、右翼には「右翼らしい」運動があるだろうと思っていたのだ。話を聞いたのは70年代半ばだ。60年代から始まった高度経済成長の歪みが公害という形で日本各地で問題になっている。左翼の人々も熱心に取り組んでいた。だからというわけではないが、なにも我々までがやらなくても、と思った。その時、末松さんはこう言った。

 〈それに、「天壌無窮」すなわち「日本の国は天壌と共にきわまりなし」というのが、愛国者の合言葉でしょう。天壌と共にという条件あっての国体なんですよ。その天壌が今やおかしくなってる。天はスモッグで汚れているし、「青雲の志」といって、青い空をながめて青年は志をいだいていたのがそれもなくなった。「山紫水明」もないでしょう。山はよごれてるし、水はきたない。日本を愛し、国体のことを考えるにも、天壌が立派で美しくなくちゃダメでしょう〉

 アレッ? 読んだことがあるな、この話は。と思う人も多いだろう。11月に出した『愛国と憂国と売国』(集英社新書)の序章で紹介したからだ。35年ぶりに末松さんの言葉を思い出した。それが、「右から考える脱原発デモ」の動機にもなっている。天壌というのは天と地だ。それが窮りないのと同じように、天皇を中心とした国体は永遠であり窮りない。そういうことだ。日本人は、特に右翼の人はそう信じてきた。しかし、その天も地も汚れている。そうすると国体そのものも危ういのだ。末松さんは言う。

 35年前は分からなかった。しかし、今は分かる。原発事故で国土は汚されている。住めなくされている。右翼というのならば、愛国者というのならば、これを黙って見てはいられない。これは右だ左だという問題ではない。それで右翼の側からも脱原発運動が起こり、急に増えてきたのだ。亡くなった末松さんが檄を飛ばし、僕らに「立ち上がれ!」と言ったのだ。

 末松さんの発言は、「最後にお聞きしたいのですが、現在の維新運動には何が欠けていると思いますか」という僕の質問に答えたものだ。その時に、「天壌無窮」の話をしたのだが、実はその前に、「同胞感」の話をしたのだ。こう言っている。

 〈維新運動だけではなく、国民全てに言えると思うんだが、昔と違って今は国民の同胞感がなくなっているんじゃないかな。昔は八甲田山で軍人が雪中行軍で遭難した時でも、これは私のいた青森の歩兵五連隊でおきたことだが、国民の全てが同情し、まるでわが同胞が死んだように嘆き悲しんだでしょう。それを悼む歌までつくられ全国で歌われたでしょう。

 逗子の開成中学の生徒がボートで遭難した時もそうでしょう。そして「真白き富士の嶺」という歌までできた。今はそんなことはないじゃないですか。新聞で交通事故や遭難の記事を見たって、わが同胞が死んだように悲しむなんてことないでしょう〉

 確かにそうだ。日々報道される事件や事故が多すぎるからか。すぐに忘れ去られる。でも、東日本大震災や原発のような大事件、大事故は別かもしれない。「絆」だといって同胞感を思い出し、強調しているようだ。35年前の末松さんの言葉が甦ったようだ。

 末松さんの言う同胞感は、何も日本人に限ったことではない。たとえば北朝鮮の金正日総書記が亡くなった。日本政府は弔意を伝えたというし、それは当然だと思う。僕も弔意を表したいとツイッターで書いたら、「何を言ってるんだ!」「許せん!」と批判され、たちまち炎上した。日本人を拉致した国の親玉だ。その死を悼むとは何事か、と言う。新聞もテレビも、識者と言われる人も、誰も弔意を表さない。「これで北朝鮮は崩壊するのではないか」「金正恩体制はどうなる?」「拉致問題はどうなる」…と。そればかりだ。「北朝鮮の人民は(心の中では)喜んでいるはずだ」「嘆いているのは強制されてやらされているだけだ」と言う人もいる。ひどい話だ。嘆きを表す方法は国によって違う。ついこの前まで日本だって同じだったではないか。たとえどんな国家体制であっても、国の指導者を失って嘆く人々を笑う資格が我々にあるのだろうか。他国の人の悲しみを悲しみとする、これも同胞感ではないのか。人間としての同胞感だ。

 僕は北朝鮮には3回行った。そこで痛感したことがある。「日本は拉致問題を言ってるが、本当は、それを通じて我が国を滅ぼそうとしてるのではないか」という不信感だ。被害妄想といってもいい。そんなことはないと言っても納得しない。拉致問題を何としてでも解決しなくてはならない。そのために、どんな手を使っても、彼らを交渉のテーブルにつける必要がある。ところが日本の国家もマスコミも「経済制裁」だけだ。追いつめたら、彼らはギブアップするだろうと。だから、サッカーの時でも、「行くな!」と言った。国会議員の訪朝にも「やめろ!」と言う。指導者が亡くなっても国民は弔意も表明できない。「行くだけでも、現体制を手助けすることになる」と言う人もいる。しかし、違うだろう。それでは、「日本は我が国家を打倒しようとしてるだけだ」という誤解をさらに強めてしまう。国家として、認めているのだし、弔意は表明し、人々の悲しみを理解し、その上で我が国の主張を堂々とぶつけてゆく。それしかないと思うのだが。

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